10:00 AM - 12:00 PM
[PG49] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(23)
子どもの反社会性を抑制する親・友人・教師・地域住民エージェントの相互補完的機能
Keywords:反社会性, いじめ, 社会化エージェント
子どもが社会性をはぐくむ上で,親や友人など固有のエージェントとの相互作用は重要な役割を果たす(Grusec & Davidov, 2015)。吉澤他(2015, 2016)は,親,友人,教師,地域住民の4エージェントを取り上げ,潜在プロフィル分析により,エージェントからの働きかけが総じて豊かなクラスに属する子どもの社会性が高いことを見出している。複数の社会化エージェントを包括的に捉える視点を持つことにより,たとえ特定のエージェントから適切な働きかけが得られなかったとしても他のエージェントの働きかけにより子どもの向社会性が促進されるという,補完的な機能が想定される(玉井他, 2016)。こうしたエージェント間での補完的な機能は,子どもの反社会性を抑制する方向にも働くと考えられる。そこで本研究では,親,友人,教師,地域住民の4エージェントからの働きかけが,相互に補完的に機能しながら子どもの反社会性に及ぼす影響を検討する。反社会性の指標として,社会的認知バイアス(認知的歪曲と一般攻撃信念)に加えて,いじめ加害経験を扱う。
方 法
対象者 G県内で協力を得られた2市内の小学校14校(5年生21学級,6年生22学級),中学校5校(1年生18学級,2年生16学級,3年生18学級)で調査を実施した。回答者の負担を考慮し,調査は2回にわけて行った。児童生徒が2回の調査いずれにも回答し,かつ保護者からも回答の得られた1801名の小中学生(小学校:男子345名,女子376名;中学校:男子514名,女子566名)を分析対象とした。
測定内容 下記の尺度への回答を求めた。地域住民の集合的有能感は保護者に尋ねた。(1) 親の養育 中道・中澤(2003)の養育態度尺度を,回顧法用に改訂し用いた(10項目4件法)。(2) 友人の非行 吉澤・吉田(2010)の尺度を用いた(10項目3件法)。(3) 教師の指導 三隅・矢守(1989)の尺度からP機能に該当する8項目とM機能に該当する9項目を用いた(4件法)。(4) 地域住民の集合的有能感 吉澤他(2009)の非公式社会的統制と社会的凝集性・信頼からなる集合的有能感尺度を用いた(12項目4件法)。 (5) 認知的歪曲 吉澤他(2009)の尺度を用いた(14項目6件法)。(6) 一般攻撃信念 吉澤他(2009)の尺度を用いた(8項目4件法)。(7) いじめ加害経験 岡安・高山(2000)の尺度を用いた(3項目4件法)。
結果と考察
反社会性の3つの指標それぞれを目的変数とし,社会化エージェントからの働きかけを表す4変数および1次の交互作用項を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した。決定係数はいずれも1%水準で有意であった(R2s > .08)。一般攻撃信念に対しては友人の非行と親の養育との交互作用項が有意であった(β= -.058, p < .05)。±1SDを基準とした単純傾斜分析の結果,友人が非行をしていても,親の養育が良質であるほど一般攻撃信念の程度が小さいことが示された(Figure 1)。いじめ加害経験に対しては教師の指導と集合的有能感との交互作用項が有意であり(β= .064, p < .01),地域住民の集合的有能感が低い場合に,教師のPM型の指導(三隅他, 1977)がいじめ加害経験の抑制により強い影響を与えることが示唆された。以上の結果より,特定のエージェントの働きかけを他のエージェントが補完して子どもの社会性の獲得に寄与する働きが考えられる。今後は,エージェント同士が相互に働きかけて子どもへの関心を高める連携過程の検討が望まれる。
方 法
対象者 G県内で協力を得られた2市内の小学校14校(5年生21学級,6年生22学級),中学校5校(1年生18学級,2年生16学級,3年生18学級)で調査を実施した。回答者の負担を考慮し,調査は2回にわけて行った。児童生徒が2回の調査いずれにも回答し,かつ保護者からも回答の得られた1801名の小中学生(小学校:男子345名,女子376名;中学校:男子514名,女子566名)を分析対象とした。
測定内容 下記の尺度への回答を求めた。地域住民の集合的有能感は保護者に尋ねた。(1) 親の養育 中道・中澤(2003)の養育態度尺度を,回顧法用に改訂し用いた(10項目4件法)。(2) 友人の非行 吉澤・吉田(2010)の尺度を用いた(10項目3件法)。(3) 教師の指導 三隅・矢守(1989)の尺度からP機能に該当する8項目とM機能に該当する9項目を用いた(4件法)。(4) 地域住民の集合的有能感 吉澤他(2009)の非公式社会的統制と社会的凝集性・信頼からなる集合的有能感尺度を用いた(12項目4件法)。 (5) 認知的歪曲 吉澤他(2009)の尺度を用いた(14項目6件法)。(6) 一般攻撃信念 吉澤他(2009)の尺度を用いた(8項目4件法)。(7) いじめ加害経験 岡安・高山(2000)の尺度を用いた(3項目4件法)。
結果と考察
反社会性の3つの指標それぞれを目的変数とし,社会化エージェントからの働きかけを表す4変数および1次の交互作用項を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した。決定係数はいずれも1%水準で有意であった(R2s > .08)。一般攻撃信念に対しては友人の非行と親の養育との交互作用項が有意であった(β= -.058, p < .05)。±1SDを基準とした単純傾斜分析の結果,友人が非行をしていても,親の養育が良質であるほど一般攻撃信念の程度が小さいことが示された(Figure 1)。いじめ加害経験に対しては教師の指導と集合的有能感との交互作用項が有意であり(β= .064, p < .01),地域住民の集合的有能感が低い場合に,教師のPM型の指導(三隅他, 1977)がいじめ加害経験の抑制により強い影響を与えることが示唆された。以上の結果より,特定のエージェントの働きかけを他のエージェントが補完して子どもの社会性の獲得に寄与する働きが考えられる。今後は,エージェント同士が相互に働きかけて子どもへの関心を高める連携過程の検討が望まれる。