[PC040] 仮想場面における対人交渉方略に信頼感が及ぼす影響
キーワード:対人葛藤, 対人交渉方略, 信頼感
本研究は,SelmanのINS(対人交渉方略)モデル(Yeates & Selman, 1989)の各ステップに,信頼感が及ぼす影響を検討した。
方 法
参加者 A県の公立中学校に通う中学2年生99名,および,同県にある大学の学部生97名。
手続き 調査冊子を用いて,クラスごとの一斉調査を行った。回答は調査実施者のペースで進めた。
調査冊子では,まず,主人公Aとその友人Bとの対人葛藤場面と,INSモデルの各ステップに対応する質問を順に呈示した。質問には,Aの立場から回答するよう教示した。ステップ1(問題の定義)と4(結果の評価)は自由記述で回答を求めた。ステップ2(方略の産出)では,呈示した場面での対人交渉方略を考える時間を取った後に,思いついた方略をリストの中から選択してもらった。ステップ3(方略の選択と実行)では,選択した方略の中で実行するものを記入するよう求めた。場面は2つあった。
次に,天貝(1995)の信頼感尺度を呈示した。回答は,“非常にあてはまる”から“全くあてはまらない”の6件法で求めた。
結果と考察
回答に不備のあったデータは分析から除いた。
得点化 a対人交渉方略:ステップ1と4の回答を,渡部(1993)に従いレベル0から3に分類した。なお,場面の中で起きている問題として,葛藤に関わることではなく,Bの態度(言い方ややり方など)をあげた参加者が複数いた。そこでステップ1の回答を,Bの態度に対する言及の有無でも分類した。次に,ステップ1,3,4はINSレベルの高さを得点とした。また,ステップ1でBの態度に言及していた場合は,態度言及得点1,言及していない場合は0と点数化した。ステップ2は,方略の数と方略の最高レベルの二つの観点から得点化した。
b信頼感:信頼感尺度の各項目で,“非常にあてはまる”を選択した場合は5,“全くあてはまらない”を選択した場合は0と得点化した。次に,信頼感尺度の因子別に平均値を求めた。以下,これらの平均値を自己信頼得点,他者信頼得点,不信得点とする。
信頼感が対人交渉方略に及ぼす影響 信頼感→INSの各ステップ,数字の小さいステップ→大きいステップのパスを設定し,信頼感の因子間,および,同一ステップでの回答から得た得点の間に相関を想定したモデルについて,場面別に共分散構造分析を行った。学校種と性の影響を統制するため,これらの変数から各変数へのパスも加えた。各場面での最終的なモデルをFig. 1にまとめた。次に学校種別に同様の分析を行い,その結果においていずれの学校種でも有意ではなかったパスを削除し,多母集団同時分析を実施した。結果をFig. 2に示した。
Fig. 1,2より,信頼感が直接影響するのは,主に対人交渉方略の産出に対してであると考えられる。その後,実行する方略の選択や結果の評価へと間接的に影響が及ぶ。その際のINSレベルへの全体的な影響は,自己信頼と不信は負の方向,他者信頼は正の方向であると推察される。また,自己信頼からのパスは大学生で,他者信頼からのパスは中学生で有意であったが,差は明確ではないことが示唆された。
引用文献
天貝由美子(1995).高校生の自我同一性に及ぼす信頼感の影響 教育心理学研究,43,364-371.
渡部玲二郎(1993).児童における対人交渉方略の発達―社会的情報処理と対人交渉方略の関連性― 教育心理学研究,41,452-461.
Yeates,K.O., & Selman, R.L. (1989). Social competence in the schools: Toward and integrative developmental model for intervention. Developmental Review, 9,64-100.
※本研究は加藤由華氏(H22年度愛知教育大学卒業生)と共同で行った。
方 法
参加者 A県の公立中学校に通う中学2年生99名,および,同県にある大学の学部生97名。
手続き 調査冊子を用いて,クラスごとの一斉調査を行った。回答は調査実施者のペースで進めた。
調査冊子では,まず,主人公Aとその友人Bとの対人葛藤場面と,INSモデルの各ステップに対応する質問を順に呈示した。質問には,Aの立場から回答するよう教示した。ステップ1(問題の定義)と4(結果の評価)は自由記述で回答を求めた。ステップ2(方略の産出)では,呈示した場面での対人交渉方略を考える時間を取った後に,思いついた方略をリストの中から選択してもらった。ステップ3(方略の選択と実行)では,選択した方略の中で実行するものを記入するよう求めた。場面は2つあった。
次に,天貝(1995)の信頼感尺度を呈示した。回答は,“非常にあてはまる”から“全くあてはまらない”の6件法で求めた。
結果と考察
回答に不備のあったデータは分析から除いた。
得点化 a対人交渉方略:ステップ1と4の回答を,渡部(1993)に従いレベル0から3に分類した。なお,場面の中で起きている問題として,葛藤に関わることではなく,Bの態度(言い方ややり方など)をあげた参加者が複数いた。そこでステップ1の回答を,Bの態度に対する言及の有無でも分類した。次に,ステップ1,3,4はINSレベルの高さを得点とした。また,ステップ1でBの態度に言及していた場合は,態度言及得点1,言及していない場合は0と点数化した。ステップ2は,方略の数と方略の最高レベルの二つの観点から得点化した。
b信頼感:信頼感尺度の各項目で,“非常にあてはまる”を選択した場合は5,“全くあてはまらない”を選択した場合は0と得点化した。次に,信頼感尺度の因子別に平均値を求めた。以下,これらの平均値を自己信頼得点,他者信頼得点,不信得点とする。
信頼感が対人交渉方略に及ぼす影響 信頼感→INSの各ステップ,数字の小さいステップ→大きいステップのパスを設定し,信頼感の因子間,および,同一ステップでの回答から得た得点の間に相関を想定したモデルについて,場面別に共分散構造分析を行った。学校種と性の影響を統制するため,これらの変数から各変数へのパスも加えた。各場面での最終的なモデルをFig. 1にまとめた。次に学校種別に同様の分析を行い,その結果においていずれの学校種でも有意ではなかったパスを削除し,多母集団同時分析を実施した。結果をFig. 2に示した。
Fig. 1,2より,信頼感が直接影響するのは,主に対人交渉方略の産出に対してであると考えられる。その後,実行する方略の選択や結果の評価へと間接的に影響が及ぶ。その際のINSレベルへの全体的な影響は,自己信頼と不信は負の方向,他者信頼は正の方向であると推察される。また,自己信頼からのパスは大学生で,他者信頼からのパスは中学生で有意であったが,差は明確ではないことが示唆された。
引用文献
天貝由美子(1995).高校生の自我同一性に及ぼす信頼感の影響 教育心理学研究,43,364-371.
渡部玲二郎(1993).児童における対人交渉方略の発達―社会的情報処理と対人交渉方略の関連性― 教育心理学研究,41,452-461.
Yeates,K.O., & Selman, R.L. (1989). Social competence in the schools: Toward and integrative developmental model for intervention. Developmental Review, 9,64-100.
※本研究は加藤由華氏(H22年度愛知教育大学卒業生)と共同で行った。