[PD68] 教職希望学生の障害児・者に対する態度
障害児・者との接触経験の時期および内容との関連
Keywords:障害理解, 特別支援教育, インクルーシブ教育
問題および目的
わが国では,1960年代の後半からノーマライゼーションなどの国際的な理念の影響を背景に障害児と健常児との対等平等な人間関係の構築のための「交流・共同教育」の実践が提起されるようになった(山本ほか,2007)。また現在の日本の教育は多様な教育的ニーズを包含するインクルーシブ教育を目指し,特殊教育から特別支援教育へと変わった。このような流れの中で,現在では多くの障害理解研究が行われるようになった(徳田,2005)。その中で,障害者に対する態度研究では,接触頻度の多さが障害者に対する好意的態度に結びつくと結論づける研究が少なくなく,そのため,障害者との接触の機会を設けさえすれば,障害者に対する態度が好意的なものになると考える傾向にある(向後,2005)。しかし,接触の機会があるだけで態度が変化するのだろうか。そこで本研究では,保育所・幼稚園時代,小学校時代,中学校・高等学校時代,そして現在である大学時代の接触経験に着目し,障害児・者との接触経験と障害児・者に対する態度との関連を明らかにすることを目的とした。
方 法
(1)調査協力者
4年制大学に在籍している教員免許取得希望の学生で,介護等体験後の大学生385名に対し,集団形式で質問紙調査を実施し385部を回収,無記入部分の多いもの46部を除いた339部が分析対象(有効回答率88.05%)。調査期間は2014年9月21日~12月21日。
(2)調査内容
学部,学年,接触時期別の障害児・者との接触経験の内容,徳田(1990,1991)の「障害児・者に対する態度を測定するための多次元的態度尺度」(以下,多次元的態度尺度)等を使用。
なお,本研究は,佛教大学「人を対象とする研究計画等審査」の承認を得て実施した。
結果および考察
(1)多次元的態度尺度の因子分析
徳田(1990)の研究では,多次元的態度尺度は5因子50項目で標準化されたが,この尺度が開発された1990年から20年以上の年数が経過しており,障害児・者を取り巻く状況も変化している可能性があること,また50項目と項目が多いことの2点から,改めて因子分析を行うことにした。主因子法・Promax回転による因子分析の結果,5因子27項目に絞られ,障害児・者に対する態度として5因子をそれぞれ「統合教育」,「関わりの当惑」,「関わりの回避」,「特別な能力」,「特別視」と命名した。これを本研究においては「障害児・者に対する態度尺度」(以下,態度尺度)とした。
(2)基本属性と態度尺度との関連
障害児・者に対する態度に関連する要因を検討するために,性別と取得予定資格・教員免許に対してはt検定を,学部と学年に対しては一要因分散分析を行った結果,性別と取得予定資格・教員免許において有意差が認められたが,学部と学年についてはどの因子においても有意差は認められなかった。
(3)接触経験の時期および接触内容と態度尺度との関連
障害児・者に対する態度に関連する要因を接触時期別の接触経験の有無と経験内容から検討するためにt検定を行った。その結果,家族,親戚,友達等,身近な存在に障害児・者がいるかどうかと態度尺度との関連については,「家族」ではどの因子においても有意差は認められなかったが,「親戚」「友達」「身近な存在」では「関わりの当惑」「関わりの回避」等の因子で有意差が認められた。
接触時期においては,「保育所・幼稚園時代」ではどの因子においても有意差は認められなかったが,「小学校時代」「中・高等学校時代」「大学時代」では「関わりの当惑」「関わりの回避」等の因子で有意差が認められた。これらより障害児・者と接触することによって態度が変化する可能性が示された。しかし,どの時期においても「同じ教室で学んでいた」という単純接触だけでは有意差は認められず,「授業や行事以外で遊んだ」や「友達になった」といった積極的関与があった場合に有意差が認められた。特に小学校時代に,障害のある子どもと“どのように関わったか”が,現在の障害児・者に対する態度に関連していることが明らかになった。つまり小学校時代に場の共有(統合教育という形態)や「障害理解」にとどまらない「人間理解」の教育がなされ,個人レベルでの関わりの経験が広がることにより,障害児・者に対して対等な関係が築けるようになると考えられる。
わが国では,1960年代の後半からノーマライゼーションなどの国際的な理念の影響を背景に障害児と健常児との対等平等な人間関係の構築のための「交流・共同教育」の実践が提起されるようになった(山本ほか,2007)。また現在の日本の教育は多様な教育的ニーズを包含するインクルーシブ教育を目指し,特殊教育から特別支援教育へと変わった。このような流れの中で,現在では多くの障害理解研究が行われるようになった(徳田,2005)。その中で,障害者に対する態度研究では,接触頻度の多さが障害者に対する好意的態度に結びつくと結論づける研究が少なくなく,そのため,障害者との接触の機会を設けさえすれば,障害者に対する態度が好意的なものになると考える傾向にある(向後,2005)。しかし,接触の機会があるだけで態度が変化するのだろうか。そこで本研究では,保育所・幼稚園時代,小学校時代,中学校・高等学校時代,そして現在である大学時代の接触経験に着目し,障害児・者との接触経験と障害児・者に対する態度との関連を明らかにすることを目的とした。
方 法
(1)調査協力者
4年制大学に在籍している教員免許取得希望の学生で,介護等体験後の大学生385名に対し,集団形式で質問紙調査を実施し385部を回収,無記入部分の多いもの46部を除いた339部が分析対象(有効回答率88.05%)。調査期間は2014年9月21日~12月21日。
(2)調査内容
学部,学年,接触時期別の障害児・者との接触経験の内容,徳田(1990,1991)の「障害児・者に対する態度を測定するための多次元的態度尺度」(以下,多次元的態度尺度)等を使用。
なお,本研究は,佛教大学「人を対象とする研究計画等審査」の承認を得て実施した。
結果および考察
(1)多次元的態度尺度の因子分析
徳田(1990)の研究では,多次元的態度尺度は5因子50項目で標準化されたが,この尺度が開発された1990年から20年以上の年数が経過しており,障害児・者を取り巻く状況も変化している可能性があること,また50項目と項目が多いことの2点から,改めて因子分析を行うことにした。主因子法・Promax回転による因子分析の結果,5因子27項目に絞られ,障害児・者に対する態度として5因子をそれぞれ「統合教育」,「関わりの当惑」,「関わりの回避」,「特別な能力」,「特別視」と命名した。これを本研究においては「障害児・者に対する態度尺度」(以下,態度尺度)とした。
(2)基本属性と態度尺度との関連
障害児・者に対する態度に関連する要因を検討するために,性別と取得予定資格・教員免許に対してはt検定を,学部と学年に対しては一要因分散分析を行った結果,性別と取得予定資格・教員免許において有意差が認められたが,学部と学年についてはどの因子においても有意差は認められなかった。
(3)接触経験の時期および接触内容と態度尺度との関連
障害児・者に対する態度に関連する要因を接触時期別の接触経験の有無と経験内容から検討するためにt検定を行った。その結果,家族,親戚,友達等,身近な存在に障害児・者がいるかどうかと態度尺度との関連については,「家族」ではどの因子においても有意差は認められなかったが,「親戚」「友達」「身近な存在」では「関わりの当惑」「関わりの回避」等の因子で有意差が認められた。
接触時期においては,「保育所・幼稚園時代」ではどの因子においても有意差は認められなかったが,「小学校時代」「中・高等学校時代」「大学時代」では「関わりの当惑」「関わりの回避」等の因子で有意差が認められた。これらより障害児・者と接触することによって態度が変化する可能性が示された。しかし,どの時期においても「同じ教室で学んでいた」という単純接触だけでは有意差は認められず,「授業や行事以外で遊んだ」や「友達になった」といった積極的関与があった場合に有意差が認められた。特に小学校時代に,障害のある子どもと“どのように関わったか”が,現在の障害児・者に対する態度に関連していることが明らかになった。つまり小学校時代に場の共有(統合教育という形態)や「障害理解」にとどまらない「人間理解」の教育がなされ,個人レベルでの関わりの経験が広がることにより,障害児・者に対して対等な関係が築けるようになると考えられる。