[PD83] 別室登校に対する支援体制形成における課題
Keywords:不登校, 別室登校, 支援システム
問題と目的
再登校支援において別室登校を実現するためには,対象生徒だけでなく,別室を運営するための校内支援体制に対する介入が必要である。別室登校は,学校任意の教育活動として施設もマンパワーも校内資源の負担を余儀なくされるため,管理職は支援効果の見通しを検討した上で必ずしも積極的な判断をくだすとは限らない。また,SCなどの相談職が学校経営方針に介入することを好まない管理職も少なくなく,別室登校には生徒支援以外の多様な困難要因を伴っている。本研究では,別室の開設に際し,市教育委員会に所属するカウンセラー(以下CO)が介入して直面した困難場面に注目し,その抵抗要因を抽出する。
事例の概要
介入対象 公立A中学校
援助期間 X年6月からX+1年3月
問題の経過 当該校は小規規模校単学級で,3学年では約三分の一の生徒が不登校に陥り,保護者が市教委にその対策を訴えた。指導主事が校長に聞き取り調査を行うと,3学年は学力も高く落ち着いた良い学級で,家庭の教育環境にも恵まれ,欠席についてはいずれも保護者から病欠届けが出ているので不登校とはとらえていないとのことであった。長期欠席者は男子2名女子5名の7名で,男子1名はうつ病と診断されており,むやみに登校刺激を与えないように配慮しているとのことであった。市教委では,校内支援体制の再構築のための支援的介入が必要と判断し,COを1週1日定期派遣することに決定した。
支援経過
1.情報収集期 教育相談係の養護教諭がCOの調整役を担い,訪問日は不登校生徒やその保護者との個別相談が予定された。その訴えによると,当該クラスでは,小学校中学年からいじめが潜行し,その被害児が不登校に陥っていた。また,いずれの生徒も高校進学を希望しており,学級復帰に抵抗を示す一方,進路不安と学習支援の希求が一様に訴えられた。また,2名の女子生徒も抑うつ感が高く,受診を勧めたところ投薬治療が開始された。
2.別室登校の提案 COは,内申書に記載される出席を確保できるように別室登校をすすめ、定着度に応じた個別学習支援の開始を提案した。管理職は,以下の理由から別室の開設を留保した。
1)7名の生徒を収容する部屋が確保できない。
2)生徒には監督者が必要だが,職員配置に余裕がなく,教師の労働環境を守るためには授業と校務以上の仕事を命じるわけにいかない。
3)7名もの生徒が別室で生活する例外を認めると,学級で折り合う努力をしている生徒の士気を殺ぎ,集団指導の秩序を乱す危険が高い。
4)特定の生徒に対する別室での継続的な個別指導は、いかにも公平性を欠き,保護者会での承認が必要だが,教室登校への指導を問われれば反論できないし、不満が噴出する危険がある。
5)精神疾患の生徒に登校刺激を与えたり学習させることは文科省の研修での指導に反している。
3.別室登校の開始と経過 COの提案は,養護教諭から生徒指導主事に伝えられ,生徒指導主事が自主的に別室支援のコーディネーターを申し出た。管理職の承認を得て生徒指導主事が支援チームを形成し,教師7名と相談員1名の空き時間を組み合わせた手厚い支援が行われた。COは生徒と保護者のカウンセリングを継続して支援方針を作成し,勤務日の昼休みにチーム支援会議を開催して情報と方針を共有した。9月には全員の不登校が解消され,別室登校を経て全員が高校に進学した。
考 察
本事例で特筆すべき要因は,COが市教委に所属していたことである。本介入の成果は,管理職はじめ教師が上位組織として人事評価を行う市教委の指導的介入に対し,礼を尽くして最善の対応をしてくれた結果だといえる。別室登校での支援を一般化するためには,学校組織を対象とした支援システムの構築が課題であることが示唆される。
再登校支援において別室登校を実現するためには,対象生徒だけでなく,別室を運営するための校内支援体制に対する介入が必要である。別室登校は,学校任意の教育活動として施設もマンパワーも校内資源の負担を余儀なくされるため,管理職は支援効果の見通しを検討した上で必ずしも積極的な判断をくだすとは限らない。また,SCなどの相談職が学校経営方針に介入することを好まない管理職も少なくなく,別室登校には生徒支援以外の多様な困難要因を伴っている。本研究では,別室の開設に際し,市教育委員会に所属するカウンセラー(以下CO)が介入して直面した困難場面に注目し,その抵抗要因を抽出する。
事例の概要
介入対象 公立A中学校
援助期間 X年6月からX+1年3月
問題の経過 当該校は小規規模校単学級で,3学年では約三分の一の生徒が不登校に陥り,保護者が市教委にその対策を訴えた。指導主事が校長に聞き取り調査を行うと,3学年は学力も高く落ち着いた良い学級で,家庭の教育環境にも恵まれ,欠席についてはいずれも保護者から病欠届けが出ているので不登校とはとらえていないとのことであった。長期欠席者は男子2名女子5名の7名で,男子1名はうつ病と診断されており,むやみに登校刺激を与えないように配慮しているとのことであった。市教委では,校内支援体制の再構築のための支援的介入が必要と判断し,COを1週1日定期派遣することに決定した。
支援経過
1.情報収集期 教育相談係の養護教諭がCOの調整役を担い,訪問日は不登校生徒やその保護者との個別相談が予定された。その訴えによると,当該クラスでは,小学校中学年からいじめが潜行し,その被害児が不登校に陥っていた。また,いずれの生徒も高校進学を希望しており,学級復帰に抵抗を示す一方,進路不安と学習支援の希求が一様に訴えられた。また,2名の女子生徒も抑うつ感が高く,受診を勧めたところ投薬治療が開始された。
2.別室登校の提案 COは,内申書に記載される出席を確保できるように別室登校をすすめ、定着度に応じた個別学習支援の開始を提案した。管理職は,以下の理由から別室の開設を留保した。
1)7名の生徒を収容する部屋が確保できない。
2)生徒には監督者が必要だが,職員配置に余裕がなく,教師の労働環境を守るためには授業と校務以上の仕事を命じるわけにいかない。
3)7名もの生徒が別室で生活する例外を認めると,学級で折り合う努力をしている生徒の士気を殺ぎ,集団指導の秩序を乱す危険が高い。
4)特定の生徒に対する別室での継続的な個別指導は、いかにも公平性を欠き,保護者会での承認が必要だが,教室登校への指導を問われれば反論できないし、不満が噴出する危険がある。
5)精神疾患の生徒に登校刺激を与えたり学習させることは文科省の研修での指導に反している。
3.別室登校の開始と経過 COの提案は,養護教諭から生徒指導主事に伝えられ,生徒指導主事が自主的に別室支援のコーディネーターを申し出た。管理職の承認を得て生徒指導主事が支援チームを形成し,教師7名と相談員1名の空き時間を組み合わせた手厚い支援が行われた。COは生徒と保護者のカウンセリングを継続して支援方針を作成し,勤務日の昼休みにチーム支援会議を開催して情報と方針を共有した。9月には全員の不登校が解消され,別室登校を経て全員が高校に進学した。
考 察
本事例で特筆すべき要因は,COが市教委に所属していたことである。本介入の成果は,管理職はじめ教師が上位組織として人事評価を行う市教委の指導的介入に対し,礼を尽くして最善の対応をしてくれた結果だといえる。別室登校での支援を一般化するためには,学校組織を対象とした支援システムの構築が課題であることが示唆される。