15:30 〜 17:30
[PC64] 自閉スペクトラム症の成人における心情理解と援助動機
キーワード:自閉スペクトラム症, 物語, アレキシサイミア
自閉スペクトラム症(ASD)者は,他者に対して共感を持ちにくいといわれてきた(Baron-Cohen & Wheelwright, 2004)。ところが,ASD者は,すべての他者に対して共感を持ちにくいのではなく,定型発達(TD)の他者に対して共感を持ちにくく,ASDの他者に対しては共感的な反応を示す可能性があることがわかってきた(Komeda, Kosaka et al., 2015)。特に,ASD者は,ASDの他者に対するエピソードの一貫性を効率よく検索できるが(Komeda et al., 2013),このことは,ASD者は,ASDの他者のことをよく理解できることを示している。加えて,近年の研究では,ASD者は,TD者よりもASDに対する正確な科学的知識を持っていることが明らかになっている (Gillespie-Lynch et al., 2017)。しかし,ASD者が,ASDを持つ登場人物に対する援助動機は明らかになっていない。
方 法
実験参加者 ASDの成人22名(女性7名,平均年齢26.8歳),TDの成人20名(女性8名,平均年齢26.8歳)が実験に参加した。両群ともに,知能指数は85以上で群間に有意差はなかった。
手続き 先行研究(Komeda et al., 2013)で作成したASDの人物が登場する物語12個と,TDの人物が登場する物語12個に改訂を加えて用いた。一つの物語は6文から構成されており,5文目までがASDの行動を記述した文脈,あるいはTDの行動を記述した文脈であり,6文目が結末で,ASDあるいはTDの行動が記述された。参加者は一文ごと文章を読み,結末文の読解時間を計測した。物語を読んだ後,それぞれの登場人物の心情をどれくらい理解できるか,どれくらい援助したいかを7段階で評定した。最後に,「感情の同定困難」,「感情の伝達困難」,「外的志向」からなる日本版 TAS-20 トロント・アレキシサイミア尺度(小牧・前田, 2003)を用いて,アレキシサイミア(失感情症)傾向を測定した。
結果と考察
読解時間を従属変数とした分散分析の結果,参加者と結末の交互作用が有意で(F(1, 40) = 6.45, p < .05),TD成人は,TD人物の物語のほうがASD物語よりも読解時間が短く,理解しやすいことがわかった(F(1, 19) = 13.41, p < .05)。心情理解評定を従属変数とした分散分析の結果,ASD成人は,TD人物よりもASD人物に対して心情が理解でき(F(1, 40) = 4.06, p < .05),TD成人は,ASD人物よりもTD人物に対して心情が理解できた(F(1, 40) = 5.83, p < .05)。援助動機評定を従属変数とした分散分析の結果,TD成人は,ASD人物よりもTD人物に対して援助をしようとしたが(F(1, 40) = 13.94, p < .05),ASD成人は,TD人物よりもASD人物に対して援助をするという結果は得られなかった。ASDに限らずアレキシサイミアを持つ人は他者に対する共感が低いことから(Bird et al., 2010),重回帰分析によってアレキシサイミア傾向を統制した(表1)。その結果,TD群はTD人物の心情を理解でき援助動機が高くなるのに対し,ASD群はASD人物に対して心情を理解できるが援助動機は高まらなかった。この結果は,ASD者の向社会行動が少ないという知見と関連する(Carter et al., 2005)。ASD者は,心情が理解できたとしても,自発的に援助行動を示さない可能性があることを示唆している。
方 法
実験参加者 ASDの成人22名(女性7名,平均年齢26.8歳),TDの成人20名(女性8名,平均年齢26.8歳)が実験に参加した。両群ともに,知能指数は85以上で群間に有意差はなかった。
手続き 先行研究(Komeda et al., 2013)で作成したASDの人物が登場する物語12個と,TDの人物が登場する物語12個に改訂を加えて用いた。一つの物語は6文から構成されており,5文目までがASDの行動を記述した文脈,あるいはTDの行動を記述した文脈であり,6文目が結末で,ASDあるいはTDの行動が記述された。参加者は一文ごと文章を読み,結末文の読解時間を計測した。物語を読んだ後,それぞれの登場人物の心情をどれくらい理解できるか,どれくらい援助したいかを7段階で評定した。最後に,「感情の同定困難」,「感情の伝達困難」,「外的志向」からなる日本版 TAS-20 トロント・アレキシサイミア尺度(小牧・前田, 2003)を用いて,アレキシサイミア(失感情症)傾向を測定した。
結果と考察
読解時間を従属変数とした分散分析の結果,参加者と結末の交互作用が有意で(F(1, 40) = 6.45, p < .05),TD成人は,TD人物の物語のほうがASD物語よりも読解時間が短く,理解しやすいことがわかった(F(1, 19) = 13.41, p < .05)。心情理解評定を従属変数とした分散分析の結果,ASD成人は,TD人物よりもASD人物に対して心情が理解でき(F(1, 40) = 4.06, p < .05),TD成人は,ASD人物よりもTD人物に対して心情が理解できた(F(1, 40) = 5.83, p < .05)。援助動機評定を従属変数とした分散分析の結果,TD成人は,ASD人物よりもTD人物に対して援助をしようとしたが(F(1, 40) = 13.94, p < .05),ASD成人は,TD人物よりもASD人物に対して援助をするという結果は得られなかった。ASDに限らずアレキシサイミアを持つ人は他者に対する共感が低いことから(Bird et al., 2010),重回帰分析によってアレキシサイミア傾向を統制した(表1)。その結果,TD群はTD人物の心情を理解でき援助動機が高くなるのに対し,ASD群はASD人物に対して心情を理解できるが援助動機は高まらなかった。この結果は,ASD者の向社会行動が少ないという知見と関連する(Carter et al., 2005)。ASD者は,心情が理解できたとしても,自発的に援助行動を示さない可能性があることを示唆している。