[PE047] トラブル対応の成功・不成功および情報の開示が学校に対する公正感に及ぼす影響
生徒間トラブルへの対応状況を題材とした保護者対象調査
キーワード:公正感, 情報開示, 学校
問題
ベネッセによる2010年の教員を対象とした調査においては,回答者の7割弱が学校にクレームを言う保護者が増えたと回答している。そうしたクレームの生起要因としては,その認知の妥当性は別にして,学校に対する不公正感の認知を考えることができる。例えば,京都府総合教育センター(2007)によると,保護者からのクレームで多くを占めているのは,「教職員の言動,指導方法」および「いじめへの指導」であることが明らかにされており,教員の生徒に対する公正でない関わりに多くのケースが関連していることが推測される。学校を円滑に運営していくためには,学校を適正に運営することはもちろんであるが,同時にその適切さ,公正性を地域の人々に認知させることも重要である。
組織に対する公正性認知に関連する要因の一つとして,情報の開示が考えられる。ある問題への対応について,どのような経緯で意思決定を行ったかを明らかにすることは,手続き的な公正(e.g. Lind & Tyler, 1988)を認知させることにつながると考えられる。一方,意思決定の結果が,問題解決に有効だったかどうか,すなわち成功-不成功も,保護者の認知に関連すると考えられる。そこで,本研究では,学校における問題への対応に対する公正感に,情報開示の有無,そして結果の成功-不成功が及ぼす影響について検討した。
方法
調査参加者 楽天リサーチ(株)を活用して,小学生及び中学生の子どもが世帯に含まれる保護者1600名(男性800人,女性800人,平均年齢45.13歳,SD=5.27)を対象に調査を行った。小学生が世帯に含まれる保護者には小学生版に,中学生がいて小学生が世帯にいない保護者には中学生版に回答を依頼した。小学生版と中学生版に回答した人数はそれぞれ800人である。
調査項目 1)学校における問題状況への対応に関する態度 生徒間での人間関係上のトラブルへの対処が不明確だと,強く不公正感が生起することが知られている(植村・河内,2012)。そこで,クラス内での人間関係トラブルを題材とした仮想状況を作成した。その際,トラブルに対する対応が成功する場合と成功しない場合,そして対応に関する学校内の決定経緯に関する情報開示がある場合とない場合とを組み合わせて4種類の状況を作成し被験者間要因とした(成功-開示,成功-不開示,不成功-開示,不成功-不開示)。いずれかのシナリオを読んだ上で,参加者は「学校の対処は妥当だった」,「学校の対処は公正だった」,「学校を信頼できる」,「学校の対処に怒りを感じる」の4項目に関して「1.全く当てはまらない」から「5.非常によく当てはまる」までの5段階で評定した。
2)学校との心理的近さ PTAの役員を務めた回数,直近の1年間に学校を訪問した回数などの5項目で,学校との心理的近さを測定した。
結果と考察
成功-不成功,情報開示の有無,そして学校に対する心理的距離として1週間に学校のことを家の中で話題にした頻度を独立変数,学校に対する公正感(信頼感,公正感,そして対応の妥当性判断の合成変数)を従属変数とした3要因分散分析を行った。その結果,成功-不成功の要因のみが有意となり(F (1, 1588)=323.36, p<.001),いい結果に終わることが公正感を高めることがわかった。
従属変数を学校の対応に対する怒りにして同様の分析を行ったところ,成功-不成功が有意な効果を及ぼしていた(F (1, 1588)=141.75, p<.001)ほか,開示の有無と心理的距離との交互作用も有意となった(F (2, 1588)=3.03, p<.05;Figure 1)。学校に対する心理的距離が近いことは,情報開示への敏感さを生じさせるのかもしれない。
※本研究はJSPS科研費23530822の助成を受けたものです。
ベネッセによる2010年の教員を対象とした調査においては,回答者の7割弱が学校にクレームを言う保護者が増えたと回答している。そうしたクレームの生起要因としては,その認知の妥当性は別にして,学校に対する不公正感の認知を考えることができる。例えば,京都府総合教育センター(2007)によると,保護者からのクレームで多くを占めているのは,「教職員の言動,指導方法」および「いじめへの指導」であることが明らかにされており,教員の生徒に対する公正でない関わりに多くのケースが関連していることが推測される。学校を円滑に運営していくためには,学校を適正に運営することはもちろんであるが,同時にその適切さ,公正性を地域の人々に認知させることも重要である。
組織に対する公正性認知に関連する要因の一つとして,情報の開示が考えられる。ある問題への対応について,どのような経緯で意思決定を行ったかを明らかにすることは,手続き的な公正(e.g. Lind & Tyler, 1988)を認知させることにつながると考えられる。一方,意思決定の結果が,問題解決に有効だったかどうか,すなわち成功-不成功も,保護者の認知に関連すると考えられる。そこで,本研究では,学校における問題への対応に対する公正感に,情報開示の有無,そして結果の成功-不成功が及ぼす影響について検討した。
方法
調査参加者 楽天リサーチ(株)を活用して,小学生及び中学生の子どもが世帯に含まれる保護者1600名(男性800人,女性800人,平均年齢45.13歳,SD=5.27)を対象に調査を行った。小学生が世帯に含まれる保護者には小学生版に,中学生がいて小学生が世帯にいない保護者には中学生版に回答を依頼した。小学生版と中学生版に回答した人数はそれぞれ800人である。
調査項目 1)学校における問題状況への対応に関する態度 生徒間での人間関係上のトラブルへの対処が不明確だと,強く不公正感が生起することが知られている(植村・河内,2012)。そこで,クラス内での人間関係トラブルを題材とした仮想状況を作成した。その際,トラブルに対する対応が成功する場合と成功しない場合,そして対応に関する学校内の決定経緯に関する情報開示がある場合とない場合とを組み合わせて4種類の状況を作成し被験者間要因とした(成功-開示,成功-不開示,不成功-開示,不成功-不開示)。いずれかのシナリオを読んだ上で,参加者は「学校の対処は妥当だった」,「学校の対処は公正だった」,「学校を信頼できる」,「学校の対処に怒りを感じる」の4項目に関して「1.全く当てはまらない」から「5.非常によく当てはまる」までの5段階で評定した。
2)学校との心理的近さ PTAの役員を務めた回数,直近の1年間に学校を訪問した回数などの5項目で,学校との心理的近さを測定した。
結果と考察
成功-不成功,情報開示の有無,そして学校に対する心理的距離として1週間に学校のことを家の中で話題にした頻度を独立変数,学校に対する公正感(信頼感,公正感,そして対応の妥当性判断の合成変数)を従属変数とした3要因分散分析を行った。その結果,成功-不成功の要因のみが有意となり(F (1, 1588)=323.36, p<.001),いい結果に終わることが公正感を高めることがわかった。
従属変数を学校の対応に対する怒りにして同様の分析を行ったところ,成功-不成功が有意な効果を及ぼしていた(F (1, 1588)=141.75, p<.001)ほか,開示の有無と心理的距離との交互作用も有意となった(F (2, 1588)=3.03, p<.05;Figure 1)。学校に対する心理的距離が近いことは,情報開示への敏感さを生じさせるのかもしれない。
※本研究はJSPS科研費23530822の助成を受けたものです。