[PD042] 他者との相互作用を通した質問態度の向上(5)
GTAによる検討
キーワード:批判的思考, 学習者間インタラクション, 質問力
目 的
本研究の目的は,質問力向上を目指した授業実践(教心研, 2011)で,どのような学習者間インタラクションが行われ,学生の質問力向上に関係しているのかについて検討することである。これまで,特定グループにおける発話数や参加のあり方の変化(道田, 2012日心),質問態度が比較的向上した3チームの話し合いの流れの初回―最終回での変化(道田, 2013教心),特定学生の毎回の話し合いへの参加のあり方(道田, 2014日心; 道田, 2014教心)を検討してきた。
本研究では,複数の学生を対象に,GTA(コービン&ストラウス, 2012など)を参考にカテゴリー生成を行い,より一般的な傾向を検討した。
方 法
授業と受講生 2012~2014年度前期の教職専門科目「教育心理学」でデータを収集した。毎年の受講生は教育学部の2年次90名前後であった。授業1回目(事前)と14回目(事後)に,質問に対する態度調査(6項目)と質問力調査(千字程度の文章に対する質問作成)を行った。
データ収集 4~6人の小グループで毎時間(計8回程度)行われた質問生成のための話し合いを,計23チームについて録音した。また前期終了前に,録音対象グループメンバーのうちの一部の学生に,質問態度や質問生成数が事前-事後で変化した理由を,インタビューを通して聞き取った。
分析対象 録音対象としたグループ所属学生で事前・事後調査で欠損値のなかった97名のうち,事前-事後で質問態度ならびに質問数が相対的に大きく変化していた学生4名を対象とした(以下,対象者A,B,C,D)。
これらの学生は授業開始当時,一人で質問を思いつくのが難しかったと考えられる。そこで今回は,各グループ8回前後質問生成の話し合いを行っているなかで,初回の話し合いを対象とし,当該学生がどのような話し合いの体験をしているのかについて検討した。ただし2名は初回に全く発言していなかったため,その学生については第2回の話し合いを対象とした。
結 果
GTAを参考に生成されたカテゴリーから,対象者ごとにストーリーラインを生成した(アンダーライン部は生成されたカテゴリー)。
対象者Aのグループでは,あるメンバーの疑問の提示に対して,そのメンバーが質問の適切さについて自信のなさの表明をするなかで,しばらく様子を見ていたAが質問に対する自分なりの考えを表明し,それに対して納得が表明され,グループ質問の決定がなされている。
対象者Bのグループでは,他者が不理解の表明をしたり内容理解のための質問をしたりするのを見ていたBが,素朴な疑問を出して回答を得る,あるいはその疑問に同意されている。その後,他者が焦りや難しさを表明して沈黙したときに,質問を提案したものが同意され,発展され,他者に促されて質問を再表現し,それが同意されてグループとして質問の決定がなされている。
対象者Cは第1回のときは全く発言がなかったため,第2回の話し合いを対象とした。そこでは,他者が出した質問の提案にBが単発的に軌道修正の指摘をしていたが,次に別の他者が出した疑問にCが同意し,発展させ,それが皆の同意を得てグループ質問の決定がなされた。
対象者Dも第1回のときは全く発言がなかったため,第2回の話し合いを対象とした。そこでは,冒頭でDが感想を述べるがそれは発展されず,しばらく沈黙の後に他者が疑問の提示をしたのに対してDが同意し,別の他者の疑問にも同意し,Dが質問決定の提案をしたものが全員から同意されてグループ質問の決定がなされている。
考 察
これらから,パラダイム(戈木, 2005)も念頭に置きつつ整理するならば,他者が疑問や不理解,内容確認をするなど十分には理解できていないという状況で,あるいは自信のなさを表明したり沈黙したりという状況で,素朴な疑問や自分なりの考えを述べるという行為を行い,それが回答,納得,同意などの帰結を得ることで,質問行動頻度が増えるのではないかと考えられる。
これを出発点とし,理論的サンプリングを行うことで考察の精度を高めることが今後の課題といえる。
本研究の目的は,質問力向上を目指した授業実践(教心研, 2011)で,どのような学習者間インタラクションが行われ,学生の質問力向上に関係しているのかについて検討することである。これまで,特定グループにおける発話数や参加のあり方の変化(道田, 2012日心),質問態度が比較的向上した3チームの話し合いの流れの初回―最終回での変化(道田, 2013教心),特定学生の毎回の話し合いへの参加のあり方(道田, 2014日心; 道田, 2014教心)を検討してきた。
本研究では,複数の学生を対象に,GTA(コービン&ストラウス, 2012など)を参考にカテゴリー生成を行い,より一般的な傾向を検討した。
方 法
授業と受講生 2012~2014年度前期の教職専門科目「教育心理学」でデータを収集した。毎年の受講生は教育学部の2年次90名前後であった。授業1回目(事前)と14回目(事後)に,質問に対する態度調査(6項目)と質問力調査(千字程度の文章に対する質問作成)を行った。
データ収集 4~6人の小グループで毎時間(計8回程度)行われた質問生成のための話し合いを,計23チームについて録音した。また前期終了前に,録音対象グループメンバーのうちの一部の学生に,質問態度や質問生成数が事前-事後で変化した理由を,インタビューを通して聞き取った。
分析対象 録音対象としたグループ所属学生で事前・事後調査で欠損値のなかった97名のうち,事前-事後で質問態度ならびに質問数が相対的に大きく変化していた学生4名を対象とした(以下,対象者A,B,C,D)。
これらの学生は授業開始当時,一人で質問を思いつくのが難しかったと考えられる。そこで今回は,各グループ8回前後質問生成の話し合いを行っているなかで,初回の話し合いを対象とし,当該学生がどのような話し合いの体験をしているのかについて検討した。ただし2名は初回に全く発言していなかったため,その学生については第2回の話し合いを対象とした。
結 果
GTAを参考に生成されたカテゴリーから,対象者ごとにストーリーラインを生成した(アンダーライン部は生成されたカテゴリー)。
対象者Aのグループでは,あるメンバーの疑問の提示に対して,そのメンバーが質問の適切さについて自信のなさの表明をするなかで,しばらく様子を見ていたAが質問に対する自分なりの考えを表明し,それに対して納得が表明され,グループ質問の決定がなされている。
対象者Bのグループでは,他者が不理解の表明をしたり内容理解のための質問をしたりするのを見ていたBが,素朴な疑問を出して回答を得る,あるいはその疑問に同意されている。その後,他者が焦りや難しさを表明して沈黙したときに,質問を提案したものが同意され,発展され,他者に促されて質問を再表現し,それが同意されてグループとして質問の決定がなされている。
対象者Cは第1回のときは全く発言がなかったため,第2回の話し合いを対象とした。そこでは,他者が出した質問の提案にBが単発的に軌道修正の指摘をしていたが,次に別の他者が出した疑問にCが同意し,発展させ,それが皆の同意を得てグループ質問の決定がなされた。
対象者Dも第1回のときは全く発言がなかったため,第2回の話し合いを対象とした。そこでは,冒頭でDが感想を述べるがそれは発展されず,しばらく沈黙の後に他者が疑問の提示をしたのに対してDが同意し,別の他者の疑問にも同意し,Dが質問決定の提案をしたものが全員から同意されてグループ質問の決定がなされている。
考 察
これらから,パラダイム(戈木, 2005)も念頭に置きつつ整理するならば,他者が疑問や不理解,内容確認をするなど十分には理解できていないという状況で,あるいは自信のなさを表明したり沈黙したりという状況で,素朴な疑問や自分なりの考えを述べるという行為を行い,それが回答,納得,同意などの帰結を得ることで,質問行動頻度が増えるのではないかと考えられる。
これを出発点とし,理論的サンプリングを行うことで考察の精度を高めることが今後の課題といえる。