[PF26] VA法は聴解力向上に効果を発揮するのか
非漢字圏日本語学習者を対象とした予備的検討
Keywords:VA法, シャドーイング, 音読
問題と目的
近年,シャドーイングに加え,シャドーイングとビジュアル・シャドーイング(オンライン音読)を組み合わせたビジュアル・オーディトリー・シャドーイング法(以下VA法)という聴解指導法が,外国語教育において注目されつつある。VA法は,元々日本人英語学習者を対象として開発され,実証的研究が進められてきた。一方,日本語教育の分野では,中山(2016)が漢字圏出身の日本語学習者を対象に,VA法は他の方法 (シャドーイングおよび音読) と比較して,聴解力向上により効果があるかについて予備的な検討を行っている。しかしながら,非漢字圏出身の日本語学習者を対象とした研究は見当たらない。そこで本研究では,非漢字圏出身者を対象に,VA法の実証性について予備的な検討を行う。
方 法
1.実験協力者
日本の国立大学に通う留学生9名が実験に参加した。実験協力者は全員が非漢字圏出身であり,日本語学習歴の平均は31.0ヶ月であった。事後に実施した日本語能力テスト(SPOTテスト)の平均点は60.9点であり,日本語レベルは中級程度と推定された。9名の協力者を3名ごとに,VA群,シャドーイング群(以下AS群),およびビジュアル・シャドーイング群(以下VS群)に割りあてた。
2.実験計画
介入の効果を測定するため,漢字書き取りテストの変化量(事後テスト結果-事前テスト結果)を従属変数,SPOTテストの得点を共変量とする共分散分析を行った。
3.調査材料
中山 (2016) を参考に以下の材料を利用した。
(1) 学習用の読解材料:山内・橋本・金庭・田尻 (2012) が開発した日本語多読教材より,夏の風物詩「甲子園」(329文字)を採用した。この材料に基づき,次の4つを作成した。
(2) 漢字・年号の書き取りテスト:介入の効果を測定するため,読解材料をもとに22問からなる漢字・年号の書き取りテストを作成した。このテストは,音声呈示された日本語の単語を20秒以内に漢字や数字で書き取る形式であり,出題順序を変えて,実験の前後に実施された。
(3) VAシャドーイング用教材:マイクロソフト社のパワーポイントを利用して作成した。①表紙,②ASシャドーイングの指示,③カウントダウン,④AS用スライド(読解材料の音声呈示),⑤ASシャドーイングの終了告知,⑥VSシャドーイングの指示,⑦カウントダウン,⑧VS用スライド(読解材料の文字呈示,ルビ無),⑨VSシャドーイングの終了告知で,スライドを構成した。また,②から⑨を5回繰り返し自動呈示するよう設定した。
(4) ASシャドーイング用材料:上記①から⑤で,スライドを構成した。また,②から⑤を10回繰り返し自動呈示するよう設定した。
(5) VSシャドーイング用教材:上記①および,⑥から⑨で,スライドを構成した。⑥から⑨を10回繰り返し自動呈示するよう設定した。なお,すべての群に漢字語の音韻情報を与えるため,VS群の⑧には,全漢字にひらがなでルビを付記した。
4.手順
実験は個別に行われた。実験協力者は,①漢字・年号の書き取りテスト(事前),②指定された方法によるトレーニング,③漢字・年号の書き取りテスト(事後),④SPOTテストの順に,実験に参加した。各自にかかった時間は約90分であった。
結 果
書き取りテストの変化量をTable 1に示す。事後に行ったSPOTテストの結果を共変量,漢字書き取りテストの変化量を目的変数とした共分散分析を行った結果,群間の平均値に有意な差はなかった(F(2,8)=.12, n.s.)。しかしながら,この予備実験を通じて,日本語版VAシャドーイング法の実証性を検証するには,日本語表記の独自性を考慮し,実施方法に修正すべき点があることが明らかになった。
付 記
本研究は科学研究費補助金による助成を受けた(挑戦的萌芽研究,課題番号:16K13246,研究代表者:中山誠一)
近年,シャドーイングに加え,シャドーイングとビジュアル・シャドーイング(オンライン音読)を組み合わせたビジュアル・オーディトリー・シャドーイング法(以下VA法)という聴解指導法が,外国語教育において注目されつつある。VA法は,元々日本人英語学習者を対象として開発され,実証的研究が進められてきた。一方,日本語教育の分野では,中山(2016)が漢字圏出身の日本語学習者を対象に,VA法は他の方法 (シャドーイングおよび音読) と比較して,聴解力向上により効果があるかについて予備的な検討を行っている。しかしながら,非漢字圏出身の日本語学習者を対象とした研究は見当たらない。そこで本研究では,非漢字圏出身者を対象に,VA法の実証性について予備的な検討を行う。
方 法
1.実験協力者
日本の国立大学に通う留学生9名が実験に参加した。実験協力者は全員が非漢字圏出身であり,日本語学習歴の平均は31.0ヶ月であった。事後に実施した日本語能力テスト(SPOTテスト)の平均点は60.9点であり,日本語レベルは中級程度と推定された。9名の協力者を3名ごとに,VA群,シャドーイング群(以下AS群),およびビジュアル・シャドーイング群(以下VS群)に割りあてた。
2.実験計画
介入の効果を測定するため,漢字書き取りテストの変化量(事後テスト結果-事前テスト結果)を従属変数,SPOTテストの得点を共変量とする共分散分析を行った。
3.調査材料
中山 (2016) を参考に以下の材料を利用した。
(1) 学習用の読解材料:山内・橋本・金庭・田尻 (2012) が開発した日本語多読教材より,夏の風物詩「甲子園」(329文字)を採用した。この材料に基づき,次の4つを作成した。
(2) 漢字・年号の書き取りテスト:介入の効果を測定するため,読解材料をもとに22問からなる漢字・年号の書き取りテストを作成した。このテストは,音声呈示された日本語の単語を20秒以内に漢字や数字で書き取る形式であり,出題順序を変えて,実験の前後に実施された。
(3) VAシャドーイング用教材:マイクロソフト社のパワーポイントを利用して作成した。①表紙,②ASシャドーイングの指示,③カウントダウン,④AS用スライド(読解材料の音声呈示),⑤ASシャドーイングの終了告知,⑥VSシャドーイングの指示,⑦カウントダウン,⑧VS用スライド(読解材料の文字呈示,ルビ無),⑨VSシャドーイングの終了告知で,スライドを構成した。また,②から⑨を5回繰り返し自動呈示するよう設定した。
(4) ASシャドーイング用材料:上記①から⑤で,スライドを構成した。また,②から⑤を10回繰り返し自動呈示するよう設定した。
(5) VSシャドーイング用教材:上記①および,⑥から⑨で,スライドを構成した。⑥から⑨を10回繰り返し自動呈示するよう設定した。なお,すべての群に漢字語の音韻情報を与えるため,VS群の⑧には,全漢字にひらがなでルビを付記した。
4.手順
実験は個別に行われた。実験協力者は,①漢字・年号の書き取りテスト(事前),②指定された方法によるトレーニング,③漢字・年号の書き取りテスト(事後),④SPOTテストの順に,実験に参加した。各自にかかった時間は約90分であった。
結 果
書き取りテストの変化量をTable 1に示す。事後に行ったSPOTテストの結果を共変量,漢字書き取りテストの変化量を目的変数とした共分散分析を行った結果,群間の平均値に有意な差はなかった(F(2,8)=.12, n.s.)。しかしながら,この予備実験を通じて,日本語版VAシャドーイング法の実証性を検証するには,日本語表記の独自性を考慮し,実施方法に修正すべき点があることが明らかになった。
付 記
本研究は科学研究費補助金による助成を受けた(挑戦的萌芽研究,課題番号:16K13246,研究代表者:中山誠一)