The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PC

Wed. Aug 26, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PC014] 小学校教師の協働学習における状況判断と支援順序

グループへの評価と協働学習の目標の観点から

児玉佳一 (東京大学大学院)

Keywords:協働学習, 状況判断, 支援順序

問題と目的
協働学習は学習や社会性の育成に対して効果的な学習方法とされている一方で,必ずしも効果的な学習となるとは限らないことが示されている(e.g., Webb, 2013)。ゆえに,有意味な協働学習のためには,学校現場では教師の支援が重要となる。
協働学習を支援するために,教師は協働学習中の様々な状況について判断する必要があるが,協働学習中の教師の状況判断についてはあまり検討されていない。児玉(2015 教師学学会)は,小学校教師の協働学習中の状況判断において,「課題の理解(理解)」「友人との交流(交流)」「学習への参加(参加)」といった“協働学習の目標”の達成の有無が,グループへの評価と関連することを示した。ここからさらに,状況判断と支援や,“協働学習の目標”と支援の関連性を検討する必要があるだろう。
そこで本研究では,グループへの支援順序を取り上げ,協働学習中の教師の状況判断や“協働学習の目標”との関連について明らかにすることを目的とする。特に,児玉(2015)を参考に,以下の仮説を検証する。
仮説1:活動が上手くいっていないと評価されるグループほど,支援順序は早くなる傾向にある。
仮説2:「学習への参加」の達成有無が,他の目標よりも支援順序に影響する。
方 法
対象者 小学校教師128名(男性49名,女性79名,平均教職年数15.8±11.5年)。
課題と手続き 協働学習の目標は,出口(2001)や全国協同学習研究会(2014)を参考に,「理解」,「交流」,「参加」を設定した。これら3つの目標の達成の有無をそれぞれ操作した場面想定課題を6場面作成した(発表当日資料配布)。そして場面想定課題提示後,各場面について,「各グループへの評価(活動が上手くいっていると思う程度:5件法)」,「各グループに対する支援順序と,その支援順序とした理由(自由記述)」を尋ねた。その他の質問項目については,紙面の都合上省略する。
結果と考察
仮説1の検証 各教師のグループへの評価と支援順序の相関分析を行った。相関係数は,順序尺度と間隔尺度の相関係数である,ポリシリアル相関係数を教師ごとに算出した。もしグループへの評価が低いほど支援順序が早くなるのであれば,ポリシリアル相関係数は正の値を示す。算出されたポリシリアル相関係数の平均値はr=.63(95%CI[.55, .71])であり,有意であった(t(119)=15.16, p<.01)。ゆえに,仮説1は支持され,グループへの評価が低いほど,支援順序は早くなる傾向が示された。また,支援順序を決定する際に教師は,適切に活動ができているかといったグループに対する評価を判断に用いていることが示唆された。
仮説2の検証 協働学習の各目標が支援順序に与える影響を調べるために,各目標の“順序への影響度”を算出した。“順序への影響度”は,ある目標の達成の有無以外が同じ状態のグループ間の,支援順序の差分値である(例えばグループAは「理解」「交流」「参加」が達成されており,グループCは「交流」「参加」が達成されている。ここで,Aの支援順序とCの支援順序の差分値を求めることで,「理解」についての“順序への影響度”を算出できる。他のグループ間でも同様の計算を行う)。“順序への影響度”は,その目標の達成有無によって順序が変動する程度を示す。教師ごとに各目標の“順序への影響度”を算出し,1要因3水準の参加者内分散分析を行った。その結果,目標の要因が有意となり(F(2, 254)=13.52, p<.01, η2=.10),多重比較(Ryan法)の結果,「理解」と「交流」,「参加」と「交流」の間に有意差が示された(ともにp<.01)。この結果から仮説2は一部支持された。「参加」は,グループへの評価についても,その後の支援順序についても影響力の大きい,教師が拠り所にする目標であると推測される(e.g., Gillies & Boyle, 2010)。一方で,協働学習の特徴的な目標とされる「交流」は,グループへの評価同様,あまり大きな影響力は示されなかった。今後「交流」について,教師がどのような認識を持っているか精査する必要があるだろう。