The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF45] 小学校教師の協働学習における専門性発達

ライフヒストリー・アプローチによる専門性発達に関する要因の検討

児玉佳一 (東京大学大学院・日本学術振興会)

Keywords:協働学習, 専門性発達, ライフヒストリー・アプローチ

問題と目的
 今日では,様々な提言から,協働学習がより重視されている。そのため,有意義な協働学習のためにも,教師の協働学習における専門性に関する知見の蓄積が必要である。
 協働学習中の教師の専門性については知見が蓄積されつつあるが(e.g., 一柳, 2016; 児玉, 2015),その専門性の成長・発達過程はあまり検討されていない。教師の専門性発達は,近年,ライフヒストリー・アプローチによって検討されている(e.g., 藤原他, 2006; グッドソン・サイクス, 2006)。このアプローチは,教師の教職経験や私生活に関する語りから,教師の成長やそれに関する個人・社会・歴史的要因を捉えるものであり,協働学習における専門性発達に関する有益な示唆が期待できる。
 本研究は協働学習の経験が豊富な教師のライフヒストリーから,専門性発達やそれに関する要因を捉えることを目的とする。
方   法
 協力者 教職歴40年の浜崎教諭(男性,仮名)に協力いただいた。浜崎教諭は,協働学習を基盤とする「学びの共同体(佐藤, 2012)」の実践校(A小学校)で教務主任として関わり,大学教員や同僚教師から協働的に学び合う授業を実践されていると認められており,さらに協働学習実践に関する文献も上梓していることから,協働学習に関して経験豊富な教師として協力を依頼した。
 手続き 事前アンケートとして,1.小~大学生のときの協働学習経験(11件法,覚えていないも含めた),2.教職年数ごとの協働学習のイメージ(以下イメージ,-2:一斉授業の方が良い―2:協働学習の方が良い)や協働学習の実施度(以下実施度,-2:全く実施していない―2:ほぼすべての授業で実施)を尋ねた。インタビューはイメージや実施度の変化があった点に重点化し,その時の出来事やそれに対する思いや考えを尋ねた。
結果と考察
 被教育経験としての協働学習経験は,ほぼ全くないという回答であった。そのため,協働学習のイメージや実践知は,教師になってから得られた部分が大きいと考えられる。
 新任~A小学校まで 以降,浜崎教諭の語りの引用は“ ”で示す。被教育経験としての協働学習経験はほぼなかったが,初任期から協働学習へのイメージはポジティブであった。これは初任校の多くの同僚が“自分で考え,仲間と支え合う授業づくり”を考えていたことが関係する。こうした同僚から“教えたいことを教えない”で,リラックスして子どもたちに学び合いを委ねる授業を学んだため,イメージはポジティブであった。一方で,協働学習の実施度については,低めに評価している。これは“自分のやり方としては(当時から)変わってない”が,“やろうとしていたんだけど,うまく(やり方が)掴めな”かったために,実施度(実現度)は低いと述べている。“僕もそうやろうとしていたんだけど,どうもうまく掴めない”という感覚をもちながら実践を続けていく。
 A小学校時代 転機となったのはA小学校に赴任したとき(18年目)であった。当時の校長先生に誘われ,「学びの共同体」を実践する浜之郷小学校を見学した。そのときの心境について,“僕もこんな風にやりたいし,イメージとしてはすごく僕の中にある。全然違うところにあるものじゃなくて,僕自身がそういう風な形っていうのをイメージしていたからスッと入る”と述べている。そこからA小学校でも「学びの共同体」を実践し,講師から講評をいただくなかで,自分の実践が“理論的に明確に”なっていく感覚を経験していた。
 総合考察 以上より,協働学習における専門性発達に関する要因として,「協働学習を実践する同僚」が挙げられる。特に新任期において,こうした同僚から学べること,そして“どうもつかめない”感覚を打破する上で,「自分の協働学習イメージに合致した実践と出会う(浜崎先生の場合,学びの共同体)」ことや「実践が理論的に明確になる」ことが,協働学習実践のイメージを実施へ移すうえで重要であり,こうした環境や転機が浜崎教諭の専門性発達を促したと考えられる。