[PD062] 乳幼児支援システム先進地における特別な教育的ニーズのある子どもへの小学校移行支援に関する研究
「移行支援シート」の開発・活用を通して
Keywords:小学校移行支援, 教育的ニーズ, 移行支援シート
問題と目的
近年,特別な教育的ニーズのある子どもへの教育的支援において,就学前教育から小学校,小学校から中学校等の移行を支える支援体制の整備が重要視されるようになった。A市は,「発達障害早期総合支援モデル事業」指定を受け,乳幼児期の支援が充実した地域である(大神,2008)。しかし,得られた情報が,小学校で支援を行うために,有効に活用されていないことが課題として挙げられている(重冨・納富,2013)。これらのことから,本研究では,引継ぎのツールとなる「移行支援シート」の開発・活用を行い,事例研究でその効果を明らかにすることを目的とする。
方法
研究時期:2012年12月~2013年6月
対象:A市要保護児童ネットワーク会議(発達支援部会)で情報交換が行われている小学校移行期の子ども(6名)
手続き:①「A移行支援シートの開発」
開発に当たり留意したのは以下の2点である。①就学前の情報を集約できる,②子どもの良さや得意なこと,これまで有効であった支援・有効でなかった支援を引き継げる。作成した様式は,A市地区特別支援教育連盟担当管理職及び事務局長(特別支援教育士),A市B小学校特別支援学級担任に持参し,様式の検討を重ね最終版を確定した。
②「A移行支援シートの活用」
報告者が子どもの在籍する就学前機関の責任者及び保護者に趣旨説明を行った。行政主体の情報と学校主体の情報は,それぞれの学校担当者の記録を,報告者がシートに転記した。さらに,管理職及び園長の許可を得て,報告者が就学前機関を訪問し,対象児童の良さや特技,これまで有効だった支援を聴き取り,シートにまとめた。このシートは,入学前の引継ぎ会,児童支援委員会,子どもを見つめる会(全職員共通理解の場)で活用した。
評価方法及び時期:1年担任・特別支援学級担任及び入学後の1年補助を行った教師への半構造化面接(6月),就学前教育担当者への半構造化面接(6月の保幼小連絡会開催時),保護者連絡帳記入文面の分析(4・5・6月),保護者への半構造化面接(6月)。
結果
担任教師や就学前担当者への半構造化面接の結果,6名児童共に,就学前機関担当者や保護者が挙げていた入学後予想される課題の全項目において,児童の適応の改善が見られた。代表児童Bについて,「A移行支援シート」に記載された課題及び実際の支援,児童の変容を表1に示す。また,児童B保護者においては,連絡帳への心配事の記入回数が4月10回中6回,5月10回中1回,6月6回中1回と減少し,内容面でも,心配や不安からの記述が家庭での状況報告に変化した。半構造化面接では「子どもは学校が楽しく学校の話をよくする。できるようになった事をたくさん家で披露し,野菜もたくさん食べられるようになった。安心している。」との回答を得た。さらに,関係教師の半構造化面接では,4名全ての教師が,「糸島移行支援シート」が入学後の子どもの支援に有効であったと回答した。「何度も見直して活用した。実態がよくわかった。見通しが持てた。緊急時に迅速に対応できた」などの回答を得た。
考察
教育的ニーズのある子どもの小学校移行支援において「移行支援シート」での引継ぎの有効性が示された。重冨・納富(2013)は,移行期の支援において,特別な教育的ニーズのある子どもの状態や課題の共有にとどまらず,「就学前教育で有効だった手立てや子どもの良さ」を引き継ぐ事で,さらに小学校現場で有効な情報となる可能性があると述べており,この知見を支持するものとなった。また,保護者においても,連絡帳の記述や半構造化面接から不安の改善が確認された。小学校移行期に,行政・就学前機関・学校・保護者が連携し,「移行支援シート」を作成・活用し,子どもの実態や良さ,有効だった支援を小学校に引き継ぐことは,子どもだけでなく保護者や担任教師にとっても有効となる事が示唆された。今後,入学後早期に個別の指導計画として教育課程に反映させ,支援を継続していく必要性があると考える。
近年,特別な教育的ニーズのある子どもへの教育的支援において,就学前教育から小学校,小学校から中学校等の移行を支える支援体制の整備が重要視されるようになった。A市は,「発達障害早期総合支援モデル事業」指定を受け,乳幼児期の支援が充実した地域である(大神,2008)。しかし,得られた情報が,小学校で支援を行うために,有効に活用されていないことが課題として挙げられている(重冨・納富,2013)。これらのことから,本研究では,引継ぎのツールとなる「移行支援シート」の開発・活用を行い,事例研究でその効果を明らかにすることを目的とする。
方法
研究時期:2012年12月~2013年6月
対象:A市要保護児童ネットワーク会議(発達支援部会)で情報交換が行われている小学校移行期の子ども(6名)
手続き:①「A移行支援シートの開発」
開発に当たり留意したのは以下の2点である。①就学前の情報を集約できる,②子どもの良さや得意なこと,これまで有効であった支援・有効でなかった支援を引き継げる。作成した様式は,A市地区特別支援教育連盟担当管理職及び事務局長(特別支援教育士),A市B小学校特別支援学級担任に持参し,様式の検討を重ね最終版を確定した。
②「A移行支援シートの活用」
報告者が子どもの在籍する就学前機関の責任者及び保護者に趣旨説明を行った。行政主体の情報と学校主体の情報は,それぞれの学校担当者の記録を,報告者がシートに転記した。さらに,管理職及び園長の許可を得て,報告者が就学前機関を訪問し,対象児童の良さや特技,これまで有効だった支援を聴き取り,シートにまとめた。このシートは,入学前の引継ぎ会,児童支援委員会,子どもを見つめる会(全職員共通理解の場)で活用した。
評価方法及び時期:1年担任・特別支援学級担任及び入学後の1年補助を行った教師への半構造化面接(6月),就学前教育担当者への半構造化面接(6月の保幼小連絡会開催時),保護者連絡帳記入文面の分析(4・5・6月),保護者への半構造化面接(6月)。
結果
担任教師や就学前担当者への半構造化面接の結果,6名児童共に,就学前機関担当者や保護者が挙げていた入学後予想される課題の全項目において,児童の適応の改善が見られた。代表児童Bについて,「A移行支援シート」に記載された課題及び実際の支援,児童の変容を表1に示す。また,児童B保護者においては,連絡帳への心配事の記入回数が4月10回中6回,5月10回中1回,6月6回中1回と減少し,内容面でも,心配や不安からの記述が家庭での状況報告に変化した。半構造化面接では「子どもは学校が楽しく学校の話をよくする。できるようになった事をたくさん家で披露し,野菜もたくさん食べられるようになった。安心している。」との回答を得た。さらに,関係教師の半構造化面接では,4名全ての教師が,「糸島移行支援シート」が入学後の子どもの支援に有効であったと回答した。「何度も見直して活用した。実態がよくわかった。見通しが持てた。緊急時に迅速に対応できた」などの回答を得た。
考察
教育的ニーズのある子どもの小学校移行支援において「移行支援シート」での引継ぎの有効性が示された。重冨・納富(2013)は,移行期の支援において,特別な教育的ニーズのある子どもの状態や課題の共有にとどまらず,「就学前教育で有効だった手立てや子どもの良さ」を引き継ぐ事で,さらに小学校現場で有効な情報となる可能性があると述べており,この知見を支持するものとなった。また,保護者においても,連絡帳の記述や半構造化面接から不安の改善が確認された。小学校移行期に,行政・就学前機関・学校・保護者が連携し,「移行支援シート」を作成・活用し,子どもの実態や良さ,有効だった支援を小学校に引き継ぐことは,子どもだけでなく保護者や担任教師にとっても有効となる事が示唆された。今後,入学後早期に個別の指導計画として教育課程に反映させ,支援を継続していく必要性があると考える。