[PA62] 高知能の発達障害児に関する検討
IQ125以上の5例を通して
キーワード:高知能, 発達障害, WISC-Ⅲ
目 的
偉業を成し遂げた人物について調査してみると,現在であれば発達障害と診断されるのではないかという研究がある。実際に発達障害を疑って受診する子どもの中には高知能児が存在する。しかし精神科診療所を受診する時点で,何らかの問題を抱えていることが推察できる。本研究では当院を受診したIQ125以上の高知能の発達障害児を取り上げ,心理検査や経過を分析し,高知能児の特徴について考える。
対象と方法
対象は,Aクリニックを受診し知能検査を実施した発達障害児のうち,IQが125以上の5名であった。検査時年齢は5歳~15歳で,全員男児であった。方法は,診療録から対象児の主訴,生育歴,家族歴,経過を調査し,さらにWISC-Ⅲを分析,プロフィール特徴について検討した。
結 果
① 対象児の主訴
5名全員が対人関係の問題を主訴として受診していた。低年齢の2名(5歳,6歳)は,担任教師との問題があった。11歳,13歳の2名は同級生とのトラブル,独り言が多いことを主訴としていた。15歳の男児は,反抗的な態度が目立つため,学校から受診を勧められていた。
② 対象児の診断
児童精神科医による診断は11歳,13歳の2例は自閉症スペクトラム障害(以下ASD)+注意欠陥多動性障害(以下ADHD),その他はADHDであった。
③ WISC-Ⅲの分析
WISC-Ⅲを分析した結果は表1の通りであった。
全症例が動作性IQに比して言語性IQが高かった。また群指数間のばらつきが認められた。
④ 考察
全症例が対人関係の問題を訴えて受診していた。ただ,ASDの診断基準を満たすのは2例に留まった。いずれの症例も家庭より学校でのトラブルが目立ち,既成の枠組みに入り辛い様子が見受けられた。低年齢では同年齢の子どもができないような算数や国語の問題を解いてしまうため,教師から「同級生との足並みがそろわず,扱いに困る子ども」として見られていた。年齢が上がると,それは「反抗的」と捉えられ,社会性の問題に焦点が当てられていた。また対象児の過集中や転導性の高さにより,切り替えがうまくできないことが問題視されていた。しかし対象児の能力の高さは,これらの特性によって強化されているとも言える。WISC-Ⅲを分析すると,5例とも言語性が優位であることから,言語理解力,表現力に優れており,「口がたつ」と見られていることが推察できる。ただ同時にとったバウムテストを見ると,どの描画も年齢相応であり,描画年齢が高い訳ではないことがわかる。また日常生活を分析すると,高知能であるからと言って,情緒面は他児と変わらない成長をしていることが理解できる。このようなIQと情緒の乖離もまた,対人面の問題を大きくさせてしまう要因ではないかと考えられる。学習面では他児より先に考えついてしまうことで,時間をもてあまし,それが落ち着きのなさを助長させてしまう。このような対象児の「待てなさ」が教師のやり難さにつながり,対象児の問題行動として焦点が当てられていることがわかる。そして対象児が他児と合わせられなければ叱責されてしまう。以上のような状況も二次障害を引き起こすことにつながるのではないかと推察できる。高知能児を待たせる工夫や気づきを評価する姿勢が必要であり,高知能の発達障害児に関わる周囲の人たちの理解が二次障害を防ぐと考える。
偉業を成し遂げた人物について調査してみると,現在であれば発達障害と診断されるのではないかという研究がある。実際に発達障害を疑って受診する子どもの中には高知能児が存在する。しかし精神科診療所を受診する時点で,何らかの問題を抱えていることが推察できる。本研究では当院を受診したIQ125以上の高知能の発達障害児を取り上げ,心理検査や経過を分析し,高知能児の特徴について考える。
対象と方法
対象は,Aクリニックを受診し知能検査を実施した発達障害児のうち,IQが125以上の5名であった。検査時年齢は5歳~15歳で,全員男児であった。方法は,診療録から対象児の主訴,生育歴,家族歴,経過を調査し,さらにWISC-Ⅲを分析,プロフィール特徴について検討した。
結 果
① 対象児の主訴
5名全員が対人関係の問題を主訴として受診していた。低年齢の2名(5歳,6歳)は,担任教師との問題があった。11歳,13歳の2名は同級生とのトラブル,独り言が多いことを主訴としていた。15歳の男児は,反抗的な態度が目立つため,学校から受診を勧められていた。
② 対象児の診断
児童精神科医による診断は11歳,13歳の2例は自閉症スペクトラム障害(以下ASD)+注意欠陥多動性障害(以下ADHD),その他はADHDであった。
③ WISC-Ⅲの分析
WISC-Ⅲを分析した結果は表1の通りであった。
全症例が動作性IQに比して言語性IQが高かった。また群指数間のばらつきが認められた。
④ 考察
全症例が対人関係の問題を訴えて受診していた。ただ,ASDの診断基準を満たすのは2例に留まった。いずれの症例も家庭より学校でのトラブルが目立ち,既成の枠組みに入り辛い様子が見受けられた。低年齢では同年齢の子どもができないような算数や国語の問題を解いてしまうため,教師から「同級生との足並みがそろわず,扱いに困る子ども」として見られていた。年齢が上がると,それは「反抗的」と捉えられ,社会性の問題に焦点が当てられていた。また対象児の過集中や転導性の高さにより,切り替えがうまくできないことが問題視されていた。しかし対象児の能力の高さは,これらの特性によって強化されているとも言える。WISC-Ⅲを分析すると,5例とも言語性が優位であることから,言語理解力,表現力に優れており,「口がたつ」と見られていることが推察できる。ただ同時にとったバウムテストを見ると,どの描画も年齢相応であり,描画年齢が高い訳ではないことがわかる。また日常生活を分析すると,高知能であるからと言って,情緒面は他児と変わらない成長をしていることが理解できる。このようなIQと情緒の乖離もまた,対人面の問題を大きくさせてしまう要因ではないかと考えられる。学習面では他児より先に考えついてしまうことで,時間をもてあまし,それが落ち着きのなさを助長させてしまう。このような対象児の「待てなさ」が教師のやり難さにつながり,対象児の問題行動として焦点が当てられていることがわかる。そして対象児が他児と合わせられなければ叱責されてしまう。以上のような状況も二次障害を引き起こすことにつながるのではないかと推察できる。高知能児を待たせる工夫や気づきを評価する姿勢が必要であり,高知能の発達障害児に関わる周囲の人たちの理解が二次障害を防ぐと考える。