日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(65-89)

ポスター発表 PD(65-89)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PD85] 児童発達支援施設の見学前後による「障害イメージ」変化の年度間比較

今野博信 (学泉舎)

キーワード:発達障害, 療育, 印象変化

はじめに
 教職課程の授業(M大学の非常勤)で,児童発達支援施設の見学を継続実施している。施設では,学齢前で発達に不安のある子どもの療育が行われている。教職を志す学生には,発達障害などへの理解を深めてほしいことから,子ども達と触れ合う体験を組み入れた見学内容で取り組みを続けている。
 2015年までの3年間,施設見学とその後の施設職員による出張特別講義を実施し,毎年,見学の直前(pre)直後(post)と約2ヶ月後(follow-up)の3時期に,SD法による「障害イメージ」の調査を行ってきた。見学内容は毎年概ね同一であるが,post期やf/u期での評定結果に違いが見られた。時間経過による変化を3年度間で比較し,今後の授業構成などに活かすことを目的とした。
方   法
 受講の3年生4年生のうち,3回の調査全てに回答が得られた77名を対象とした(2013年26,2014年35,2015年16)。20の形容詞対は松村・横川(2002)を参考にした。ネガティブからポジティブな表現に1から7を配点し,中点の4は「どちらでもない」とした。質問紙以外に感想文なども考察の対象にした。個人名秘匿などについて説明した。
結果と考察
 各年度3時期のデータを用い,項目間の因子分析を行い,5因子を抽出した。各因子で,かわいらしい・気の毒でない・共感できる・共生すべき,の4項目が共通していた。
 同じデータで評定者間の因子分析を行うと,各年度で3時期の評定の変わり易さに共通する傾向と異なる傾向が見られた。共通傾向は,表面的な印象に関わる項目の時間変化で,postにポジティブ評定が増加しf/uで減少する群が見られた。異なる傾向は,年度間での評定の変わり易さの差があり,それらは因子ごとに群間の差として表れた。
 図1では,年度間で因子に共通した4項目について,評定の変わり易さを3年間で比較している。X軸はpostの評定からpreの評定を減じた平均値であり,同様にY軸はf/u-postの平均値である。X軸の右寄りはpost期のポジティブ評定増加を示し,Y軸の上寄りはf/u期のポジティブ評定の増加を示している。マーカーの濃さと縁取りは年度,マーカーの形は共通の項目を示している。
 表面的な印象に依る「かわいらしい」はf/u期にポジティブ評定が減りがちで,共感性などは深く印象づけられたと見なせる。過年度より2015年度では,f/u期でのポジティブ評定増加が多く見られた。感想文などには,過去の自己の体験と見学の体験を比較する視点が多く見られた。
おわりに
 見学という同一の体験が,人によって多様な意味づけをされていることが示された。各自の受け止め方を,相互に交流し合う場の設定が有効である。他の教育課題についても,多角的で重層的な分かち合いができるように授業構成を考えるべきであろう。