[PF23] 教室における児童の感情表出と学業適応
学級レベルの効果に着目した検討
Keywords:児童期, 感情, 学業適応
問題と目的
近年,教授学習場面における学習者の感情に中心的な意味づけを持たせた研究が進められている(e.g., Pekrun & Linnenbrink-Garcia, 2014)。そこでは,学業達成に対する学習者(児童生徒)の感情経験の効果(e.g., Pekrun et al., 2009)や,感情サポートの豊富な学級に所属することの効果(e.g., Pianta et al., 2008)などが示されてきた。
しかし,これらの先行研究では,児童が教室の日常生活の中で経験し表出する感情が学業適応に及ぼす効果については検討されていない。学級での児童の感情表出の効果については,熟達した教師の担当する特定の学級を対象としたエスノグラフィック研究で示唆されるに留まっている(e.g., Zembylas, 2004)。また,学級レベルで見たときの児童の感情表出の効果,すなわち感情的トーンが異なる学級に所属することの効果について実証的な検討がなされていない。さらに,児童側の感情表出と教師からの感情サポートの交互作用や,その効果の学級間差についても未検討である。
そこで本研究では,学級での児童の感情表出と学業適応との関連について,個人レベルの効果と学級レベルの効果を同時に検討する。
方 法
調査協力者
1都2県の公立小学校15校の4・5・6年生68学級の児童1,976名(男児1,026名,女児942名,不明8名)を対象に調査を行った。
手続き
2015年11月―2016年2月にかけて,対象校の児童と担任教諭に対し質問紙調査を実施した。
調査内容
教室での感情表出(坂上(1999)の感情語;全10項目,4件法),教師からの感情サポート(Patrick et al.(2011)の感情サポート尺度を参考;4項目,4件法),感情的エンゲージメントと行動的エンゲージメント(Skinner et al.(2009)のエンゲージメント尺度の日本語版(梅本・田中, 2012);各4項目,4件法),学業不安(伊藤ほか(2003)の学業不安尺度から選出;2項目,4件法),無気力感(岡安ほか(1992)の無気力的認知・思考の項目を参考;3項目,4件法),学級での学業成績(1項目,5件法)についてたずねた。
結果と考察
モデルの概要
Mplus ver.7.11(Muthén & Muthén, 1998-2012)を用いてマルチレベル分析を行った。児童レベルの変数として感情表出得点(ポジティブ/ネガティブ感情)と感情サポート得点を独立変数,児童の学業適応得点(感情的/行動的エンゲージメント,学業不安,無気力感,学業成績)を従属変数とし,児童レベルの効果と学級レベルの効果を同時に仮定したモデルの下で分析を行った。学級レベルの変数として児童評定得点の学級集計値を用いた。
推定の結果
児童レベルの効果として,ポジティブ感情表出は感情的エンゲージメント(γ ̂_10=0.31),行動的エンゲージメント(γ ̂_10=0.19),学級内での学業成績(γ ̂_10=0.17)と有意な正の関連,学業不安(γ ̂_10=-0.16),無気力感(γ ̂_10=-0.21)と有意な負の関連を示した。ネガティブ感情表出は感情的エンゲージメント(γ ̂_20=-0.08),行動的エンゲージメント(γ ̂_20=-0.06)と有意な負の関連,学業不安(γ ̂_20=0.34),無気力感(γ ̂_20=0.25)と有意な正の関連を示した。教師からの感情サポートは感情的エンゲージメント(γ ̂_30=0.45),行動的エンゲージメント(γ ̂_30=0.32)と有意な正の関連,無気力感(γ ̂_30=-0.30)と有意な負の関連を示した。
学級レベルの効果として,ポジティブ感情表出は感情的エンゲージメント(γ ̂_01=0.49),行動的エンゲージメント(γ ̂_01=0.52)と有意な正の関連,無気力感(γ ̂_01=-0.38)と有意な負の関連を示した。ネガティブ感情表出は行動的エンゲージメント(γ ̂_02=-0.26)と有意な負の関連を示した。教師からの感情サポートは感情的エンゲージメント(γ ̂_03=0.50)と有意な正の関連,無気力感(γ ̂_03=-0.39)と有意な負の関連を示した。また,学業不安に対してはポジティブ感情表出と教師からの感情サポートの学級レベルの交互作用が確認された。
学級レベルの結果から,感情サポートの量という意味での感情的風土(Pianta et al., 2008)の効果に加え,学級レベルの感情表出の効果(Zembylas, 2004)が実証的に示されたと言える。
近年,教授学習場面における学習者の感情に中心的な意味づけを持たせた研究が進められている(e.g., Pekrun & Linnenbrink-Garcia, 2014)。そこでは,学業達成に対する学習者(児童生徒)の感情経験の効果(e.g., Pekrun et al., 2009)や,感情サポートの豊富な学級に所属することの効果(e.g., Pianta et al., 2008)などが示されてきた。
しかし,これらの先行研究では,児童が教室の日常生活の中で経験し表出する感情が学業適応に及ぼす効果については検討されていない。学級での児童の感情表出の効果については,熟達した教師の担当する特定の学級を対象としたエスノグラフィック研究で示唆されるに留まっている(e.g., Zembylas, 2004)。また,学級レベルで見たときの児童の感情表出の効果,すなわち感情的トーンが異なる学級に所属することの効果について実証的な検討がなされていない。さらに,児童側の感情表出と教師からの感情サポートの交互作用や,その効果の学級間差についても未検討である。
そこで本研究では,学級での児童の感情表出と学業適応との関連について,個人レベルの効果と学級レベルの効果を同時に検討する。
方 法
調査協力者
1都2県の公立小学校15校の4・5・6年生68学級の児童1,976名(男児1,026名,女児942名,不明8名)を対象に調査を行った。
手続き
2015年11月―2016年2月にかけて,対象校の児童と担任教諭に対し質問紙調査を実施した。
調査内容
教室での感情表出(坂上(1999)の感情語;全10項目,4件法),教師からの感情サポート(Patrick et al.(2011)の感情サポート尺度を参考;4項目,4件法),感情的エンゲージメントと行動的エンゲージメント(Skinner et al.(2009)のエンゲージメント尺度の日本語版(梅本・田中, 2012);各4項目,4件法),学業不安(伊藤ほか(2003)の学業不安尺度から選出;2項目,4件法),無気力感(岡安ほか(1992)の無気力的認知・思考の項目を参考;3項目,4件法),学級での学業成績(1項目,5件法)についてたずねた。
結果と考察
モデルの概要
Mplus ver.7.11(Muthén & Muthén, 1998-2012)を用いてマルチレベル分析を行った。児童レベルの変数として感情表出得点(ポジティブ/ネガティブ感情)と感情サポート得点を独立変数,児童の学業適応得点(感情的/行動的エンゲージメント,学業不安,無気力感,学業成績)を従属変数とし,児童レベルの効果と学級レベルの効果を同時に仮定したモデルの下で分析を行った。学級レベルの変数として児童評定得点の学級集計値を用いた。
推定の結果
児童レベルの効果として,ポジティブ感情表出は感情的エンゲージメント(γ ̂_10=0.31),行動的エンゲージメント(γ ̂_10=0.19),学級内での学業成績(γ ̂_10=0.17)と有意な正の関連,学業不安(γ ̂_10=-0.16),無気力感(γ ̂_10=-0.21)と有意な負の関連を示した。ネガティブ感情表出は感情的エンゲージメント(γ ̂_20=-0.08),行動的エンゲージメント(γ ̂_20=-0.06)と有意な負の関連,学業不安(γ ̂_20=0.34),無気力感(γ ̂_20=0.25)と有意な正の関連を示した。教師からの感情サポートは感情的エンゲージメント(γ ̂_30=0.45),行動的エンゲージメント(γ ̂_30=0.32)と有意な正の関連,無気力感(γ ̂_30=-0.30)と有意な負の関連を示した。
学級レベルの効果として,ポジティブ感情表出は感情的エンゲージメント(γ ̂_01=0.49),行動的エンゲージメント(γ ̂_01=0.52)と有意な正の関連,無気力感(γ ̂_01=-0.38)と有意な負の関連を示した。ネガティブ感情表出は行動的エンゲージメント(γ ̂_02=-0.26)と有意な負の関連を示した。教師からの感情サポートは感情的エンゲージメント(γ ̂_03=0.50)と有意な正の関連,無気力感(γ ̂_03=-0.39)と有意な負の関連を示した。また,学業不安に対してはポジティブ感情表出と教師からの感情サポートの学級レベルの交互作用が確認された。
学級レベルの結果から,感情サポートの量という意味での感情的風土(Pianta et al., 2008)の効果に加え,学級レベルの感情表出の効果(Zembylas, 2004)が実証的に示されたと言える。