[PF056] 総合評価ツールを用いた中高生の学習の縦断的検討(2)
テスト成績に及ぼす学習方略と学習志向性の影響
Keywords:学習方略, 学力, 生活習慣
問題と目的
児童生徒の成績の向上のためには,教科指導と並び,学習意欲の向上,学習方略の指導,生活改善等を行う必要がある。この内,最も具体的に指導可能なのが学習方略と生活改善である。特に,学習方略は,藤田・岩田(2002)等でも学業成績との関係が既に述べられており,更にPISAの成績についても影響があることが,須藤(2010)によって示されている。本研究では,中学生の実際のテスト成績のデータと,同時期に実施した評価ツール・データを分析し,学習方略の使用度とテスト成績の関連,学習に関連した日常の活動と成績の関連を,1)1月単独で検討の後,2)9月から翌1月への2時点の変化のデータに基づいて検討した。
方 法
分析対象データ 研究1:2013年12月から2014年2月までに,「ワオ!のヤル気診断」(以下,評価ツール)に回答した全国の中学生3,019(中1生1,444,中2生1,575)名の内,1月実施の「公開実力テスト」(以下,テスト)受験者2,545(中1生1,233,中2生1,312)名を対象とした。研究2:研究1の対象者の内,9月テストと同時期に評価ツールに回答した1,711(中1生892,中2生819)名を対象とした。
分析項目 1.学習方略:勉強内容を理解し,定着させるための4つの学習方略を測定する16項目の尺度。英数国3教科の幾つの教科で使うかを回答した(藤田・岩田(2001)と伊藤・神藤(2003)を参考に作成)。関係,反復,整理,確認からなる。なお,9月と1月では,項目に異同があるため,研究2については,「反復」は共通する3項目,「確認」は共通する2項目で分析を行った。2.潜在的教科力:高学力の生徒の生活習慣に経験的に見出される学習志向性を指標化する12項目の尺度。「文系」「理系」「外国語」からなる。3.成績:テスト(9月,1月実施)の英数国各科目及び3科目の偏差値。
結 果 と 考 察
研究1 3科目成績について,学習方略使用度の上位群と下位群でt検定を行い、効果量g(Hedges, 1981)を算出して群間の平均値差を検討した。その結果は,関係(t(2357)=5.38, p<.01, g=.26),反復(t(2304.01)=3.27, p<.01, g=.13),整理(t(2531)=.62, n.s., g=.02),確認(t(2438.97)=12.33, p<.01, g=.49)であった。また,3科目成績と4つの学習方略との相関係数(N=2,520)は,関係 r=.16,反復 r=.04,整理 r=.02,確認 r=.27であった。
このことから,「関連」「確認」は成績に影響するが「整理」は殆ど影響がないと判断できる。但し,「関係」については利用水準が低く,学習者が有
効に活用できていない。
表1に「潜在的教科力」と成績との相関は示した。
「理系」と「数学」,「外国語」と「英語」の相関は他科目に比べて高く,一方,「文系」は「国語」「英語」と弱い相関が見られた。また「理系」と「国語」の相関は,「文系」と「国語」の相関とほぼ同じであった。よって,構造や因果関係を論理的に思考するという「理系」潜在的教科力は文章理解に有利に働くが,対人コミュニケーション的な「外国語」潜在的教科力は「数学」はもちろん,「国語」に対してもあまり影響しないと言える。
研究2 各方略について,9月時点の成績(上位・中位・下位)を基準とした成績変動群(上位維持群・上位下降群・中位上昇群・中位維持群・中位下降群・下位上昇群・下位維持群)に分けた。これを参加者間要因とし,使用水準の時点(9月,1月)を参加者内要因として,2要因混合計画の分散分析を,全体及び9月の成績群ごとに行った。「関係」は成績変動群が有意(F(6, 1693)=3.00, p<.01)であり,多重比較では上位維持群と下位上昇群・下位維持群間が有意であった。また9月の成績群における分析では,上位群において,成績変動群が有意(F(1, 415)=5.26, p<.05)であった。上位群において安定的に用いられることで,特に効力を発揮する方略と言える。「整理」については,全体及び9月中位群の分析において,時点のみ有意(共にp<.05)であり,中位群を中心に全体として使用水準の減少傾向が示された。研究1の結果同様,成績にはほぼ関与しないと言える。「反復」は,9月下位群の分析において,成績変動群が有意(F(1, 431)=5.30, p<.05)であり,下位群における安定的な使用が成績の向上に資する方略であると言えるが,上位群・中位群では効果的であるとは言えない。「確認」は,全体の分析で成績変動群が有意(F(6, 1701)=13.21, p<.01)であり,多重比較の結果から,成績上位群で多用される傾向が示された。また,9月時点の中位群の分析において成績変動群(F(2, 850)=5.08, p<.01)と交互作用(F(2, 850)=3.12, p<.05)が有意であった。恒常的かつ安定的な使用水準の差が成績差となっている一方で,特に中位群においては,1月に成績が上昇していた群は,維持群・下降群に比べ,使用水準が増加していることから,その使用水準の変化が比較的短期に成績の変動を引き起こすという点で,成績向上に最も効果的な方略であると言える。
児童生徒の成績の向上のためには,教科指導と並び,学習意欲の向上,学習方略の指導,生活改善等を行う必要がある。この内,最も具体的に指導可能なのが学習方略と生活改善である。特に,学習方略は,藤田・岩田(2002)等でも学業成績との関係が既に述べられており,更にPISAの成績についても影響があることが,須藤(2010)によって示されている。本研究では,中学生の実際のテスト成績のデータと,同時期に実施した評価ツール・データを分析し,学習方略の使用度とテスト成績の関連,学習に関連した日常の活動と成績の関連を,1)1月単独で検討の後,2)9月から翌1月への2時点の変化のデータに基づいて検討した。
方 法
分析対象データ 研究1:2013年12月から2014年2月までに,「ワオ!のヤル気診断」(以下,評価ツール)に回答した全国の中学生3,019(中1生1,444,中2生1,575)名の内,1月実施の「公開実力テスト」(以下,テスト)受験者2,545(中1生1,233,中2生1,312)名を対象とした。研究2:研究1の対象者の内,9月テストと同時期に評価ツールに回答した1,711(中1生892,中2生819)名を対象とした。
分析項目 1.学習方略:勉強内容を理解し,定着させるための4つの学習方略を測定する16項目の尺度。英数国3教科の幾つの教科で使うかを回答した(藤田・岩田(2001)と伊藤・神藤(2003)を参考に作成)。関係,反復,整理,確認からなる。なお,9月と1月では,項目に異同があるため,研究2については,「反復」は共通する3項目,「確認」は共通する2項目で分析を行った。2.潜在的教科力:高学力の生徒の生活習慣に経験的に見出される学習志向性を指標化する12項目の尺度。「文系」「理系」「外国語」からなる。3.成績:テスト(9月,1月実施)の英数国各科目及び3科目の偏差値。
結 果 と 考 察
研究1 3科目成績について,学習方略使用度の上位群と下位群でt検定を行い、効果量g(Hedges, 1981)を算出して群間の平均値差を検討した。その結果は,関係(t(2357)=5.38, p<.01, g=.26),反復(t(2304.01)=3.27, p<.01, g=.13),整理(t(2531)=.62, n.s., g=.02),確認(t(2438.97)=12.33, p<.01, g=.49)であった。また,3科目成績と4つの学習方略との相関係数(N=2,520)は,関係 r=.16,反復 r=.04,整理 r=.02,確認 r=.27であった。
このことから,「関連」「確認」は成績に影響するが「整理」は殆ど影響がないと判断できる。但し,「関係」については利用水準が低く,学習者が有
効に活用できていない。
表1に「潜在的教科力」と成績との相関は示した。
「理系」と「数学」,「外国語」と「英語」の相関は他科目に比べて高く,一方,「文系」は「国語」「英語」と弱い相関が見られた。また「理系」と「国語」の相関は,「文系」と「国語」の相関とほぼ同じであった。よって,構造や因果関係を論理的に思考するという「理系」潜在的教科力は文章理解に有利に働くが,対人コミュニケーション的な「外国語」潜在的教科力は「数学」はもちろん,「国語」に対してもあまり影響しないと言える。
研究2 各方略について,9月時点の成績(上位・中位・下位)を基準とした成績変動群(上位維持群・上位下降群・中位上昇群・中位維持群・中位下降群・下位上昇群・下位維持群)に分けた。これを参加者間要因とし,使用水準の時点(9月,1月)を参加者内要因として,2要因混合計画の分散分析を,全体及び9月の成績群ごとに行った。「関係」は成績変動群が有意(F(6, 1693)=3.00, p<.01)であり,多重比較では上位維持群と下位上昇群・下位維持群間が有意であった。また9月の成績群における分析では,上位群において,成績変動群が有意(F(1, 415)=5.26, p<.05)であった。上位群において安定的に用いられることで,特に効力を発揮する方略と言える。「整理」については,全体及び9月中位群の分析において,時点のみ有意(共にp<.05)であり,中位群を中心に全体として使用水準の減少傾向が示された。研究1の結果同様,成績にはほぼ関与しないと言える。「反復」は,9月下位群の分析において,成績変動群が有意(F(1, 431)=5.30, p<.05)であり,下位群における安定的な使用が成績の向上に資する方略であると言えるが,上位群・中位群では効果的であるとは言えない。「確認」は,全体の分析で成績変動群が有意(F(6, 1701)=13.21, p<.01)であり,多重比較の結果から,成績上位群で多用される傾向が示された。また,9月時点の中位群の分析において成績変動群(F(2, 850)=5.08, p<.01)と交互作用(F(2, 850)=3.12, p<.05)が有意であった。恒常的かつ安定的な使用水準の差が成績差となっている一方で,特に中位群においては,1月に成績が上昇していた群は,維持群・下降群に比べ,使用水準が増加していることから,その使用水準の変化が比較的短期に成績の変動を引き起こすという点で,成績向上に最も効果的な方略であると言える。