日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 展示場 (1階展示場)

[PF14] 乳幼児期におけるポジティブ共感

1,2歳児の行動についての探索的検討

植田瑞穂1, 桂田恵美子2 (1.関西学院大学大学院, 2.関西学院大学)

キーワード:ポジティブ共感, 共感行動, 乳幼児

問題と目的
 これまでの共感研究は,他者のネガティブ情動に対する共感に焦点が当てられてきたが,近年ポジティブ共感の役割も重視され始めている(Morelli, Lieberman, & Zaki; 2015)。本研究は,1~2歳児のポジティブ共感について,その発達的特徴を探索的に検討することや,測定法を提案することを目的とした。
方   法
研究対象児:1歳22名(男児7名,女児15名),2歳22名(男児9名,女児13名)。
課題:大学の実験室に対象児とその母親,実験者の3名が入室し,実験者または母親の演技による4種類の共感課題を行った。ポジティブ共感課題としてa「ケースを開けることができ喜ぶ」,b「電話で祝われ喜ぶ」を,ネガティブ共感課題としてc「針で指を刺して痛がる」,d「膝を痛がる」を設定した。実験者と母親は両課題から1つずつ演技を担当し,その割り当てと課題順序についてはカウンタバランスした。いずれも2課題終了した時点で10分間の自由遊びを挟んだ。各課題は以下の3パートを含んだ。①「嬉しい」「痛い」などの感情を大げさに表出する(30秒),②「嬉しかった」「治ってきた」など穏やかに言う(30秒),③対象児と遊ぶ(30秒)。
行動評定:Robinson & Zahn-Waxler(2002)の評定システムのうち,「ポジティブ感情」(7件法,1~4点)をポジティブ共感課題における情動的共感得点とし,「苦痛/恐怖」(4件法,1~4点)をネガティブ共感課題における同得点とした。また,演技者を志向する潜時(s)を,60sを上限として測定した。さらに,相手への称賛を含む行動を記述的に記録した。なお,演技や撮影で不具合が生じた場合は,該当部分を欠損値として扱った。
結果と考察
 ポジティブ共感課題とネガティブ共感課題における情動的共感得点の相関を検討したが,いずれの組み合わせにも有意な関連は見られなかった。このことから,両特性は互いに独立したものである可能性がある。
 ポジティブ共感課題における情動的共感得点についてそれぞれ演技者(2)×年齢(2)のANOVAを行ったところ,a「ケース」課題における年齢の主効果のみが有意であった(p < .05)。またb「電話」課題において,実験者より母親に対する演技者志向行動の潜時が有意に短いことが示された(p < .05)が,a「ケース」課題においてはその差は示されず,1歳より2歳の潜時が短い傾向があった(p < .10)。以上のように,情動的なポジティブ共感はこの時期に増加し,相手への反応も早くなる傾向にあると考えられるが,b「電話」の演技に対しては通話中の反応が抑制されたとみられる。さらに,相手への称賛を含む行動については,拍手する(3名),飛び跳ねる(2名),「やったー」と言う(2名),ハイタッチをする(1名)が見られたが,1名を除き全てa「ケース」課題で見られていることから,ポジティブ共感の測定法としては同課題の方が適切であると考えられる。
謝辞:本研究は,文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成27年度~平成31年度)の支援により実施した。