[PA39] ノスタルジー感情を喚起させる食品に関する世代差
キーワード:ノスタルジー, 食品, 世代差
目 的
日常,匂いとの遭遇を契機として,その匂いと関連する過去の出来事をふと思い出すことがある。このような現象は一般的にプルースト現象と呼ばれ,過去の出来事の記憶である自伝的記憶を中心とした研究がこれまで行われてきた(e.g., 山本, 2015)。プルースト現象が本来は味覚刺激を契機としたものであるという指摘(Jellinek,2004)や,味覚と嗅覚との密接な関連性(坂井,2013)を考慮すると,味覚刺激によっても同様の現象が生起される可能性は高い。山本(2017)は日誌法を用いて食事場面で無意図的想起が生起するかどうかを検討した結果,参加者の8割で無意図的想起が生起され,そこで想起された自伝的記憶は,全体的に感情喚起度が強くかつ快であり,想起頻度は少なく,鮮明な出来事が多いことがわかった。また,手がかりとなった食品に関するノスタルジー感情喚起度が自伝的記憶の鮮明度や感情的特性等と関連すること,高齢者が若年者よりもノスタルジー感情喚起度が高いことなどが示された(山本,2018)。このように,ノスタルジー感情喚起度が自伝的記憶の想起に影響することが示唆されているが,従来の研究ではいかなる食品がノスタルジー感情を喚起させるのかについては十分に検討されていない。そこで本研究ではノスタルジー感情を喚起させる食品について調査を行う。
調査1
倫理審査 本調査1,2は日本心理学会倫理規程に基づいて計画されたうえで,大阪産業大学研究倫理審査委員会の承認を受け,実施された。
参加者 インターネットリサーチ会社の登録会員である20代から60代の男女計600名(M=44.99,SD=15.84)が同意のうえ参加した。研究協力の謝礼として,調査会社規程に従い,参加者にはポイントを付与した。
手続き 調査はWEB上で行われた。「あなたがなつかしいと感じる食べ物はどのようなものですか。」と問い,第1位から第10位までを自由記述させた。また第1位の食品について,ノスタルジー感情喚起度や購買意欲等を5段階で評定させた。
結果と考察 収集された項目の認知的特性を明らかにするために,各評定平均値を算出し,基準点を3とする1サンプルのt検定(df=599)を行った。その結果,いずれも有意(p<.001)であり,記述された食品項目のノスタルジー感情喚起度は高く(M=3.83,SD=0.88,t=23.18),摂取頻度は少なく(M=1.64,SD=0.87,t=38.39),好意度は高く(M=4.31,SD=0.82,t=39.61),購買意欲は高かった(M=3.79,SD=0.98,t=19.95)。また,記憶の想起について「思い出せない」と回答した人数は30名であり,全体的な自伝的記憶の想起率は94.74%と極めて高かった。自伝的記憶の特性に関する評定平均値を算出し,基準点を3とする1サンプルのt検定(df=569)を行った。その結果,いずれも有意(p<.001)であり,想起された自伝的記憶の鮮明度は高く(M=3.43,SD=1.28,t=8.06),快であり(M=4.17,SD=0.93,t=30.18),ノスタルジー感情喚起度が高く(M=3.96,SD=0.82,t=28.03),購買意欲は高かった(M=3.74,SD=1.01,t=17.39)。相関分析を行った結果,ノスタルジー感情喚起度と購買意欲(r=.22, p<.01)等に有意な値が確認された。
調査2
参加者 インターネットリサーチ会社の登録会員で,調査1には参加していない20代(M=25.92,SD=2.47)と60代(M=64.32,SD=3.03)の男女それぞれ100名ずつ,計400名が同意のうえ参加した。ポイントの付与等は予備調査と同様であった。
手続き 調査はWEB上で行われた。調査1の結果にもとづき,頻出度が5ケース以上であった項目を対象に,世代群で項目数を調整したうえで,最終的に40項目を選定した。それらの項目について,ノスタルジー感情喚起度,好意度,摂取頻度等の評定を5段階で求めた。
結果と考察 ノスタルジー感情喚起度に注目し,上位から5項目を挙げるとすれば,20代では「ミルメーク」,「ビックリマンチョコ」,「ブタメン」,「水飴」,「ポン菓子」,60代では「クジラ肉」,「ポン菓子」,「水飴」,「金平糖」,「ラムネ」であった。20代で1位であった「ミルメーク」に注目すれば,20代が60代よりもノスタルジー感情喚起度,好意度,過去の摂取頻度,快感情喚起度が高いことがわかった。一方,60代で1位であった「クジラ肉」では,60代が20代よりもノスタルジー感情喚起度,過去の摂取頻度,快感情喚起度が高いことがわかった。
付 記
本研究は,公益財団法人 サッポロ生物科学振興財団による助成,また一部はJSPS科研費17K13924によって実施された。
日常,匂いとの遭遇を契機として,その匂いと関連する過去の出来事をふと思い出すことがある。このような現象は一般的にプルースト現象と呼ばれ,過去の出来事の記憶である自伝的記憶を中心とした研究がこれまで行われてきた(e.g., 山本, 2015)。プルースト現象が本来は味覚刺激を契機としたものであるという指摘(Jellinek,2004)や,味覚と嗅覚との密接な関連性(坂井,2013)を考慮すると,味覚刺激によっても同様の現象が生起される可能性は高い。山本(2017)は日誌法を用いて食事場面で無意図的想起が生起するかどうかを検討した結果,参加者の8割で無意図的想起が生起され,そこで想起された自伝的記憶は,全体的に感情喚起度が強くかつ快であり,想起頻度は少なく,鮮明な出来事が多いことがわかった。また,手がかりとなった食品に関するノスタルジー感情喚起度が自伝的記憶の鮮明度や感情的特性等と関連すること,高齢者が若年者よりもノスタルジー感情喚起度が高いことなどが示された(山本,2018)。このように,ノスタルジー感情喚起度が自伝的記憶の想起に影響することが示唆されているが,従来の研究ではいかなる食品がノスタルジー感情を喚起させるのかについては十分に検討されていない。そこで本研究ではノスタルジー感情を喚起させる食品について調査を行う。
調査1
倫理審査 本調査1,2は日本心理学会倫理規程に基づいて計画されたうえで,大阪産業大学研究倫理審査委員会の承認を受け,実施された。
参加者 インターネットリサーチ会社の登録会員である20代から60代の男女計600名(M=44.99,SD=15.84)が同意のうえ参加した。研究協力の謝礼として,調査会社規程に従い,参加者にはポイントを付与した。
手続き 調査はWEB上で行われた。「あなたがなつかしいと感じる食べ物はどのようなものですか。」と問い,第1位から第10位までを自由記述させた。また第1位の食品について,ノスタルジー感情喚起度や購買意欲等を5段階で評定させた。
結果と考察 収集された項目の認知的特性を明らかにするために,各評定平均値を算出し,基準点を3とする1サンプルのt検定(df=599)を行った。その結果,いずれも有意(p<.001)であり,記述された食品項目のノスタルジー感情喚起度は高く(M=3.83,SD=0.88,t=23.18),摂取頻度は少なく(M=1.64,SD=0.87,t=38.39),好意度は高く(M=4.31,SD=0.82,t=39.61),購買意欲は高かった(M=3.79,SD=0.98,t=19.95)。また,記憶の想起について「思い出せない」と回答した人数は30名であり,全体的な自伝的記憶の想起率は94.74%と極めて高かった。自伝的記憶の特性に関する評定平均値を算出し,基準点を3とする1サンプルのt検定(df=569)を行った。その結果,いずれも有意(p<.001)であり,想起された自伝的記憶の鮮明度は高く(M=3.43,SD=1.28,t=8.06),快であり(M=4.17,SD=0.93,t=30.18),ノスタルジー感情喚起度が高く(M=3.96,SD=0.82,t=28.03),購買意欲は高かった(M=3.74,SD=1.01,t=17.39)。相関分析を行った結果,ノスタルジー感情喚起度と購買意欲(r=.22, p<.01)等に有意な値が確認された。
調査2
参加者 インターネットリサーチ会社の登録会員で,調査1には参加していない20代(M=25.92,SD=2.47)と60代(M=64.32,SD=3.03)の男女それぞれ100名ずつ,計400名が同意のうえ参加した。ポイントの付与等は予備調査と同様であった。
手続き 調査はWEB上で行われた。調査1の結果にもとづき,頻出度が5ケース以上であった項目を対象に,世代群で項目数を調整したうえで,最終的に40項目を選定した。それらの項目について,ノスタルジー感情喚起度,好意度,摂取頻度等の評定を5段階で求めた。
結果と考察 ノスタルジー感情喚起度に注目し,上位から5項目を挙げるとすれば,20代では「ミルメーク」,「ビックリマンチョコ」,「ブタメン」,「水飴」,「ポン菓子」,60代では「クジラ肉」,「ポン菓子」,「水飴」,「金平糖」,「ラムネ」であった。20代で1位であった「ミルメーク」に注目すれば,20代が60代よりもノスタルジー感情喚起度,好意度,過去の摂取頻度,快感情喚起度が高いことがわかった。一方,60代で1位であった「クジラ肉」では,60代が20代よりもノスタルジー感情喚起度,過去の摂取頻度,快感情喚起度が高いことがわかった。
付 記
本研究は,公益財団法人 サッポロ生物科学振興財団による助成,また一部はJSPS科研費17K13924によって実施された。