[PF29] シンセティック・フォニックス指導が児童の書く力及び動機づけに及ぼす影響
保護者ボランティアによる公立小学校での実践
キーワード:シンセティック・フォニックス, 小学校英語教育
はじめに
小学校では,2020年に英語が正式な教科となる(文部科学省, 2013)。しかし,日本人児童を対象とした英語指導法の効果検証は十分になされておらず,実証的データに基づく知見の蓄積が急がれる。特に,教科化に伴い導入される「読み書き」の指導については,小学生に適した方法を明らかにしていく必要がある。また、英語を専門としない学級担任が英語授業を担当する可能性も考慮しつつ,その内容が決定されていくべきであろう。
現在広く導入されている「読み」の指導にフォニックスがある。この指導法は,国外においてその効果が繰り返し示されてきたが(e.g., Snowら,1998),国内での実証的研究は数が限られ(e.g., アレン玉井,2013),効果検証が追いついていないのが現状であると指摘されている(久野, 2014)。
木澤(2013,2016)では,中学生を対象とした調査及び実験を通し,フォニックスの多面的な効果が示されたが,より現実に即した文脈で,今後導入が見込まれる小学生を対象に指導効果の検討を行う必要があるだろう。
また,フォニックスにも様々な種類がある(アレン玉井,2013)。本研究では,その中で優位性が示されているにも関わらず(White,2005),日本での導入がほとんど例を見ないシンセティック・フォニックスを採用し,指導前後の児童の変化について検討を行う。
シンセティックとは「合成」という意味で,既習の音素を単語に合成したり,逆に単語を分解したりする活動を重視する方法である。
目 的
シンセティック・フォニックスの指導を受けることで,1)アルファベット文字知識,2)ディクテーションスキル,3)4技能に関する効力感,及び4)英語学習に対する動機づけに及ぼされる影響について明らかにする。
方 法
2016年12月~3月,都内公立小学校2校の外国語活動時間をそれぞれ5時限分用いて指導を実施した。対象は各学校の6年生(A校113名,B校103名)であり,指導を行ったのは保護者ボランティア(25名。英語指導経験あり)である。5回の授業で13のアルファベット小文字とそれらの音について指導した。筆者との指導案検討,及び模擬授業による確認を経たボランティアが,3人一組でクラスに入り,全く同様の指導を実施した。
初回と最終回に,質問紙調査(効力感・動機づけ)及びテスト(文字・ディクテーション)を実施した。
結 果
文字知識 指導前,13文字中5文字以下しか書けない生徒が62名いたが,指導後には9名にまで減少した。指導前後の平均文字数に有意な差が見られた(t(212)=-12.305, p<.01)。
ディクテーション 指導後のみ測定を行った結果,10単語中平均正答数が6.7単語であり,多くの児童が未習語を正確に綴れるようになっていることが示された。
効力感 英語の4技能に関する効力感を質問紙で測定した(e.g., 「知らない単語でも何となく読める」)。結果,指導の前後で得点が有意に向上した(t(435)=-3.845, p<.01)。
動機づけ 指導前後の動機づけに有意な差は見られなかったが(t(435)=-.392, n.s.),学校ごとに分析するとA校においてのみ,有意に向上していた(t(229)=-2.277, p<.05)。
考 察
小文字が定着していない児童が多かったが,中学校入学前にその差を縮められたことは意義深い。知識を使って未習語を読んだり書いたりできる経験が,児童の効力感を高め,動機づけの向上に繋がることが期待できる。
小学校では,2020年に英語が正式な教科となる(文部科学省, 2013)。しかし,日本人児童を対象とした英語指導法の効果検証は十分になされておらず,実証的データに基づく知見の蓄積が急がれる。特に,教科化に伴い導入される「読み書き」の指導については,小学生に適した方法を明らかにしていく必要がある。また、英語を専門としない学級担任が英語授業を担当する可能性も考慮しつつ,その内容が決定されていくべきであろう。
現在広く導入されている「読み」の指導にフォニックスがある。この指導法は,国外においてその効果が繰り返し示されてきたが(e.g., Snowら,1998),国内での実証的研究は数が限られ(e.g., アレン玉井,2013),効果検証が追いついていないのが現状であると指摘されている(久野, 2014)。
木澤(2013,2016)では,中学生を対象とした調査及び実験を通し,フォニックスの多面的な効果が示されたが,より現実に即した文脈で,今後導入が見込まれる小学生を対象に指導効果の検討を行う必要があるだろう。
また,フォニックスにも様々な種類がある(アレン玉井,2013)。本研究では,その中で優位性が示されているにも関わらず(White,2005),日本での導入がほとんど例を見ないシンセティック・フォニックスを採用し,指導前後の児童の変化について検討を行う。
シンセティックとは「合成」という意味で,既習の音素を単語に合成したり,逆に単語を分解したりする活動を重視する方法である。
目 的
シンセティック・フォニックスの指導を受けることで,1)アルファベット文字知識,2)ディクテーションスキル,3)4技能に関する効力感,及び4)英語学習に対する動機づけに及ぼされる影響について明らかにする。
方 法
2016年12月~3月,都内公立小学校2校の外国語活動時間をそれぞれ5時限分用いて指導を実施した。対象は各学校の6年生(A校113名,B校103名)であり,指導を行ったのは保護者ボランティア(25名。英語指導経験あり)である。5回の授業で13のアルファベット小文字とそれらの音について指導した。筆者との指導案検討,及び模擬授業による確認を経たボランティアが,3人一組でクラスに入り,全く同様の指導を実施した。
初回と最終回に,質問紙調査(効力感・動機づけ)及びテスト(文字・ディクテーション)を実施した。
結 果
文字知識 指導前,13文字中5文字以下しか書けない生徒が62名いたが,指導後には9名にまで減少した。指導前後の平均文字数に有意な差が見られた(t(212)=-12.305, p<.01)。
ディクテーション 指導後のみ測定を行った結果,10単語中平均正答数が6.7単語であり,多くの児童が未習語を正確に綴れるようになっていることが示された。
効力感 英語の4技能に関する効力感を質問紙で測定した(e.g., 「知らない単語でも何となく読める」)。結果,指導の前後で得点が有意に向上した(t(435)=-3.845, p<.01)。
動機づけ 指導前後の動機づけに有意な差は見られなかったが(t(435)=-.392, n.s.),学校ごとに分析するとA校においてのみ,有意に向上していた(t(229)=-2.277, p<.05)。
考 察
小文字が定着していない児童が多かったが,中学校入学前にその差を縮められたことは意義深い。知識を使って未習語を読んだり書いたりできる経験が,児童の効力感を高め,動機づけの向上に繋がることが期待できる。