[PA13] 中学生を対象としたネガティブ感情への対処スキルの獲得を目的とした研究(1)
新年度開始時における中学生の生活満足感とネガティブな感情へのコーピングの取り組みの実態
キーワード:新年度開始時, 中学生, ネガティブ感情対処スキル
問題と目的
中学生は思春期といえる時期であり,文部科学省の調査(2017)では,小6から中2にかけて不登校や暴力等の問題行動が急増する傾向を明らかにしている。そのため,ネガティブな出来事や感情に対し,自分ができる対処法をもつことは問題行動を予防する重要な要素といえる。近年,集団におけるソーシャルスキルトレーニング(SST)が学校現場で取り入れられ,児童生徒の学校生活適応への効果が指摘されている(金山・小野, 2006)。本研究は,研究1として,特に環境の変化の大きい新年度開始時に着目し,この時期に中学生が体験するネガティブな出来事と感情,その対処法の具体的内容および生活満足感,コーピングの取り組みにおける学年差の有無を明らかにすることを目的として行った。
方 法
調査対象者:関東地方の公立中学校3校の 1~3年生844名(男子413名,女子417名,不明14名)。
調査時期と実施方法:2017年4月下旬に実施した。
調査は各学級担任が実施,回収を行った。各学級担任の生徒への教示に相違がないよう,教示方法を記載したプリントを作成し,各学級担任へ配布した。生徒のプライバシー保護と自由に回答ができるようにするために,調査用紙とともにA4版封筒を配布し,回答後生徒自身が封をして各学級担任へ提出することとした。
調査項目と回答方法:調査用紙は(1)ポジティブな体験の有無と内容,(2)ネガティブな体験の有無と内容,感情,解決の有無と対処法,(3)生活満足感:「学習」「部活動」「友人関係」「家庭生活」(4件法),(4)コーピングの取り組み:中学生用ストレスコーピング尺度(三浦・坂野・上里,1998)の3つの下位因子「積極的対処」「サポート希求」「認知的対処」の因子負荷量の高かった各上位2項目(4件法)を使用した。
結果と考察
コーピングの取り組みの3因子のうち,「認知的対処」の取り扱いを検討するため3因子の相関分析を行ったところ,弱い相関~無相関であったため,「認知的対処」を逆転項目とせず他の2因子と同様に取り扱うこととした。
生活満足感とコーピングへの取り組み:4月の調査(以下Preと表記)で記入漏れ等のなかった830名(男子409名,女子412名,不明9名)を分析対象
者とした。学校間の人数に差がなかったため(χ²(4)=4.70,n.s.),3校を一括し学年毎に分析した。項目ごとに学校(3)×学年(3)の2要因分散分析を行った結果,上記の7変数のうち,サポート希求以外の項目で学年の主効果がみられ(F(2,821)=順に50.91, 41.74, 7.15, 12.70, 6.70, 10.88,すべてp<.01),認知的対処は1<2<3年生,認知的対処以外は3<2<1年生 (すべてp<.05)であった。したがって,1年生の生活満足感が最も高く,学年が上がるにつれて生活満足感の得点が下がることが示された。ネガティブな出来事に対し,1年生は対策を立てるといった積極的対処,3年生はこれでも構わないといった認知的対処をする傾向が示された。1年生の生活満足感,積極的対処の高さの要因は,新しい環境への期待感や高揚感が高いことが考えられる。「サポート希求」の結果の要因については,先行研究(榎本2003,永井・新井2005など)で中学生期が友人関係を重視する時期であると示されていることから,どの学年でも友人へ相談する傾向が高いことが考えられる。
ネガティブな出来事の内容・その対処法:ネガティブな出来事を体験したのは830名中284名(1年生57名,2年生125名,3年生102名)であった。χ²検定の結果,1年生は2年生よりネガティブな出来事の体験が少ないことが示された(p<.05)。1年生の多くは,新年度開始時点では,新しい環境での学習や生活において,実際に問題とされているような不登校やいじめ等につながりうるネガティブな感情を抱く出来事を体験している者は少なく,必ずしも懸念される状況が起こっているわけではないと考えられる。カルチュア・ショック理論(稲村,1980)を参考にするならば,中学校生活への期待感が環境の変化への不安感よりも大きいのかもしれない。生徒が体験したネガティブな出来事は「友人関係」が約45%で最も多かった。この結果は,永井・新井(2005)の研究結果と一致している。実際に行った対処法はのべ277の回答があり,以下の分類基準を教示された心理学専攻の大学院生2名が分類した。分類基準は前述の三浦他(1998)の尺度の3つの下位因子とした。その結果,音楽を聴くなど自分の好きな事をする「積極的対処」が169(61%),人(友達・家族・先生)と話すといった「サポート希求」54(19.5%),時間がたったら忘れた,前向きに考えたといった「認知的対処」が54(19.5%)であった。
中学生は思春期といえる時期であり,文部科学省の調査(2017)では,小6から中2にかけて不登校や暴力等の問題行動が急増する傾向を明らかにしている。そのため,ネガティブな出来事や感情に対し,自分ができる対処法をもつことは問題行動を予防する重要な要素といえる。近年,集団におけるソーシャルスキルトレーニング(SST)が学校現場で取り入れられ,児童生徒の学校生活適応への効果が指摘されている(金山・小野, 2006)。本研究は,研究1として,特に環境の変化の大きい新年度開始時に着目し,この時期に中学生が体験するネガティブな出来事と感情,その対処法の具体的内容および生活満足感,コーピングの取り組みにおける学年差の有無を明らかにすることを目的として行った。
方 法
調査対象者:関東地方の公立中学校3校の 1~3年生844名(男子413名,女子417名,不明14名)。
調査時期と実施方法:2017年4月下旬に実施した。
調査は各学級担任が実施,回収を行った。各学級担任の生徒への教示に相違がないよう,教示方法を記載したプリントを作成し,各学級担任へ配布した。生徒のプライバシー保護と自由に回答ができるようにするために,調査用紙とともにA4版封筒を配布し,回答後生徒自身が封をして各学級担任へ提出することとした。
調査項目と回答方法:調査用紙は(1)ポジティブな体験の有無と内容,(2)ネガティブな体験の有無と内容,感情,解決の有無と対処法,(3)生活満足感:「学習」「部活動」「友人関係」「家庭生活」(4件法),(4)コーピングの取り組み:中学生用ストレスコーピング尺度(三浦・坂野・上里,1998)の3つの下位因子「積極的対処」「サポート希求」「認知的対処」の因子負荷量の高かった各上位2項目(4件法)を使用した。
結果と考察
コーピングの取り組みの3因子のうち,「認知的対処」の取り扱いを検討するため3因子の相関分析を行ったところ,弱い相関~無相関であったため,「認知的対処」を逆転項目とせず他の2因子と同様に取り扱うこととした。
生活満足感とコーピングへの取り組み:4月の調査(以下Preと表記)で記入漏れ等のなかった830名(男子409名,女子412名,不明9名)を分析対象
者とした。学校間の人数に差がなかったため(χ²(4)=4.70,n.s.),3校を一括し学年毎に分析した。項目ごとに学校(3)×学年(3)の2要因分散分析を行った結果,上記の7変数のうち,サポート希求以外の項目で学年の主効果がみられ(F(2,821)=順に50.91, 41.74, 7.15, 12.70, 6.70, 10.88,すべてp<.01),認知的対処は1<2<3年生,認知的対処以外は3<2<1年生 (すべてp<.05)であった。したがって,1年生の生活満足感が最も高く,学年が上がるにつれて生活満足感の得点が下がることが示された。ネガティブな出来事に対し,1年生は対策を立てるといった積極的対処,3年生はこれでも構わないといった認知的対処をする傾向が示された。1年生の生活満足感,積極的対処の高さの要因は,新しい環境への期待感や高揚感が高いことが考えられる。「サポート希求」の結果の要因については,先行研究(榎本2003,永井・新井2005など)で中学生期が友人関係を重視する時期であると示されていることから,どの学年でも友人へ相談する傾向が高いことが考えられる。
ネガティブな出来事の内容・その対処法:ネガティブな出来事を体験したのは830名中284名(1年生57名,2年生125名,3年生102名)であった。χ²検定の結果,1年生は2年生よりネガティブな出来事の体験が少ないことが示された(p<.05)。1年生の多くは,新年度開始時点では,新しい環境での学習や生活において,実際に問題とされているような不登校やいじめ等につながりうるネガティブな感情を抱く出来事を体験している者は少なく,必ずしも懸念される状況が起こっているわけではないと考えられる。カルチュア・ショック理論(稲村,1980)を参考にするならば,中学校生活への期待感が環境の変化への不安感よりも大きいのかもしれない。生徒が体験したネガティブな出来事は「友人関係」が約45%で最も多かった。この結果は,永井・新井(2005)の研究結果と一致している。実際に行った対処法はのべ277の回答があり,以下の分類基準を教示された心理学専攻の大学院生2名が分類した。分類基準は前述の三浦他(1998)の尺度の3つの下位因子とした。その結果,音楽を聴くなど自分の好きな事をする「積極的対処」が169(61%),人(友達・家族・先生)と話すといった「サポート希求」54(19.5%),時間がたったら忘れた,前向きに考えたといった「認知的対処」が54(19.5%)であった。