[PF53] 感謝感情と負債感情の喚起と共感性の関係の検討
キーワード:感謝感情, 負債感情, 共感性
問題・目的
人は,被援助状況におかれたとき,ありがたみを経験する。日本においては,ありがたみだけでなく,申し訳なさ,といった負債感情の経験も伴うことが指摘されている(一言ら,2008)。本研究では「感謝感情」を,他者の好意により利益を得たと認知するときに生じる,うれしさやありがたみの感情とし,「負債感情」を,他者から利益を得たと認知したときに経験する申し訳なさやすまなさなどのネガティブ感情とする。
欧米における感謝研究では,感謝感情が果たす共感性への働きに関して検討がされている(Watkins, 2014)。感謝感情の喚起は,その感情を経験している個人の共感性を高め,社会的関係の充足へつなげる,とする主張である。
しかし,感謝感情と負債感情の高まりが,特性ではない一時点での共感性を本当に高めるかどうかは明らかではない。本研究は,感謝の手紙による感謝感情と負債感情の喚起が,一時的な共感性に及ぼす影響を検討することを目的とする。
方 法
調査方法:質問紙法 参加者:大学生(感謝喚起条件76名・負債喚起条件55名) 質問紙構成:手助けをされて,ありがたかった相手に気持ちを伝える手紙(感謝喚起条件)または,申し訳なかった相手に気持ちを伝える手紙(負債喚起条件)の作成を求め,質問に回答させた。質問は,「感謝感情・負債感情」を測る8項目11件法と,「一時的な共感性」を測るため登張(2005)を参考に作成した4コマ漫画と,「並行的感情反応」10項目,「他者指向的反応」10項目,「役割取得」4項目7件法であった。
結果・考察
初めに,分析に用いる変数を作成した。感謝感情と負債感情は,各感情を測定する4項目の平均値を算出し,変数の得点とした。一時的な共感性は,下位概念に対応する項目をそれぞれ,主成分分析にかけた。主成分負荷量が0.3以下の項目を削除し残った「並行的感情反応」10項目,「他者指向的反応」8項目,「役割取得」4項目の平均値を,各下位概念の変数の得点とした。
感謝喚起条件と負債喚起条件の間における,感謝感情,負債感情の得点の差を一要因分散分析で検討した。感謝感情の得点は,感謝喚起条件(M=7.68,SD=1.39)と負債喚起条件(M=7.67,SD=1.33)の間に有意な差が見られなかった(F(1,129)=0.00,ns)が,理論的中央値の5よりは大きい値であった。負債感情の得点は,感謝喚起条件(M=3.77,SD=3.02)と負債喚起条件(M=6.60,SD=2.49)の間に有意な差が見られた(F(1,129)=32.38,p<.001)。
この結果から,感謝の手紙の操作は,どちらの条件においても感謝感情を喚起させ,ありがたみと申し訳なさの教示の違いは,負債感情の差のみをもたらしたことが明らかとなった。
条件間で共感性の各下位概念の得点の差が見られるか一要因分散分析により検討したが,いずれも差は見られなかった(並行的感情反応:F(1,129)=0.05,ns,他者指向的反応:F(1,129)=0.47,ns,役割取得F(1,129)=2.22,ns)。
負債感情の喚起の有無の違いだけでは,一時的な共感性に差があるとはいえないことが示された。
そこで,感謝感情と負債感情の変数と共感性の各下位概念との関係を検討することとした。両感情の変数を独立変数,3つの共感性の下位概念を従属変数とし,Amosにて共分散構造分析を行った。なお,条件は,感謝喚起条件を0,負債喚起条件を1のダミー変数としてモデルに投入し統制した。
分析結果は,下図に示した(CFI=.992,RMSEA=.075)。感謝感情は,並行的感情反応(β=.21,p<.05),他者指向的反応(β=.30,p<.001),役割取得(β=.17,p<.05)のすべてと有意な正の関係を示した。負債感情は,並行的感情反応(β=.14),他者指向的反応(β=.15),役割取得(β=.10)のすべてと有意な関係を示さなかった。
以上の結果から,感謝感情の喚起された程度は,一時的な共感性の高まりと関係がみられるが,負債感情の喚起された程度は,一時的な共感性の高まりと関係がみられないことが示唆された。
本研究は,科学研究費補助金の助成を受けて行われた(基盤研究(c)課題番号26380839)。
人は,被援助状況におかれたとき,ありがたみを経験する。日本においては,ありがたみだけでなく,申し訳なさ,といった負債感情の経験も伴うことが指摘されている(一言ら,2008)。本研究では「感謝感情」を,他者の好意により利益を得たと認知するときに生じる,うれしさやありがたみの感情とし,「負債感情」を,他者から利益を得たと認知したときに経験する申し訳なさやすまなさなどのネガティブ感情とする。
欧米における感謝研究では,感謝感情が果たす共感性への働きに関して検討がされている(Watkins, 2014)。感謝感情の喚起は,その感情を経験している個人の共感性を高め,社会的関係の充足へつなげる,とする主張である。
しかし,感謝感情と負債感情の高まりが,特性ではない一時点での共感性を本当に高めるかどうかは明らかではない。本研究は,感謝の手紙による感謝感情と負債感情の喚起が,一時的な共感性に及ぼす影響を検討することを目的とする。
方 法
調査方法:質問紙法 参加者:大学生(感謝喚起条件76名・負債喚起条件55名) 質問紙構成:手助けをされて,ありがたかった相手に気持ちを伝える手紙(感謝喚起条件)または,申し訳なかった相手に気持ちを伝える手紙(負債喚起条件)の作成を求め,質問に回答させた。質問は,「感謝感情・負債感情」を測る8項目11件法と,「一時的な共感性」を測るため登張(2005)を参考に作成した4コマ漫画と,「並行的感情反応」10項目,「他者指向的反応」10項目,「役割取得」4項目7件法であった。
結果・考察
初めに,分析に用いる変数を作成した。感謝感情と負債感情は,各感情を測定する4項目の平均値を算出し,変数の得点とした。一時的な共感性は,下位概念に対応する項目をそれぞれ,主成分分析にかけた。主成分負荷量が0.3以下の項目を削除し残った「並行的感情反応」10項目,「他者指向的反応」8項目,「役割取得」4項目の平均値を,各下位概念の変数の得点とした。
感謝喚起条件と負債喚起条件の間における,感謝感情,負債感情の得点の差を一要因分散分析で検討した。感謝感情の得点は,感謝喚起条件(M=7.68,SD=1.39)と負債喚起条件(M=7.67,SD=1.33)の間に有意な差が見られなかった(F(1,129)=0.00,ns)が,理論的中央値の5よりは大きい値であった。負債感情の得点は,感謝喚起条件(M=3.77,SD=3.02)と負債喚起条件(M=6.60,SD=2.49)の間に有意な差が見られた(F(1,129)=32.38,p<.001)。
この結果から,感謝の手紙の操作は,どちらの条件においても感謝感情を喚起させ,ありがたみと申し訳なさの教示の違いは,負債感情の差のみをもたらしたことが明らかとなった。
条件間で共感性の各下位概念の得点の差が見られるか一要因分散分析により検討したが,いずれも差は見られなかった(並行的感情反応:F(1,129)=0.05,ns,他者指向的反応:F(1,129)=0.47,ns,役割取得F(1,129)=2.22,ns)。
負債感情の喚起の有無の違いだけでは,一時的な共感性に差があるとはいえないことが示された。
そこで,感謝感情と負債感情の変数と共感性の各下位概念との関係を検討することとした。両感情の変数を独立変数,3つの共感性の下位概念を従属変数とし,Amosにて共分散構造分析を行った。なお,条件は,感謝喚起条件を0,負債喚起条件を1のダミー変数としてモデルに投入し統制した。
分析結果は,下図に示した(CFI=.992,RMSEA=.075)。感謝感情は,並行的感情反応(β=.21,p<.05),他者指向的反応(β=.30,p<.001),役割取得(β=.17,p<.05)のすべてと有意な正の関係を示した。負債感情は,並行的感情反応(β=.14),他者指向的反応(β=.15),役割取得(β=.10)のすべてと有意な関係を示さなかった。
以上の結果から,感謝感情の喚起された程度は,一時的な共感性の高まりと関係がみられるが,負債感情の喚起された程度は,一時的な共感性の高まりと関係がみられないことが示唆された。
本研究は,科学研究費補助金の助成を受けて行われた(基盤研究(c)課題番号26380839)。