[PC017] 小数・分数の数変換の知識が小数・分数の学習に及ぼす影響
Keywords:小数, 分数, 思考過程
問題と目的
本研究では,小数を分数に,分数を小数に値を変換することを「数変換」とする。数変換については,学習指導要領第5学年の内容に,「整数及び小数を分数の形に直したり,分数を小数で表したりすること」とあり,分数の理解を深めるという位置づけである。小数・分数は小学校算数の中では子どもたちにとって学習が困難な内容の一つであるが,中学校数学の有理数の概念にもつながる重要な概念である。
これまでの研究から,児童にとって数変換の理解は困難であることが示されている。清水・竹本(1996)は,小数・分数概念の不十分さによって,小数・分数の相互の表現の変換や両者の大小比較が困難であることを明らかにしている。
清水・竹本(1996)では,対象者が数変換を学習する以前の小学4年生であるため,上記のような結果が得られた可能性が考えられる。そこで,本研究では,数変換を学習済みの小学5年生を対象とし,数変換について子どもたちがどの程度理解しているのか,また,どのような誤りが見られるのかを検討することを目的とする。
方 法
[対象者]:都内の公立小学校の5年生76名(男子38名,女子38名)。 [テスト材料]:「分数を小数に変換する課題」(例:12/25を小数で表す)「小数を分数に変換する課題」(例:0.36を分数で表す)「文章課題」(2mのテープを5人で等分すると,1人分は何mか。小数と分数で表わせ。)「数直線課題」(例:4/10を数直線に表す)の4種類計6問を用いた。また,各課題について,答えを出すときにどのように考えたのか,思考過程についての自由記述を求めた。 [手続き]:質問紙による一斉調査を行った。実施時期は2014年12月であった。
結果と考察
[正答率と得点化]:「分数を小数に変換する課題」計2問の平均正答率は67.8%,「小数を分数に変換する課題」計2問の平均正答率は87.5%,「文章課題」は小数88.2%,分数81.6%,「数直線課題」は平均正答率87.5%(4/10 :92.1%, 0.3: 92.1%, 3/5: 75.0%, 1.2: 90.8%)であった。1問につき1点,計10点と得点化した結果,平均得点は8.30点(SD=2.11点)であり,全般的に高い得点となっていた。また,「分数を小数に変換する課題」と「小数を分数に変換する課題」の平均点を算出したところ,「分数を小数に変換する課題」は1.36点(SD=0.76点),「小数を分数に変換する課題」は1.75点(SD=0.65点)であった。両者の平均点に差が見られるのかを検討するため対応のあるt検定を行った結果,有意差が得られ(t(75)=4.13, p<.001),「分数を小数に変換する課題」よりも「小数を分数に変換する課題」の方が得点が高いことが明らかとなった。
分数・小数の数変換の困難さを検討するため,「分数を小数に変換する課題」と「小数を分数に変換する課題」を中心に,未回答率および誤答分析を行った。
[未回答率]:各課題に対して,未回答者は以下の通りであった。「分数を小数に変換する課題①」3名(3.9%),「分数を小数に変換する課題②」10名(13.2%),「小数を分数に変換する課題①」2名(2.6%),「小数を分数に変換する課題②」4名(5.3%)であった。
[誤答分析]:各課題に対して,どのような誤りが見られるのかを検討するため,思考過程の記述に基づき,誤った回答の分類を行った。「分数を小数に変換する課題①」では,「計算ミス」,「数変換の手続き」を,「分数を小数に変換する課題②」では,「計算ミス」,「数変換の手続き」,「位取り」のカテゴリを設定し,いずれにも該当しない誤答を「その他」とした。「分数を小数に変換する課題①」では,11名に誤答が見られ,そのうち「数変換の手続き」8名(10.5%),「計算ミス」2名(2.6%),「その他」1名(1.3%)であった。「分数を小数に変換する課題②」では,26名に誤答が見られ,そのうち「数変換の手続き」15名(19.7%),「計算ミス」3名(5.3%),「位取り」3名(3.9%),「その他」4名(5.3%)であった。「小数を分数に変換する課題」では,「位取り」,「計算ミス」,「その他」のカテゴリを設定した。「小数を分数に変換する課題①」では,7名の誤答が見られ,そのうち「位取り」3名(3.9%),「計算ミス」3名(3.9%),「その他」1名(1.3%)であった。「小数を分数に変換する課題②」では,5名に誤答が見られ,そのうち「位取り」2名(2.6%),「計算ミス」1名(1.3%),「その他」2名(2.6%)であった。
「分数を小数に変換する課題」の誤答率が高いことから,数変換の手続きに課題がある可能性が示唆される。また,「分数を小数に変換する課題②」では,未回答率が高く,これは問題文に「1/1000の位までの小数で表せ」と記してあることから,位取りができない児童が未回答となったと考えられる。位取りによって未回答,誤答となった人数は,計5名(6.8%)であった。今後の課題は,さらに子どもたちの数変換に関する理解を検討するために,それぞれの課題を関連させながら個人の思考傾向を中心に検討していく。
本研究では,小数を分数に,分数を小数に値を変換することを「数変換」とする。数変換については,学習指導要領第5学年の内容に,「整数及び小数を分数の形に直したり,分数を小数で表したりすること」とあり,分数の理解を深めるという位置づけである。小数・分数は小学校算数の中では子どもたちにとって学習が困難な内容の一つであるが,中学校数学の有理数の概念にもつながる重要な概念である。
これまでの研究から,児童にとって数変換の理解は困難であることが示されている。清水・竹本(1996)は,小数・分数概念の不十分さによって,小数・分数の相互の表現の変換や両者の大小比較が困難であることを明らかにしている。
清水・竹本(1996)では,対象者が数変換を学習する以前の小学4年生であるため,上記のような結果が得られた可能性が考えられる。そこで,本研究では,数変換を学習済みの小学5年生を対象とし,数変換について子どもたちがどの程度理解しているのか,また,どのような誤りが見られるのかを検討することを目的とする。
方 法
[対象者]:都内の公立小学校の5年生76名(男子38名,女子38名)。 [テスト材料]:「分数を小数に変換する課題」(例:12/25を小数で表す)「小数を分数に変換する課題」(例:0.36を分数で表す)「文章課題」(2mのテープを5人で等分すると,1人分は何mか。小数と分数で表わせ。)「数直線課題」(例:4/10を数直線に表す)の4種類計6問を用いた。また,各課題について,答えを出すときにどのように考えたのか,思考過程についての自由記述を求めた。 [手続き]:質問紙による一斉調査を行った。実施時期は2014年12月であった。
結果と考察
[正答率と得点化]:「分数を小数に変換する課題」計2問の平均正答率は67.8%,「小数を分数に変換する課題」計2問の平均正答率は87.5%,「文章課題」は小数88.2%,分数81.6%,「数直線課題」は平均正答率87.5%(4/10 :92.1%, 0.3: 92.1%, 3/5: 75.0%, 1.2: 90.8%)であった。1問につき1点,計10点と得点化した結果,平均得点は8.30点(SD=2.11点)であり,全般的に高い得点となっていた。また,「分数を小数に変換する課題」と「小数を分数に変換する課題」の平均点を算出したところ,「分数を小数に変換する課題」は1.36点(SD=0.76点),「小数を分数に変換する課題」は1.75点(SD=0.65点)であった。両者の平均点に差が見られるのかを検討するため対応のあるt検定を行った結果,有意差が得られ(t(75)=4.13, p<.001),「分数を小数に変換する課題」よりも「小数を分数に変換する課題」の方が得点が高いことが明らかとなった。
分数・小数の数変換の困難さを検討するため,「分数を小数に変換する課題」と「小数を分数に変換する課題」を中心に,未回答率および誤答分析を行った。
[未回答率]:各課題に対して,未回答者は以下の通りであった。「分数を小数に変換する課題①」3名(3.9%),「分数を小数に変換する課題②」10名(13.2%),「小数を分数に変換する課題①」2名(2.6%),「小数を分数に変換する課題②」4名(5.3%)であった。
[誤答分析]:各課題に対して,どのような誤りが見られるのかを検討するため,思考過程の記述に基づき,誤った回答の分類を行った。「分数を小数に変換する課題①」では,「計算ミス」,「数変換の手続き」を,「分数を小数に変換する課題②」では,「計算ミス」,「数変換の手続き」,「位取り」のカテゴリを設定し,いずれにも該当しない誤答を「その他」とした。「分数を小数に変換する課題①」では,11名に誤答が見られ,そのうち「数変換の手続き」8名(10.5%),「計算ミス」2名(2.6%),「その他」1名(1.3%)であった。「分数を小数に変換する課題②」では,26名に誤答が見られ,そのうち「数変換の手続き」15名(19.7%),「計算ミス」3名(5.3%),「位取り」3名(3.9%),「その他」4名(5.3%)であった。「小数を分数に変換する課題」では,「位取り」,「計算ミス」,「その他」のカテゴリを設定した。「小数を分数に変換する課題①」では,7名の誤答が見られ,そのうち「位取り」3名(3.9%),「計算ミス」3名(3.9%),「その他」1名(1.3%)であった。「小数を分数に変換する課題②」では,5名に誤答が見られ,そのうち「位取り」2名(2.6%),「計算ミス」1名(1.3%),「その他」2名(2.6%)であった。
「分数を小数に変換する課題」の誤答率が高いことから,数変換の手続きに課題がある可能性が示唆される。また,「分数を小数に変換する課題②」では,未回答率が高く,これは問題文に「1/1000の位までの小数で表せ」と記してあることから,位取りができない児童が未回答となったと考えられる。位取りによって未回答,誤答となった人数は,計5名(6.8%)であった。今後の課題は,さらに子どもたちの数変換に関する理解を検討するために,それぞれの課題を関連させながら個人の思考傾向を中心に検討していく。