[PG045] 小・中・高校生の生活経験の様相
ポジティブ・イベントおよび向社会的行動の側面から
キーワード:ポジティブ・イベント, 向社会的行動, 学校段階
問題と目的
児童期から青年期の自己意識の発達については,小学校から中学校・高校にかけて,自己意識が高まることやその様相が分化すること,全体的に自己意識の様相が否定的になることなどが報告されてきた(e.g. Harter, 2006)。そこには,身体発達や認知発達という個人内の変化と共に,人間関係の変化や学校段階の移行による生活世界の変化など,様々な環境の変化が関連する(溝上・水間, 1997)。また,その場にふさわしい行動様式の獲得による個人の行動スタイルの変化も経験されることになる(Lewin, 1939)。
では実際に,どのような生活経験の変化が見られるのだろうか。本研究では,日常的に経験される出来事の経験頻度と行動のパターンからこの点について検討することとする。前者についてはポジティブ・イベント(三浦, 2013; 吉武, 2010),後者については向社会的行動(尾関ら, 2008; 西村ら, 2012)をとりあげ,その経験頻度を小学校から高校までの学校段階および性による差を比較する。
方法
手続き 小学校および中学校における質問紙調査を行った。各クラスの担任教員によって,質問項目を読み上げる形で一斉に実施された。
対象 小学4年生~中学3年生の児童・生徒321名(各学年の人数は下の学年から順に,n=100, 95, 91, 117, 101, 103。男子比率は44%~55%)。ただし対象校はいずれの学校段階でも1校だけであった。
調査内容 ①ポジティブ・イベント尺度 吉武(2010)の中学生版ポジティブ・イベント・チェックリスト(T1)より,「数日前からの体調不良が回復した」「学校を休んだら家族や友だちがとても心配してくれた」の項目を除外し,T2で用いられた「困っている人を助けたら感謝された」「友だちに頼りにされたり,必要とされたりした」および「人に親切にして感謝された」の項目を追加した23項目。経験頻度について3件法で回答を求めた。②向社会的行動 横塚(1989),吉村(2003),尾関・朴・中島(2008),西村・村上・櫻井(2012)をもとにした38項目,4件法。③生活満足度尺度。
結果
①ポジティブ・イベント経験の性差・学年差 23項目それぞれについて,性と学校段階を要因とした二要因分散分析を行った(Table 1)。効力感を感じる経験は小学生において,他者との関わりにおける有用感を感じる経験は中学生においてより多く経験されているようであった。
②向社会的行動の性差・学年差 ①と同様,38項目それぞれについて,性と学校段階を要因とした二要因分散分析を行った。38項目中36項目で学年による差が有意,うち35項目で,高校生が他の者より得点が低かった。小中学生間で差があったのは11項目(小<中は6項目;小>中は5項目)であった。性差は18項目で有意であり,すべての項目で女子の方が得点が高かった。
【考 察】
学校段階が上がるにつれて,効力感に関わるポジティブ・イベントの経験頻度は低下しており,それを補うように中学段階の者では有用感を感じる経験が高くなっていた。高校生ではポジティブ・イベント経験も向社会的行動経験も著しく低かったが,高校生向けの項目として不適切だった可能性も考えられる。その点も含め,今後,対象校を増やして本結果を確認する必要がある。
児童期から青年期の自己意識の発達については,小学校から中学校・高校にかけて,自己意識が高まることやその様相が分化すること,全体的に自己意識の様相が否定的になることなどが報告されてきた(e.g. Harter, 2006)。そこには,身体発達や認知発達という個人内の変化と共に,人間関係の変化や学校段階の移行による生活世界の変化など,様々な環境の変化が関連する(溝上・水間, 1997)。また,その場にふさわしい行動様式の獲得による個人の行動スタイルの変化も経験されることになる(Lewin, 1939)。
では実際に,どのような生活経験の変化が見られるのだろうか。本研究では,日常的に経験される出来事の経験頻度と行動のパターンからこの点について検討することとする。前者についてはポジティブ・イベント(三浦, 2013; 吉武, 2010),後者については向社会的行動(尾関ら, 2008; 西村ら, 2012)をとりあげ,その経験頻度を小学校から高校までの学校段階および性による差を比較する。
方法
手続き 小学校および中学校における質問紙調査を行った。各クラスの担任教員によって,質問項目を読み上げる形で一斉に実施された。
対象 小学4年生~中学3年生の児童・生徒321名(各学年の人数は下の学年から順に,n=100, 95, 91, 117, 101, 103。男子比率は44%~55%)。ただし対象校はいずれの学校段階でも1校だけであった。
調査内容 ①ポジティブ・イベント尺度 吉武(2010)の中学生版ポジティブ・イベント・チェックリスト(T1)より,「数日前からの体調不良が回復した」「学校を休んだら家族や友だちがとても心配してくれた」の項目を除外し,T2で用いられた「困っている人を助けたら感謝された」「友だちに頼りにされたり,必要とされたりした」および「人に親切にして感謝された」の項目を追加した23項目。経験頻度について3件法で回答を求めた。②向社会的行動 横塚(1989),吉村(2003),尾関・朴・中島(2008),西村・村上・櫻井(2012)をもとにした38項目,4件法。③生活満足度尺度。
結果
①ポジティブ・イベント経験の性差・学年差 23項目それぞれについて,性と学校段階を要因とした二要因分散分析を行った(Table 1)。効力感を感じる経験は小学生において,他者との関わりにおける有用感を感じる経験は中学生においてより多く経験されているようであった。
②向社会的行動の性差・学年差 ①と同様,38項目それぞれについて,性と学校段階を要因とした二要因分散分析を行った。38項目中36項目で学年による差が有意,うち35項目で,高校生が他の者より得点が低かった。小中学生間で差があったのは11項目(小<中は6項目;小>中は5項目)であった。性差は18項目で有意であり,すべての項目で女子の方が得点が高かった。
【考 察】
学校段階が上がるにつれて,効力感に関わるポジティブ・イベントの経験頻度は低下しており,それを補うように中学段階の者では有用感を感じる経験が高くなっていた。高校生ではポジティブ・イベント経験も向社会的行動経験も著しく低かったが,高校生向けの項目として不適切だった可能性も考えられる。その点も含め,今後,対象校を増やして本結果を確認する必要がある。