ポスター発表 PG(01-81)

[PG63] 自閉症生徒の描画の特性（模写と写生）

^○永井弘人 (愛知教育大学大学院)

キーワード：自閉症, 描画, 模写と写生

目　　　的
　広汎性発達障害を含む自閉症スペクトラムの生徒の中には,精緻な作品を制作する生徒がいる。最近は,「アウトサイダーアート」という呼び名で,社会的に美術作品としてその価値が認められるようになった。美術を担当する教師として,生徒の「表現」に対する社会的認知は誠に喜ばしいことである。
　しかし,描画能力のアンバランスな状況の理解に関する知見は，少ない。
　本事例は,教科学習においてインサイダーの表現技法を身につけるチャンスは十分にありながら定着は困難であった。撮影時点での表現能力において,立体物は極めて精緻である一方で,描写については,モデルを見て描く写生は稚拙だが,興味のあるキャラクターのイラスト模写は上手である等の特徴の背景について作例の比較を通して考察した。
方　　　法
対象
　年齢　18歳　　性別　男子
　障害名　広汎性発達障害
① 　立体
図１の立体作品は,大きさ・タテ5.7㎝×ヨコ2.8㎝×高さ6㎝　素材は信楽の粗めの陶芸用粘土。指だけでヘラは使用せず，モデルを見ることもせず　7分程度で制作した。
②　イラストの模写
図2は,対象の好きなアニメキャラクターを,印刷物を見て模写した。書き直すことは少なかった。　　　　　　 　　　　
40分で仕上げた。
② 　モデルの写生
図３は,同じクラスの男子をモデルにして描いた。何から描いたらいいのか分からず,輪郭や顔のパーツの位置を指示した。80分かかった。

結　　　果
　対象生徒の指先の巧緻性については,鉛筆の持ち方，握る,つまむなどの微細な動作に問題はない。イラスト模写ではキャラクターの特徴を見事にとらえており描写能力は高い。しかし,実際の人間を前にすると各パーツの形,大きさ,位置などがアンバランスで描写に稚拙さが目立った。これは,輪郭線(Outline)を意識して描くことは困難であるが,描くものの言語化や描かれた線を手掛かりにすれば描写することができるという特徴を示した。
考　　　察
　三浦(2010)によれば,自然界に輪郭線はなく,輪郭線を描写するには,「面」と「面」との色や明るさの異なる境界に生じるエッジの抽出が必要となる。本事例の作品比較の結果より,このエッジの抽出が困難であることや「面」を意識することも困難となっていることが推察される。
　西洋画といわれる描画技法を学ぶとき，「面」をもとに立体感や写実性を表現することに慣れない者が感じる違和感の発生はここにあり,対象生徒がアニメ・漫画のように線で表している作品に関心が向きやすいこと,そしてイラストの模写とモデルのスケッチの描写力の差もエッジ抽出能力の差が背景になっていると考察する。
文　　　献
三浦佳世(2010).電子情報通信学会　知識ベース　知識の森　感覚・知覚・認識の基礎,　第10章　絵画の知覚・認知,　1－6.