日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG40] 協同的な学習意識を育むスキルトレーニングの開発(2)

スキルの向上と協同認識・学習観の変化の関連

中山留美子1, 解良優基2 (1.奈良教育大学, 2.奈良教育大学)

キーワード:社会的(傾聴)スキル, 協同認識, 学習観

問題と目的
 協同学習の理論では,協同での学びを深めるためには,教育者による社会的スキルの支援(教授や強化)が不可欠であることが指摘されている。スキルの向上によって,効果的な学習が促されることは,協同で学ぶこと自体への肯定的な認識が促されると考えられる。しかし,スキルの向上が協同することに関する認識(協同認識)やどのような態度で学んでいるかという学習観(特に他者との関わりによって学ぶという関係的な学習観)の変化にどのように影響するのかということについて,実証的に検討した例は見当たらない。
 本研究はこの点について検討を行い,社会的ススキル(特に傾聴のスキル)の訓練を行うことの意義について明らかにすることを目的とした。
方   法
使用した尺度 ①傾聴スキル 解良・中山(発表(1))で使用した2下位尺度,6項目を用いた。 ②協同認識 長濱ら(2009)による協同作業認識尺度18項目を用いた。③関係的学習観 Galitti et al.(1999)による Attitudes Toward Thinking and Learning Survey(ATTLS)のConnected Knowing items10項目(中山,2016の因子分析による3下位尺度)を用いた。
調査対象および時期 傾聴スキルトレーニング(解良・中山,発表(1))を導入した大学授業の受講者に協力を呼びかけ,196名に調査を実施した。スキルは毎回授業後に,その他の変数は,初回,第8回,第15回授業後の3回測定を行った。
結   果
 スキルの向上と協同認識や学習観の変化の関連について検討するため,成長曲線モデルを用いた共分散構造分析を行った。分析モデルをFigure 1に示す。スキルについては,初回と第15回の差得点を「スキルの向上」の指標として算出し,それぞれ投入した。このモデルにおいて,スキルの向上の影響は,協同認識や学習観の変化の傾きに及ぶパスa,パスbに示される。このモデルに協同認識および学習観の各下位尺度を順次投入し,パスを推定した結果をTable 1に示す。
 分析の結果,「傾聴の態度」の向上が協同認識の高まりに,「聴き方」の向上が関係的学習観を強めることに影響していた。
考   察
 協同認識の肯定的な変化は主に傾聴の態度と関連し,学習観の肯定的な変化は聴き方の向上と関連していた。スキルの態度的側面(「傾聴的態度」)が協同による達成を促進し,協同に対する肯定的な認識を強める一方,行動的側面(聴き方)は他者から学ぶための具体的な学習態度や行動を増加させたと考えられる。両側面における向上の指標の相関は弱く(r=-.04),これらの側面はトレーニングによって連動して変化するものでは無いと考えられる。今後,行動と態度がそれぞれどのような要因によって変化するのか,検討を行っていく必要があるだろう。