[PC052] 障害理解の阻害要因1
生涯教育の場で行われている障害シミュレーション体験の問題点
キーワード:障害理解, 生涯教育, シミュレーション体験
目 的
現在,いろいろな場面で「障害を理解するための活動」として,目隠し歩行体験,点字触読体験,車いす乗車体験などの障害シミュレーション体験が頻繁に行われている。これまでの多くの研究の結果から,安易なシミュレーション体験によって,障害に対する恐怖心の増大,ステレオタイプ化された障害観の助長,障害者に対する援助行動への抵抗感の増大などのマイナス点があることが指摘されている。本研究では,生涯教育機関において実施されている障害シミュレーション体験の実態と問題点について実地調査を通じて明らかにする。
方 法
⑴ 手続き:生涯教育の場における学習会やイベントにおいて,目隠し体験や車いす試乗体験などの障害シミュレーション体験を行う会場に出向いて,参加者としてイベント等に加わり,あるいは参加者が体験している場面を視察して,資料を収集した。また,機縁法によって対象にした障害者に対するヒアリング調査を行った。
⑵ 調査の場と調査日時
a.イベント・学習会
・広島県F市A社会福祉施設,2014年11月
・東京都H市A公民館,2014年12月
b.障害者に対するヒアリング調査
車いす使用2名,盲導犬使用1名,全盲6名
結 果
⑴ イベントのメリット
・地域の障害者団体が主催する催しである場合には,祭り的な要素が強く市民が参加しやすい。
・地域の障害者が多く参加するので,様々な障害がある人と市民がふれあうことができる。
・障害者が企画,運営していることが多く(公的関係機関はサポート役),当事者がやりがいを感じる活動になっている。
⑵ シミュレーション体験の問題点
・障害者を含めて,障害理解指導の具体的な方法を習得していない人が講師役になる場合が多く,間違った支援方法を市民に伝えることがある。例えば,中途失明で歩行訓練を正式に受けていないAさんは日常,手引き者の腕を抱え込むように持って歩いており,その方法を市民に伝えている。この間違った方法が広まっていく可能性がある。
・視覚障害者の手引きや車いす乗車時の操作にはある程度の学習が必要であるが,ほとんどのイベントでは体験者は学習することなくシミュレーションを行う。そのため,目隠し歩行では視覚障害者役と手引き者役の両者に危険が高まり,車いす乗車では転倒の危険性が増す。
・障害者の「不便さ」や「苦しさ」が強調される傾向がある。シミュレーション体験の目的が「障害者の不便を体験すること」に偏っている。
・目隠し歩行や車いす乗車によって障害者の気持ちを理解することはできないのは自明であるが,「その種の体験=障害者の心理の理解」という前提で体験が進められる。つまり,体験者は障害者の痛みや気持ちがわかった気になってしまう。
・イベントでは,多くの体験を短時間で実施しようとするために,体験の前後に十分な学習をすることができない。体験そのものが目的化しているし,体験をさせること,体験をすることで主催者も参加者も満足している。その種の体験から障害者の生活を知り,市民として障害者とどのように協働すべきか,また障害者をどのように支援すべきかについて考えるという本来の目的を達成できていない。体験知を正確な知識や適切な認識形成に結びつけようとする試みがなされていないことは大きな問題である。
現在,いろいろな場面で「障害を理解するための活動」として,目隠し歩行体験,点字触読体験,車いす乗車体験などの障害シミュレーション体験が頻繁に行われている。これまでの多くの研究の結果から,安易なシミュレーション体験によって,障害に対する恐怖心の増大,ステレオタイプ化された障害観の助長,障害者に対する援助行動への抵抗感の増大などのマイナス点があることが指摘されている。本研究では,生涯教育機関において実施されている障害シミュレーション体験の実態と問題点について実地調査を通じて明らかにする。
方 法
⑴ 手続き:生涯教育の場における学習会やイベントにおいて,目隠し体験や車いす試乗体験などの障害シミュレーション体験を行う会場に出向いて,参加者としてイベント等に加わり,あるいは参加者が体験している場面を視察して,資料を収集した。また,機縁法によって対象にした障害者に対するヒアリング調査を行った。
⑵ 調査の場と調査日時
a.イベント・学習会
・広島県F市A社会福祉施設,2014年11月
・東京都H市A公民館,2014年12月
b.障害者に対するヒアリング調査
車いす使用2名,盲導犬使用1名,全盲6名
結 果
⑴ イベントのメリット
・地域の障害者団体が主催する催しである場合には,祭り的な要素が強く市民が参加しやすい。
・地域の障害者が多く参加するので,様々な障害がある人と市民がふれあうことができる。
・障害者が企画,運営していることが多く(公的関係機関はサポート役),当事者がやりがいを感じる活動になっている。
⑵ シミュレーション体験の問題点
・障害者を含めて,障害理解指導の具体的な方法を習得していない人が講師役になる場合が多く,間違った支援方法を市民に伝えることがある。例えば,中途失明で歩行訓練を正式に受けていないAさんは日常,手引き者の腕を抱え込むように持って歩いており,その方法を市民に伝えている。この間違った方法が広まっていく可能性がある。
・視覚障害者の手引きや車いす乗車時の操作にはある程度の学習が必要であるが,ほとんどのイベントでは体験者は学習することなくシミュレーションを行う。そのため,目隠し歩行では視覚障害者役と手引き者役の両者に危険が高まり,車いす乗車では転倒の危険性が増す。
・障害者の「不便さ」や「苦しさ」が強調される傾向がある。シミュレーション体験の目的が「障害者の不便を体験すること」に偏っている。
・目隠し歩行や車いす乗車によって障害者の気持ちを理解することはできないのは自明であるが,「その種の体験=障害者の心理の理解」という前提で体験が進められる。つまり,体験者は障害者の痛みや気持ちがわかった気になってしまう。
・イベントでは,多くの体験を短時間で実施しようとするために,体験の前後に十分な学習をすることができない。体験そのものが目的化しているし,体験をさせること,体験をすることで主催者も参加者も満足している。その種の体験から障害者の生活を知り,市民として障害者とどのように協働すべきか,また障害者をどのように支援すべきかについて考えるという本来の目的を達成できていない。体験知を正確な知識や適切な認識形成に結びつけようとする試みがなされていないことは大きな問題である。