日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC035] 理学療法学科に在籍する大学生における高齢者の幸福感の認識

1年生と4年生の認識の違いに着目して

安心院朗子1, 西館有沙2, 西村実穂3, 枝野裕子4, 水野智美5, 徳田克己6 (1.目白大学, 2.富山大学, 3.東京未来大学, 4.筑波大学大学院, 5.筑波大学, 6.筑波大学)

キーワード:大学生, 高齢者, 幸福感

1.研究の目的
水野・徳田(2004)が行った調査より,大学生は「周りに親切にされ,よりよいサービスを受ける」という受動的な生活を送ることが高齢者の幸せの条件として重要であると考えていることが明らかにされている。また,大学生のなかには高齢者は「社会的に負担をかけている存在である」と認識している者がいる(河野・大和田・野口・山中,2014)。これらのことから,若年者の考えには高齢者は「お世話される存在」という認識があることが推測される。医療は疾病の治療だけでなく,患者が幸福な生活を送るための手助けをすることも重要な役割の一つである。しかし,このような認識では,高齢者への適切な支援を行うことが難しいのではないかと考えられる。そこで,医療分野における高齢者に対する教育方法のあり方について検討するための基礎的資料とするために,本稿では,理学療法学科に在籍している大学生(以下,学生)が,高齢者の幸福に何がどの程度影響すると認識しているのか,自身の幸福と何が異なるのかについて明らかにする。また,実習経験が高齢者についての関心や理解度などに影響する(今井,2010など)ことから,その認識が実習終了後の4年生と1年生によって違いがあるのかについて明確にする。
2.方法
⑴ 調査対象者および手続き
M大学の理学療法学科に在籍する大学生(180名)を対象とした。大学1年生(99名)と大学4年生(81名)であった。4年生は,臨床実習終了後の1ヶ月以内に実施した。男性61%(109名),女性39%(71名)であった。2014年11月に無記名による質問紙調査を実施した。質問紙は留置法で配布,回収した(回収率は89%)。
⑵ 調査項目
「属性」3項目,「高齢者,自身の幸せの程度」2項目,「各項目における高齢者,自身の幸せに影響する程度」56項目の計61項目であった。
3.結果と考察
⑴ 高齢者および自身の幸せの程度
一般高齢者,自身の幸せの程度について,「とても幸せである」を10,「全く幸せではない」を1としてその平均値を算出した。高齢者の幸せの程度は6.74(SD1.29),自身の幸せの程度は7.25(SD1.76)であった。
⑵ 高齢者,自身の幸せに影響する事項
水野・徳田(2004)が用いた高齢者,自身の幸せに影響する事項を参考にして作成した28項目について,それぞれについて幸せにどの程度影響していると思うのかについて5件法で尋ねた。
高齢者,自身の幸せに影響する程度の順位において10以上差がある項目は,「十分な睡眠をとる」(高齢者3.92,自身4.73),「経済的に不自由しない」(高齢者3.92,自身4.47),「隣近所との交流がある」(高齢者4.38,自身3.46)であった。学生は,高齢者にとって睡眠や経済的なことは自身よりも重要度は低く,高齢者の幸せへの影響が低い事項であると認識していると考えられる。また,一般的に地域社会における高齢者の役割期待に,隣近所との交流が挙げられている(佐藤・齋藤・若山・堀籠・鈴木・岡本,2014)。学生は,高齢者は近隣との交流を期待されていること,自身よりも高齢者は近隣との交流を行っており,また,その交流は高齢者の生きがいとなっていると考えていることから,「隣近所との交流」が高齢者の幸せに影響していると考えていると推測される。
⑶ 1年生と4年生の高齢者の幸せに関する認識の比較
1年生と4年生の「学年」と「高齢者の幸せに影響すると考える程度」の平均値の差の分析を行ったところ,「おいしいものを食べられる」(t (177)=3.67 ,p<0.01),「家庭での役割がある」(t (177)=3.27,p<0.01),「夢(目標)を持つ」(t (177)=2.96,p<0.01),「自分が望んだ時に外出することができる」(t (177)=2.88,p<0.01)に有意差が認められ,「ひとりで外出することができる」(t (177)=2.54,p<0.05),「十分な睡眠をとる」(t (177)=2.28,p<0.05),「健康である」(t (177)=2.00,p<0.05)に有意な差が認められた。上記のすべての項目において,1年生より4年生の方が高い平均値を示した。夢を持つ,家庭内役割がある,単独での外出などに差が認められたことから,4年生は主体的な生活が高齢者の幸せに影響していると認識していると考えられる。高齢者との距離を感じている大学生が増えている(河野ら,2014)。そのため,自分たちとは異なり,高齢者は自ら決定し行動するというよりは,「受身」の存在であると認識している可能性がある。義務教育の段階から,高齢者が何に幸せや楽しさを感じるのかについて学ぶ機会を設ける必要がある。