[PD34] 教職志望学生による非言語的行動の読み取りに関する研究
児童生徒の表出する非言語的行動の理解状態に着目して
Keywords:非言語的行動, 理解状態, 読み取り
問題と目的
授業は,児童生徒と教師との相互作用により形成される。学びの主体者である児童生徒の学びの深化に着目するならば,教師には授業中の児童生徒の学びの状態を適宜見極めることが求められる。そのため,教師は,児童生徒の学びの状態を見極めるため様々な手がかりを活用すると考えられる。
河野 (1983) は,教育学部所属の学生が小学生の算数の文章題への解答過程の観察から,理解状態を予測する手がかりとして挙げた自由記述に基づき,理解状態の手がかりとなる6カテゴリー総計57種類の非言語的行動を示した。しかし,57種類の非言語的行動は,児童生徒の理解状態の程度から分類されておらず,カテゴリー間の関係も不明瞭という課題が残る。野中 (2016) は,教職志望学生を対象とした検討を行い,児童生徒の授業への理解状態の程度を表しているものの類似性に基づき57種類の非言語的行動を分類し,新たな7カテゴリーを見出した。しかし,この7カテゴリーは,類型化により見出されたものであるため,各非言語的行動の理解状態の程度を測定値として評定されたものではない。そこで,本研究では,授業場面における児童生徒の理解状態を示す非言語的行動を教職志望学生が捉える児童生徒の授業に対する理解状態の測定値評定の観点から探索的な分類を行うとともに,教職志望学生の非言語的行動に関連する教授スキル特性との関連も検討する。
方 法
調査協力者 教職志望学生153名が調査に協力した。分析には,回答に不備のある者を除いた150名のデータを使用した。
手続き 調査は,集団形式で質問紙を配付して実施した。質問紙の構成は以下のとおりであった。なお,その他の尺度も含められていたが,本稿では,本研究の目的に合致する項目のみを記載した。
教授スキル特性 北尾・速水・中村 (1988) の非言語的行動に関連する強調因子3項目 (5段階評定)。
児童生徒の非言語的行動 河野 (1983) が見出した容貌(A)3種類,時間(B)5種類,表情(C)14種類,エンピツ(D)9種類,思考(E)8種類,動作(F)18種類の6カテゴリー総計57種類の非言語的行動に対して,教師として授業を進める際,児童生徒の授業への理解状態をどの程度表していると思うかをそれぞれ5段階で評定を求めた。
結果と考察
非言語的行動の理解状態評定に基づく分類 各非言語的行動の理解状態に対する調査協力者の評定値間における相関係数を1より減算することによって,類似性に基づく相関係数から,調査協力者が理解状態の程度を評定した非言語的行動間の非類似度を算出し,この非類似度行列である距離行列に対してクラスター分析 (Ward法) を行った (Cophenetic ’r=.73)。その結果,解釈のしやすさから7クラスター解を採用した。各クラスターに含まれる非言語的行動の特徴として,第1クラスターは,(A)2種類,(B)1種類,(C)6種類,(D)2種類,(E)3種類の総計14種類から構成されていた。第2クラスターは,(D)2種類の総計2種類から構成されていた。第3クラスターは,(B)1種類,(D)2種類,(E)1種類,(F)5種類の総計9種類から構成されていた。第4クラスターは,(F)6種類の総計6種類から構成されていた。第5クラスターは,(A)1種類,(B)3種類,(C)1種類,(D)1種類,(F)3種類の総計9種類から構成されていた。第6クラスターは,(E)3種類の総計3種類から構成されていた。第7クラスターは,(C)7種類,(D)2種類,(E)1種類,(F)4種類の総計14種類から構成されていた。これらの結果は,河野 (1983) と異なり,非言語的行動の特性ではなく,授業に対する児童生徒の理解状態の程度から非言語的行動を再構築していく必要性を示唆している。
教授スキル特性による差異 教授スキル特性を測定する3項目に対する総得点の平均値 (12.03) を基準に,調査協力者を2群 (低群92名,高群58名) に分類した。非言語的行動の理解状態における各クラスターの評定値に対し,教授スキル特性得点を被験者間要因とする対応のないt検定を行った。その結果,第2クラスターのみに有意な差が認められ(t(148)=2.02, p=.045(r=0.16)),教授スキル特性高群の方が低群よりも高い理解状態を表すと考えていたことを示している。そのため,第2クラスターに含まれる「エンピツを机に置く」,「筆記用具を片付ける」の2種類の非言語的行動が表す理解状態の程度には他と異なる特性を含意していることが示唆された。今後は,児童生徒の非言語的行動を理解状態の程度から評定する過程において教職志望学生の特性がどのように関連しているのかを精緻に検討していく必要があるだろう。
授業は,児童生徒と教師との相互作用により形成される。学びの主体者である児童生徒の学びの深化に着目するならば,教師には授業中の児童生徒の学びの状態を適宜見極めることが求められる。そのため,教師は,児童生徒の学びの状態を見極めるため様々な手がかりを活用すると考えられる。
河野 (1983) は,教育学部所属の学生が小学生の算数の文章題への解答過程の観察から,理解状態を予測する手がかりとして挙げた自由記述に基づき,理解状態の手がかりとなる6カテゴリー総計57種類の非言語的行動を示した。しかし,57種類の非言語的行動は,児童生徒の理解状態の程度から分類されておらず,カテゴリー間の関係も不明瞭という課題が残る。野中 (2016) は,教職志望学生を対象とした検討を行い,児童生徒の授業への理解状態の程度を表しているものの類似性に基づき57種類の非言語的行動を分類し,新たな7カテゴリーを見出した。しかし,この7カテゴリーは,類型化により見出されたものであるため,各非言語的行動の理解状態の程度を測定値として評定されたものではない。そこで,本研究では,授業場面における児童生徒の理解状態を示す非言語的行動を教職志望学生が捉える児童生徒の授業に対する理解状態の測定値評定の観点から探索的な分類を行うとともに,教職志望学生の非言語的行動に関連する教授スキル特性との関連も検討する。
方 法
調査協力者 教職志望学生153名が調査に協力した。分析には,回答に不備のある者を除いた150名のデータを使用した。
手続き 調査は,集団形式で質問紙を配付して実施した。質問紙の構成は以下のとおりであった。なお,その他の尺度も含められていたが,本稿では,本研究の目的に合致する項目のみを記載した。
教授スキル特性 北尾・速水・中村 (1988) の非言語的行動に関連する強調因子3項目 (5段階評定)。
児童生徒の非言語的行動 河野 (1983) が見出した容貌(A)3種類,時間(B)5種類,表情(C)14種類,エンピツ(D)9種類,思考(E)8種類,動作(F)18種類の6カテゴリー総計57種類の非言語的行動に対して,教師として授業を進める際,児童生徒の授業への理解状態をどの程度表していると思うかをそれぞれ5段階で評定を求めた。
結果と考察
非言語的行動の理解状態評定に基づく分類 各非言語的行動の理解状態に対する調査協力者の評定値間における相関係数を1より減算することによって,類似性に基づく相関係数から,調査協力者が理解状態の程度を評定した非言語的行動間の非類似度を算出し,この非類似度行列である距離行列に対してクラスター分析 (Ward法) を行った (Cophenetic ’r=.73)。その結果,解釈のしやすさから7クラスター解を採用した。各クラスターに含まれる非言語的行動の特徴として,第1クラスターは,(A)2種類,(B)1種類,(C)6種類,(D)2種類,(E)3種類の総計14種類から構成されていた。第2クラスターは,(D)2種類の総計2種類から構成されていた。第3クラスターは,(B)1種類,(D)2種類,(E)1種類,(F)5種類の総計9種類から構成されていた。第4クラスターは,(F)6種類の総計6種類から構成されていた。第5クラスターは,(A)1種類,(B)3種類,(C)1種類,(D)1種類,(F)3種類の総計9種類から構成されていた。第6クラスターは,(E)3種類の総計3種類から構成されていた。第7クラスターは,(C)7種類,(D)2種類,(E)1種類,(F)4種類の総計14種類から構成されていた。これらの結果は,河野 (1983) と異なり,非言語的行動の特性ではなく,授業に対する児童生徒の理解状態の程度から非言語的行動を再構築していく必要性を示唆している。
教授スキル特性による差異 教授スキル特性を測定する3項目に対する総得点の平均値 (12.03) を基準に,調査協力者を2群 (低群92名,高群58名) に分類した。非言語的行動の理解状態における各クラスターの評定値に対し,教授スキル特性得点を被験者間要因とする対応のないt検定を行った。その結果,第2クラスターのみに有意な差が認められ(t(148)=2.02, p=.045(r=0.16)),教授スキル特性高群の方が低群よりも高い理解状態を表すと考えていたことを示している。そのため,第2クラスターに含まれる「エンピツを机に置く」,「筆記用具を片付ける」の2種類の非言語的行動が表す理解状態の程度には他と異なる特性を含意していることが示唆された。今後は,児童生徒の非言語的行動を理解状態の程度から評定する過程において教職志望学生の特性がどのように関連しているのかを精緻に検討していく必要があるだろう。