日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC076] 尊敬する人に追いつきたいとき青年はいかに振る舞うか

自己ピグマリオン過程関連行動尺度の作成の試み

武藤世良 (東京大学・日本学術振興会特別研究員)

キーワード:尊敬, 役割モデル, 青年期

問題と目的
人が自身の夢や目標に向かって成長していく上で,役割モデルとなる他者の存在は,きわめて大きな影響力を持つと考えられてきた。Li & Fischer(2007)は,自己意識的感情としての尊敬(affect-respect)には,優れた他者を役割モデル化し追随することで,ゆくゆくは自分自身がその他者のようになっていく,という発達プロセスを仮定し,このプロセスを「自己ピグマリオン過程(self-Pygmalion process)」と呼んでいる。しかしながら,現実的にそのプロセスがどのようなものであるのかは,これまでほとんど検討されていない。尊敬する人の存在は,人の行動にも大きな影響を与えると考えられる。本研究では,大学生の将来なりたい職業や進路での尊敬する人に着目し,尊敬する人に追いつきたいとき,青年がいかに振る舞うのか,その個人差を測定する尺度である「自己ピグマリオン過程関連行動尺度」を作成し,因子構造の妥当性と信頼性を検討することを目的とする。
方 法
予備調査
自己ピグマリオン過程関連行動尺度の項目原案を作成することを目的に,予備調査を行った。Li & Fischer(2007)の理論を中心に,発表者と教育心理学を専攻する大学院生2名による議論がなされ,5因子27項目が設定された。この27項目に関して,教育心理学を専攻する大学生・大学院生15名(男性9名・女性6名)に回答を求め,回答後,これらの項目が尊敬する人に追いつきたいときにとる行動として,網羅的か否か,答えづらい項目がないか等,聞き取り調査を行った。その結果を踏まえて,発表者が項目内容を修正し,最終的に「表層的模倣」(e.g., 「その人の言動や話し方を真似する」),「視点取得的模倣」(e.g., 「自分にとって重要な場面で,その人の考え方や判断を自分の行動や選択の基準にする」),「観察維持・探索」(e.g., 「その人が日頃何に興味を持ったり考えたりしているのかを知ろうとする」),「追随的努力」(e.g., 「その人に追いつくために練習や読書,勉強など,努力の量を増やす」),「共通性の同定・拡大」(e.g.,「その人と自分の似ているところを大事にする」),「独自性の探究」(e.g., 「その人にはない自分の良さを見つけようとする」)の6因子32項目が設定された。

本 調 査
回答者 2014年9~11月に,群馬県,埼玉県,東京都,静岡県の7大学で集団形式または個別配布・回収による質問紙調査を行い,有効回答者の大学(院)生850名(男性264名,女性578名,性別無回答8名; 平均年齢19.5歳[n = 367; SD = 1.08,レンジ: 18~28])のうち,尊敬する人物が1人以上いると回答し,自己ピグマリオン過程関連行動尺度に回答した642名を分析の対象とした。
調査内容
1.尊敬している人物についての質問 予備調査同様,「『尊敬』する人」を,「将来なりたい自分に影響を与えるような,優れた他者」と操作的に定義し,説明した上で,将来なりたい職業や進路に関わる分野や領域で,現在,尊敬している人がいるかどうかを尋ねた。尊敬する人が1人以上いると回答した回答者には,そのうち「あなたが日常生活の中で最もよく思い出し,最も影響を受けていると思われる人を1人思い浮かべてください。」と教示し,自分自身から見たその人物との関係等について尋ねた。
2. 自己ピグマリオン過程関連行動尺度 思い浮かべた1人に関して,予備調査で作成した6因子32項目への回答を求めた。「あなたは,その人のことを尊敬するようになってから今まで,以下のことをどのくらいの頻度で実行しましたか。」という教示の下,「全くしなかった」(1点)から「非常によくした」(5点)の5件法で回答を求めた。
結果と考察
尺度の因子構造を検討するため,確認的因子分析を行った。因子間相関を仮定した6因子構造での最初の分析では,適合度指標の値はCFI=.827,RMSEA=.075,SRMR=.074であり,一般に.90以上が望ましいとされるCFI以外はそれほど悪くない適合度であった。そこで,仮説通り6因子構造が認められると想定し,各因子について,因子負荷量(標準化推定値)が高い順に3項目を選び,再度確認的因子分析を行った。その結果,CFI =.933,RMSEA=.067,SRMR=.043と改善し,許容できる適合度が得られたと判断した。潜在変数の因子間相関は.26~.83であり,各因子の内的整合性は,α係数が.67~.90,ω係数が.68~.90であった。今後は,これらの行動が,青年の実際の成長と結びつくのかを詳細に検討する必要がある。