[PF005] 学校危機への臨床心理士による支援の実態(3)
緊急支援に関する研修について
Keywords:学校危機, 緊急支援, 研修
問題と目的
学校コミュニティが持つ本来の自助機能は,学校内外からの危機事案に依り機能不全に陥る。この状況に対しさまざまな方法で支援を行う緊急支援プログラムが全国的に展開されている。その中で,緊急支援に関わる研修・講義が各地で行われているが,その詳細は明らかではない。本報告では,より実効性の高い体制整備やプログラムの精緻化に向けての基礎資料を得るために実施した臨床心理士アンケートから,臨床心理士の緊急支援研修について検討する。
方法
調査方法 対象,実施方法,質問紙構成は窪田ら(2015)の通り。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認(13-428)を得た。
調査協力者 緊急支援の経験がある臨床心理士263名(38都道府県士会)のうち回答に不備のない262名を対象とした。
教示 これまでの緊急支援に関わる研修を受けた経験について,選択肢より複数回答式で回答を求めた。また,緊急支援に入ることについての見通しと不安について,それぞれ4件法で回答を求めた。
結果と考察
研修経験について Table1にこれまで受けた研修数を示す。都道府県臨床心理士会での研修が最も高い数値を示している。ついで独学が多く,学会研修,事例検討と続いている。緊急支援の必要性が認知されてきたこと,これに対し地域に則した研修が拡がっていることが窺える。
また,大学・大学院での講義・研修を経験した者が少なかった。
1人あたりの研修種数についてはTable2に示す。最小値が1であり,全ての回答者がこれまで少なくとも1種類は研修を受けていることが見られた。平均して3.24件の研修を受けていること,独学のみは4名のみであったことからも緊急支援に関わる研修の必要性が認知されてきたことが窺えた。
見通し不安と研修について 緊急支援に入ることへの見通しと不安と,研修種数についての相関がTable3である。ここでは,見通し,不安に影響を与えると考えられるこれまでの緊急支援の総経験数(窪田ら,2015)についても検討を行っている。
研修種数と見通しには有意な弱い正の相関がみられた。より多くの研修種数を受けている者が,緊急支援についてより見通しを持てているという結果であった。不安とは有意な相関は見られなかった。また,総経験数とは,見通しと有意な弱い正の相関が見られ,不安とは有意な負の中程度の相関が見られた。より多くの経験をしている者が,緊急支援についてより見通しを持て,より不安が小さくなっているという結果であった。
ただ,総経験数と研修種数については,SC歴とも関連がある部分である為,今後,より詳細に検討する必要がある。
まとめと今後の課題 緊急支援に関わる研修について,それぞれの地域で広く実施されていることを窺うことができた。ただ,大学・大学院における講義・研修が少なく,臨床心理士の養成課程における研修の必要性が考えられた。
研修を受けることが,見通しを持つことに役立つ可能性が示唆されたが,このことについては実際の研修における効果検証を行うことでより詳細に検討する必要がある。そのことによって,緊急支援に関するより有効な研修のあり方を今後検討していくことが求められる。
*本研究の実施に際しては日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191)の助成を受けた。
学校コミュニティが持つ本来の自助機能は,学校内外からの危機事案に依り機能不全に陥る。この状況に対しさまざまな方法で支援を行う緊急支援プログラムが全国的に展開されている。その中で,緊急支援に関わる研修・講義が各地で行われているが,その詳細は明らかではない。本報告では,より実効性の高い体制整備やプログラムの精緻化に向けての基礎資料を得るために実施した臨床心理士アンケートから,臨床心理士の緊急支援研修について検討する。
方法
調査方法 対象,実施方法,質問紙構成は窪田ら(2015)の通り。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認(13-428)を得た。
調査協力者 緊急支援の経験がある臨床心理士263名(38都道府県士会)のうち回答に不備のない262名を対象とした。
教示 これまでの緊急支援に関わる研修を受けた経験について,選択肢より複数回答式で回答を求めた。また,緊急支援に入ることについての見通しと不安について,それぞれ4件法で回答を求めた。
結果と考察
研修経験について Table1にこれまで受けた研修数を示す。都道府県臨床心理士会での研修が最も高い数値を示している。ついで独学が多く,学会研修,事例検討と続いている。緊急支援の必要性が認知されてきたこと,これに対し地域に則した研修が拡がっていることが窺える。
また,大学・大学院での講義・研修を経験した者が少なかった。
1人あたりの研修種数についてはTable2に示す。最小値が1であり,全ての回答者がこれまで少なくとも1種類は研修を受けていることが見られた。平均して3.24件の研修を受けていること,独学のみは4名のみであったことからも緊急支援に関わる研修の必要性が認知されてきたことが窺えた。
見通し不安と研修について 緊急支援に入ることへの見通しと不安と,研修種数についての相関がTable3である。ここでは,見通し,不安に影響を与えると考えられるこれまでの緊急支援の総経験数(窪田ら,2015)についても検討を行っている。
研修種数と見通しには有意な弱い正の相関がみられた。より多くの研修種数を受けている者が,緊急支援についてより見通しを持てているという結果であった。不安とは有意な相関は見られなかった。また,総経験数とは,見通しと有意な弱い正の相関が見られ,不安とは有意な負の中程度の相関が見られた。より多くの経験をしている者が,緊急支援についてより見通しを持て,より不安が小さくなっているという結果であった。
ただ,総経験数と研修種数については,SC歴とも関連がある部分である為,今後,より詳細に検討する必要がある。
まとめと今後の課題 緊急支援に関わる研修について,それぞれの地域で広く実施されていることを窺うことができた。ただ,大学・大学院における講義・研修が少なく,臨床心理士の養成課程における研修の必要性が考えられた。
研修を受けることが,見通しを持つことに役立つ可能性が示唆されたが,このことについては実際の研修における効果検証を行うことでより詳細に検討する必要がある。そのことによって,緊急支援に関するより有効な研修のあり方を今後検討していくことが求められる。
*本研究の実施に際しては日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191)の助成を受けた。