[PD019] 学問に対する課題価値が質問力とクリティカルシンキング志向性に与える影響
Keywords:課題価値, 質問力, クリティカルシンキング
目 的
学習者が学習内容にどのような価値を求めるのか,現在学んでいる学習にどのような価値評定をしているかという課題価値という概念が存在する(伊田,2001)。日本学術会議(2010)が,学習成果として専門分野ならではの固有性を内在したスキルの獲得の重要性を述べていることから,自分の専攻する学習分野に対する課題価値は,学習成果の構築に対し重要であると考えられる。一方,道田(2011)は,大学生の思考力を高めることが大学教育に求められていると述べている。問うことは思考の根底にある重要な要素だと考えられるため(道田,2007),道田(2011)は大学生に必要な思考力としての質問力と,質問することに対する姿勢である質問態度に対し,授業における質問経験が及ぼす効果を検討している。本研究では,この質問力と質問態度を大学生の学習成果の一側面とみなす。さらに道田(2011)は,質問力は批判的思考の根本的要素であるとしている。以上より,本研究では,学問に対する課題価値が質問力,質問態度,クリティカルシンキング志向性に及ぼす効果を検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 大学3,4年生48名。 質問力測定 道田(2011)では教育心理学に関する文章題材を使用していたが,調査対象者の既有知識の有無が結果に影響する可能性が考えられるため,本研究では伊勢田ら(2013)の批判的思考力に関する教材の“地震の予知”から,1069字を抜き出し,文章題材を作成した。「記載されている文章をよく読み,あなたがその内容に対して質問をしなければいけないとしたらどのような質問を考えるか,また,内容に対してどのような疑問を持つのかをじっくり考えていただき,その質問や疑問を記入していただきます」という教示文を示し,30分の制限時間内で文章に対する質問の記述を求めた。終了後,調査用紙へ回答させた。調査用紙の構成 ①課題価値:伊田(2001)による30項目(7件法)。②クリシン志向性:南(2013)による,クリシン志向性尺度の短縮版から,Non Social版16項目(検証の徹底,探究心,決断力,不偏性,脱軽信),Social版14項目(多様性理解・柔軟性,他者に対する真正性,論理的な理解,脱直感,脱軽信)(7件法)。③質問態度:道田(2011)による6項目(6件法)。
結 果 と 考 察
課題価値尺度は,大学生203名を対象とした予備調査を行い,因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った結果,先行研究通り4因子解(利用価値,興味価値,私的獲得価値,公的獲得価値)が得られた。この結果に基づき下位尺度得点を算出した。本研究で得られた質問の数および質問の質を測定するため,道田(2011)のカテゴリー表を参考に,記述された質問を“単純な説明を求める質問”,“思考を刺激する質問”,“意図不明な質問”に分類した。また,これら3種類の質問数の合計を質問総数とした。課題価値と質問力,質問態度,クリシン志向性との関係を明らかにするため,相関分析を行った(表1)。なお,質問力は分布に偏りが見られたため, Spearmanの相関係数を求めた。分析の結果,利用価値と“検証の徹底”との間に有意な正の相関関係が見られた。経済産業省(2006)は社会人基礎力の中に“考え抜く力”を挙げているが,分野の学習が将来の職業実践に活きると価値づけていると,“考え抜く力”の基礎になると考えられる“検証の徹底”も高いという結果だった。また,興味価値,私的獲得価値と“多様性理解・柔軟性”の間に有意な正の相関関係が見られた。“多様性理解・柔軟性”は心理学で学ぶ内容の一部であると考えられる。本研究の対象者は心理学部の学生であったため,人間に関わる学問である心理学を学ぶことで充実感や満足感が喚起されたり,望ましい自己スキーマを獲得できたりすると価値づけているほど(伊田,2001),“多様性理解・柔軟性”も高くなった可能性が考えられる。しかし,他の学問分野を専攻する学生では異なる傾向が見られる可能性があるため,今後は他学部の学生でも同様に検討し,比較する必要がある。
学習者が学習内容にどのような価値を求めるのか,現在学んでいる学習にどのような価値評定をしているかという課題価値という概念が存在する(伊田,2001)。日本学術会議(2010)が,学習成果として専門分野ならではの固有性を内在したスキルの獲得の重要性を述べていることから,自分の専攻する学習分野に対する課題価値は,学習成果の構築に対し重要であると考えられる。一方,道田(2011)は,大学生の思考力を高めることが大学教育に求められていると述べている。問うことは思考の根底にある重要な要素だと考えられるため(道田,2007),道田(2011)は大学生に必要な思考力としての質問力と,質問することに対する姿勢である質問態度に対し,授業における質問経験が及ぼす効果を検討している。本研究では,この質問力と質問態度を大学生の学習成果の一側面とみなす。さらに道田(2011)は,質問力は批判的思考の根本的要素であるとしている。以上より,本研究では,学問に対する課題価値が質問力,質問態度,クリティカルシンキング志向性に及ぼす効果を検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 大学3,4年生48名。 質問力測定 道田(2011)では教育心理学に関する文章題材を使用していたが,調査対象者の既有知識の有無が結果に影響する可能性が考えられるため,本研究では伊勢田ら(2013)の批判的思考力に関する教材の“地震の予知”から,1069字を抜き出し,文章題材を作成した。「記載されている文章をよく読み,あなたがその内容に対して質問をしなければいけないとしたらどのような質問を考えるか,また,内容に対してどのような疑問を持つのかをじっくり考えていただき,その質問や疑問を記入していただきます」という教示文を示し,30分の制限時間内で文章に対する質問の記述を求めた。終了後,調査用紙へ回答させた。調査用紙の構成 ①課題価値:伊田(2001)による30項目(7件法)。②クリシン志向性:南(2013)による,クリシン志向性尺度の短縮版から,Non Social版16項目(検証の徹底,探究心,決断力,不偏性,脱軽信),Social版14項目(多様性理解・柔軟性,他者に対する真正性,論理的な理解,脱直感,脱軽信)(7件法)。③質問態度:道田(2011)による6項目(6件法)。
結 果 と 考 察
課題価値尺度は,大学生203名を対象とした予備調査を行い,因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った結果,先行研究通り4因子解(利用価値,興味価値,私的獲得価値,公的獲得価値)が得られた。この結果に基づき下位尺度得点を算出した。本研究で得られた質問の数および質問の質を測定するため,道田(2011)のカテゴリー表を参考に,記述された質問を“単純な説明を求める質問”,“思考を刺激する質問”,“意図不明な質問”に分類した。また,これら3種類の質問数の合計を質問総数とした。課題価値と質問力,質問態度,クリシン志向性との関係を明らかにするため,相関分析を行った(表1)。なお,質問力は分布に偏りが見られたため, Spearmanの相関係数を求めた。分析の結果,利用価値と“検証の徹底”との間に有意な正の相関関係が見られた。経済産業省(2006)は社会人基礎力の中に“考え抜く力”を挙げているが,分野の学習が将来の職業実践に活きると価値づけていると,“考え抜く力”の基礎になると考えられる“検証の徹底”も高いという結果だった。また,興味価値,私的獲得価値と“多様性理解・柔軟性”の間に有意な正の相関関係が見られた。“多様性理解・柔軟性”は心理学で学ぶ内容の一部であると考えられる。本研究の対象者は心理学部の学生であったため,人間に関わる学問である心理学を学ぶことで充実感や満足感が喚起されたり,望ましい自己スキーマを獲得できたりすると価値づけているほど(伊田,2001),“多様性理解・柔軟性”も高くなった可能性が考えられる。しかし,他の学問分野を専攻する学生では異なる傾向が見られる可能性があるため,今後は他学部の学生でも同様に検討し,比較する必要がある。