The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF07] 対人配慮場面における児童期の要求表現伝達方略の発達(2)

「相手に負担が掛かる」という状況的な語用論知識に着目して

今井智子1, 秦野悦子2 (1.白百合女子大学, 2.白百合女子大学)

Keywords:コミュニケーション発達, 対人配慮, 児童期

問題と目的
 日常会話において,他者に気持ちを伝えたい時,人は状況に応じて,どのような伝達方略を用いるのだろうか。秦野(2001)は,成長とともに会話が上達するにつれ,相手の意図や背景情報を知ることに敏感になり,語用論知識を獲得・活用して,要求表現を行う際に直接的な言い方から間接的な言い方へと表現のレパートリーを広げていくとする。特に,間接要求表現の理解には,話し手の目標や状況,聞き手の状況や協力についての文脈情報が効果的な役割を果たしている(仲・無藤, 1983)。
 こうしたコミュニケーションの相互作用の中では,理解されたいと欲する面と相手に負担をかけまいと欲する面について,配慮される必要があり,Brown & Levinson(1987)は,ポライトネス理論の中で2つのface概念を用いている。
 今井(2016)は,「自分が急ぐ」という状況的な語用論知識に着目して,対人配慮場面における要求表現の伝達方略を分析した結果,状況的判断と情緒的配慮という2つの観点からカテゴリーが生成され,各カテゴリー使用の推移には学年や地域という社会文化的要因を考慮する必要があること,そして,レパートリーの多様性が保持されながらも(相手との関係性を含めた)状況へのふさわしさとして,4年生以降,表現の選択が最適化される傾向にある一方,目的の達成について個人により柔軟な判断・選択が可能になることを示唆した。
 本発表では,「相手に負担が掛かる」という状況的な語用論知識に着目した調査をもとに,分析を行ない,特徴を明らかにすることを目的とする。
方   法
調査対象者:小学1・2・4・6年生,東京・大阪の公立小学校,男女合計284名。調査課題:仲・無藤(1983)らをもとに作成した要求表現の漫画によるストーリー課題の中から,消しゴムの貸し借りを題材とした課題(「消しゴム課題」)を用いて,対人配慮場面として,相手に負担が掛かる状況の質問を設定した。手続き:白黒の紙芝居形式で,個別インタビューを実施した。セリフをイラストの吹き出しに自由に回答する方法を用いて,ICレコーダーでやりとりを録音した。分析:音声データからトランスクリプトを起こし,伝達方略の特徴についてカテゴリー分類した。今後は,学年・性別・地域の特徴について検討をおこなう。
結果と考察
カテゴリーの生成:収集した言語データの特徴は,状況的判断と情緒的配慮カテゴリーに分類された。
状況的判断カテゴリーの特徴:自他の優先度合いにより,相手の負担や不利益を減じる「相手優先型(例.「後で貸して」)」「自分優先型(例.「返して」)」「自他協調型(例.「一緒に使おう」)」の3カテゴリーが見出された。情緒的配慮カテゴリーの特徴:「婉曲性(例.「ちょっと貸して」)」「間接性(例.返してくれる?)」の2カテゴリーが見出された。特に今回は,間接性のレパートリーとして,相手の負担や不利益を減じる判断がなされない低学年児において,相手の気持ちを確認するために「許可」を求めたり(間接要求,「~いい?」),自分の気持ちを素直に伝えず「許可」を伝える(間接ほのめかし要求,例.「もうちょっとだけ使っていいよ」)という言語行為が見られた一方,「命令」形の直接要求(例.「返してくれ」)が行われることもある等,情緒的配慮を主とした直接-間接発話による豊かな言語行為の表出も確認された。伝達方略の特徴:「状況的判断のみ」「情緒的配慮のみ」「状況的判断と情緒的配慮」を用いた伝達方略が確認された。今後は,対人配慮の特徴を学年・性別・地域の点から検討するとともに,こうした配慮が,場の状況的判断のみならず,自分,相手との関係性といった二者の相互作用の中で理解・確認され,直接-間接発話を用いた豊かな情緒的配慮の方略をもたらす点について,発達的観点から考察する。