日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 展示場 (1階展示場)

[PF56] 送り手の伝統的性役割観を内包する言葉かけが受け手に与える影響

自由記述にみる反応の差異

吉岡真梨子1, 井上弥2 (1.広島大学大学院, 2.広島大学)

キーワード:性役割, 言葉かけ, 好意的性差別

問題と目的
 「男性は仕事,女性は家庭」という性役割観は,日本における伝統的な価値観であり,日常の多様な「言葉かけ」には,このような伝統的性役割観が内包されている可能性がある。
 両面価値的性差別理論(Glick & Fiske, 1996)は,非伝統的な女性への敵意的態度だけでなく,伝統的な女性への好意的態度も偏見や差別であるとしている。言葉かけに援用すると,送り手の伝統的な性役割観を土台としたほめ言葉は,受け手の性役割を限定しているにも関わらず,ポジティブな感情を抱きやすく,送り手も受け手もその性差別に気づきにくいといえる。
 吉岡・井上(2016)は,受け手の性役割意識や身体的性別によって,送り手の伝統的性役割観を内包する言葉かけに対する感情や解釈の仕方が異なることを明らかにした。
 本研究では,吉岡・井上(2016)を踏まえて,伝統的性役割観を内包する言葉かけへの受け手の自由記述の資料をもとに,受け手の身体的性別による反応の差異を検討する。なお,サンプルサイズの問題により,発達段階差については扱わない。
方   法
参加者 大学生56名(女性28名,男性28名)。中学生134名(女性67名,男性67名)。
場面設定 参加者は身体的性別によって,女性吹き出し版,男性吹き出し版のいずれかの質問紙に回答した。質問紙では,料理・ピアノ・日曜大工・数学の4場面において,異性友人から言葉をかけられる物語が提示された。例えば,料理場面の言葉かけは「料理ができるなんてすごいね。」,日曜大工場面の言葉かけは「日曜大工ができるなんてすごいね。」であった。
質問項目 言葉かけへの反応の教示は,「『あなたは典型的な女性/男性だね(女性/男性らしいね)』と言っていた異性の友人から,ある日,下の絵のような言葉をかけられました。あなたがこのように言われたら,どう思いますか?下の吹き出しに思ったことをそのまま書いてください」であった。
結果と考察
 まず,自由記述について,「言葉かけの内容を受容しているかどうか」の受容・非受容(2)と「言葉かけの内容に対し,評価が妥当と認知しているか,自己評価より高いと認知しているか」の評価認知(2)の2観点を組み合わせて分類を行なった。その結果,「その他」群とあわせて5群に分けられた。
 次に,場面ごとに身体的性別における自由記述の5群の頻度についてχ2検定を行なった。全ての場面において,1%水準で有意又は10%水準で有意傾向がみられたため,場面ごとに残差分析を行なった。その結果,料理場面において,吉岡・井上(2016)と矛盾がみられたため,料理場面に焦点をあて記述する。残差分析(Table 1)から,「非受容・評価妥当認知」群の割合が,男性に少なく,女性に多いことが明らかになった。これは吉岡・井上の料理場面において,男性は女性よりも言葉かけを皮肉であると捉えやすい傾向があるという結果と一致していない。自由記述の内容から考察すると,Table 2からわかるように,女性は単純に皮肉とは判断できず,曖昧な疑問を返すだけにとどまっていることが推察される。
 以上より,料理場面において,女性は男性と比べ,直接的に皮肉と解釈する傾向が低いものの,伝統的性役割観を内包する言葉かけに対し,判断に戸惑い,受容しがたい反応をみせやすいと考えられる。これは,言葉かけに対し違和感を感じつつも,料理場面が女性の伝統的性役割行動場面であるとの意識が根付いているためにみられるギャップといえるだろう。