日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH45] 座席位置と相互独立-相互協調的自己観の関係

多根井重晴1, 豊田弘司2 (1.奥羽大学, 2.奈良教育大学)

キーワード:座席位置, 相互独立-相互協調的自己観, リーダーシップ

 児童・生徒や学生の座席位置は教育環境の重要な要素であり,Cook(1970)によれば,座席位置は,視線,距離,動機づけの関係によって決まり,距離は親密度と関係があり,視線は状況によって親愛と敵意という異なる機能を持つという。これまで,パーソナル・スペース(PS)との関連から,座席位置と様々な心理的特性の関係が検討されてきた。例えば,リーダーシップ(Hare & Bales , 1963;Howell & Becker , 1962),自己概念(Dykman & Reis, 1979),Y-Gによる性格特性(北川, 1980; 渋谷, 1986), 授業に対する意欲(北川, 2003)等である。従来の研究では,実際の座席位置による違いを検討したが,仮想場面における座席位置によっても,上述したような心理的特性の違いが見いだせる可能性はある。本報では,2つの仮想場面における座席選択と相互独立-相互協調的自己観(高田, 2000)の関係を検討する。
方   法
 調査対象 大学生265名(男子101名,女子164名)。平均年齢は19.8歳。
 調査内容 .a)仮想場面における座席の選択 以下に示す2つの仮想場面を設定し,各場面での座席位置を選択させた。

 場面1 あなたは,同じ専修の友達12名で,夕食をするためにある店に来ました。座席は自由に選ぶことができます。さて,あなたは,どの席に座りますか?

 場面2 あなたは,ある教職に関するセミナーに参加し,はじめて会った人たち4名と,話し合って,一つの結論を出すように指示されました。さて,あなたは,どの座席に座りますか?

b)相互独立的-相互協調的自己観尺度 高田(2000)による尺度で,個の認識・主張,他者への親和・順応,独断性及び評価懸念の4つの下位尺度。個の認識・主張及び評価懸念が各4項目,他者への親和・順応及び独断性が各6項目の合計20項目から構成。評定尺度は「全くあてはまらない」~「ぴったりとあてはまる」の7件法。
結果と考察
 場面1 テーブルの各辺の中央に位置する座席(3, 6, 9, 12)を選択する者が少なく,座席11の選択数が多い(21.59%)。入口というPSを侵害される場所から遠く,周りからの注目も集めないために選択された可能性がある。自己観との関連では,座席12を選択した者が5名と少ないが,独断性得点の平均が35.20(SD 7.12)であり,他の座席位置の平均25.07( SD 5.87)よりも高かった。この結果は,大きな角テーブルの短い辺(座席12及び6に対応)に座る者は,課題の解決を最優先するリーダーシップをとりやすい報告(Hare & Bales, 1963) と一致する。
 場面2 3席の列の中心の座席(座席4)の選択数が少なく(10.6%),両端を囲まれるという位置はPSを侵害されるという認識が発生するために,敬遠される傾向があるのかもしれない。
 自己観との関連では,座席3を選択した者は,個の認識・主張(M=14.86, SD=4.27)及び独断性(M=22.14, SD=5.92)が,他の座席を選択した者よりも得点が低かった(個の認識・主張M=17.15, SD=4.32;独断性M=25.89, SD=5.88)(個別では,座席3<座席1及び4)。Howell & Becker (1962)は,実際の話し合い場面を設定して,座席1及び2と座席3~5の比較を行い,座席1及び2を選択した者がその話し合いの実質的リーダーになる可能性が高いことを明らかにている。本研究は座席1及び2と座席3~5の間に自己観の差は見いだせなかった。しかし,座席3が個の認識・主張や独断性というリーダーシップに関連する特性において得点が低いことを見いだしたのは,注目すべき結果であった。
実際の座席選択場面ではなく仮想場面を設定して,児童・生徒や学生の心理的特性に関して一定の傾向を見いだす試みとして,さらに多様な心理的特性に関する検討を行うことが課題である。