日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE056] 専攻学問を学ぶことで身に付く力について考える授業経験が課題価値に及ぼす効果

松本明日香1, 小川一美2 (1.愛知淑徳大学大学院, 2.愛知淑徳大学)

キーワード:課題価値, 学習成果, 大学教育

目的
大学生の学習に対する「かまえ」は,大学教育において重要であると言われている(金子,2007)。本研究では,学習に対する「かまえ」として専攻学問に対する課題価値に着目する。課題価値とは,学習者が学習内容にどのような価値を求めるのか,現在学んでいる学習にどのような価値評定をしているかという,学習に対する価値づけである(伊田,2001)。また,課題価値は,授業進行の工夫により変化する可能性があるとされている(大谷,2013)。大学教育の質保証という観点から,学士課程教育の学習成果が求められるようになっており,専攻学問の学習を通じて学習成果が培われることが望ましい(中央教育審議会,2012;日本学術会議,2010)。専攻学問の学習に対する「かまえ」としての学問に対する課題価値に着目し,その変化を検討することは大学教育を通じた学習成果の諸側面の獲得を考える上で重要である。
伊田(2002)は課題価値を見出すためには,学習者が明確な職業的目標を持っていること,獲得されるべき自己像が明確になっていることが求められると述べている。「社会で求められる力」や「専攻学問の学びを通じて獲得できる力」について考えさせることによって,自分の学びと職業的目標との繋がりを作ることや,学びを通じて獲得したい・すべきである自己像を明確化することが可能になり,それが課題価値の変容に繋がると考えられる。つまり,課題価値は「キャリア」との関連が深く,自己の将来に関して深く考えさせる経験によって影響を受ける可能性が高い。そこで本研究では,専攻学問を学ぶことで身に付く力について考える授業経験によって,課題価値が変化するのかについて検討する。
方法
調査対象者 ⑴ 授業前調査・授業直後調査:対象授業を受講したA大学心理学部の3年生200名。⑵ 追跡調査(授業5カ月後):⑴に参加した学生のうち128名。
授業概要 専攻学問を通じて獲得できる社会人として必要な力および,学部での学習とキャリアの関連を考える授業を対象とした。4コマ×2日にわたる授業であった。
分析に用いた調査内容 ①課題価値:伊田(2001)による30項目(7件法;全調査で測定)。②インターンシップ経験の有無(追跡調査のみ)。
結果と考察
課題価値尺度について因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った結果,先行研究通り4因子解(利用価値,興味価値,私的獲得価値,公的獲得価値)が得られた。この結果に基づき下位尺度得点を算出した。調査時期とインターンシップ経験を独立変数,課題価値の各下位尺度を従属変数とした2要因分散分析(混合計画)を行った。なお,授業直後調査と追跡調査の間にインターンシップが行われたことから,インターンシップ経験による効果も検討した。分析の結果,利用価値,興味価値,私的獲得価値において,調査時期の主効果が有意であった(F(2, 242)=36.569, p<.001, ηp2=.232, 図1; F(2, 250)=2.585, p=.077, ηp2=.020; F(2, 242)=9.825, p<.001, ηp2=.075)。多重比較の結果,いずれも授業前よりも授業直後のほうが得点が高かった。つまり,一時的ではあるが,授業によって一部の課題価値が向上することが示された。しかし,利用価値,私的獲得価値では授業直後よりも5カ月後のほうが得点が有意に低く,価値得点の向上が維持されていなかった。課題価値の定着に何が必要なのかについては今後の検討が必要である。また,私的獲得価値では交互作用効果の傾向がみられ(F(2, 242)=2.719, p=.068, ηp2=.022),授業直後調査において,インターンシップ経験あり群のほうがなし群よりも得点が高かった。獲得価値とは望ましい自己像の獲得と学問の関連に対する価値づけである(伊田,2001)。授業はインターンシップ前に行われたが,授業時にインターンシップを後に経験する予定であった学生は,将来の自己像について,キャリアとの関連を意識して授業に臨んだため,授業を通じて私的獲得価値の向上がより大きかった可能性が考えられる。