[PA41] アンサンブルの反映としての気になる子
キーワード:学校教育, 気になる子, 学習環境デザイン
問題と目的
学校現場では,周囲との微妙なずれを示す児童(笹尾ら, 2015)や発達上の困難さを有する児童(代田, 2008)を「気になる子」と呼ぶ。気になる子の問題行動については猪子・橋本・山王丸・島宗(2014)や阿部(2015)の先行研究によって報告されており,その解決のための方法論が検討されている。弓削(2009)はそういった従来の研究を取り上げ,児童生徒の問題行動について「教師は児童生徒の内的要因に原因帰属する傾向がある」と述べている。しかし,社会構成主義の立場をとったGergen(1999,東村訳2004)によると,個人の在り方と社会的状況は切り離せないものとされている。有元(2017)は社会的存在としての人間の基本的な条件は,答えのない共同作業=アンサンブルを常にみんなで行っていることであると述べている。したがって,気になる子と捉えられる原因はアンサンブルの不調和によるものであり社会的状況と不可分である可能性がある。
そこで本研究では社会構成主義の立場から,どのような場面において学級担任が児童を「気になる子」として捉えているのか明らかにし,その構造から気になる子への支援体系について検討したい。
方 法
2017年11月9日から12月13日にかけて,首都圏にある16校の公立小学校に所属する通常学級担任計16名(男性9名,女性7名)に対し,半構造化面接を行った。インタビュー項目はTable 1に示す。
インタビューから得られた音声記録は文字に起こし,逐語データを作成した。その後調査者が行った質問に対して調査対象者が一連の回答を終えるまでを1切片とし,各調査対象者の逐語データを細分化した。細分化した切片はKJ法を援用して意味や類似性ごとにグループ化し,カテゴリの作成をした。なお,一連の処理は調査者及び心理学を専攻する大学院生2名,大学教授1名で行い,不一致の箇所は合議により決定した。
結果と考察
逐語データから,「子供に関する発話」「教師自身に関する発話」「認知せず」「その他」の4つの大カテゴリを抽出した。そして「子供に関する発話」からは『子供が気になる場面』『気になる子の説明』の2つの中カテゴリを,「教師自身に関する発話」からは『教師の対応』『教師による原因考察』の2つの中カテゴリを抽出した。今回は学級担任の「気になる子」の捉えの構造として特徴的であった,『教師の対応』と『教師による原因考察』について触れる。『教師の対応』では「子供への直接的対応」が,そして『教師による原因考察』では「子供以外に原因帰属」の切片が1番多く抽出された。この2つの結果から,教師は気になる子の原因を周囲の環境に帰属して捉えている一方で,実際の気になる子への対応は直接的な手立てを選択していると推察される。
総合考察
『教師による原因考察』では「子ども以外に原因帰属」の切片が1番多く抽出されたことから,学級担任は学習環境デザインをはじめとする社会的要因に気になる子と捉える原因を帰属していたと推察される。このことから,学習環境デザインと気になる子の言動とのアンサンブルが上手くいかなかったことにより,学級担任にとって気になる子として捉えられることが示唆される。
さらに,『教師の対応』での「子供への直接的対応」の切片数を踏まえると,教師の気になる子の捉えの原因と対応のための手立ての選択には矛盾があると推察される。白石(2013)は,気になる子への支援について,特性を踏まえた個別支援と援助資源としてのクラス支援の実践プログラムが必要であると述べている。
このことから上記の矛盾を解消するために,現状学級担任が気になる子に対して行っているような個別支援も必要だが,学級内でアンサンブルを作り出すための土台として学習環境デザインの工夫を行い,学級内の環境を整えることによる支援も必要であると考えられる。気になる子への支援体系を検討する上で,教師が気になる子に対して一方的な支援を行うだけでなく,学習環境デザインの工夫により学習者が主体的に学びを生起させる場づくりの設定を行うことは,より広い支援体系を作り上げていく契機となると考えられる。
学校現場では,周囲との微妙なずれを示す児童(笹尾ら, 2015)や発達上の困難さを有する児童(代田, 2008)を「気になる子」と呼ぶ。気になる子の問題行動については猪子・橋本・山王丸・島宗(2014)や阿部(2015)の先行研究によって報告されており,その解決のための方法論が検討されている。弓削(2009)はそういった従来の研究を取り上げ,児童生徒の問題行動について「教師は児童生徒の内的要因に原因帰属する傾向がある」と述べている。しかし,社会構成主義の立場をとったGergen(1999,東村訳2004)によると,個人の在り方と社会的状況は切り離せないものとされている。有元(2017)は社会的存在としての人間の基本的な条件は,答えのない共同作業=アンサンブルを常にみんなで行っていることであると述べている。したがって,気になる子と捉えられる原因はアンサンブルの不調和によるものであり社会的状況と不可分である可能性がある。
そこで本研究では社会構成主義の立場から,どのような場面において学級担任が児童を「気になる子」として捉えているのか明らかにし,その構造から気になる子への支援体系について検討したい。
方 法
2017年11月9日から12月13日にかけて,首都圏にある16校の公立小学校に所属する通常学級担任計16名(男性9名,女性7名)に対し,半構造化面接を行った。インタビュー項目はTable 1に示す。
インタビューから得られた音声記録は文字に起こし,逐語データを作成した。その後調査者が行った質問に対して調査対象者が一連の回答を終えるまでを1切片とし,各調査対象者の逐語データを細分化した。細分化した切片はKJ法を援用して意味や類似性ごとにグループ化し,カテゴリの作成をした。なお,一連の処理は調査者及び心理学を専攻する大学院生2名,大学教授1名で行い,不一致の箇所は合議により決定した。
結果と考察
逐語データから,「子供に関する発話」「教師自身に関する発話」「認知せず」「その他」の4つの大カテゴリを抽出した。そして「子供に関する発話」からは『子供が気になる場面』『気になる子の説明』の2つの中カテゴリを,「教師自身に関する発話」からは『教師の対応』『教師による原因考察』の2つの中カテゴリを抽出した。今回は学級担任の「気になる子」の捉えの構造として特徴的であった,『教師の対応』と『教師による原因考察』について触れる。『教師の対応』では「子供への直接的対応」が,そして『教師による原因考察』では「子供以外に原因帰属」の切片が1番多く抽出された。この2つの結果から,教師は気になる子の原因を周囲の環境に帰属して捉えている一方で,実際の気になる子への対応は直接的な手立てを選択していると推察される。
総合考察
『教師による原因考察』では「子ども以外に原因帰属」の切片が1番多く抽出されたことから,学級担任は学習環境デザインをはじめとする社会的要因に気になる子と捉える原因を帰属していたと推察される。このことから,学習環境デザインと気になる子の言動とのアンサンブルが上手くいかなかったことにより,学級担任にとって気になる子として捉えられることが示唆される。
さらに,『教師の対応』での「子供への直接的対応」の切片数を踏まえると,教師の気になる子の捉えの原因と対応のための手立ての選択には矛盾があると推察される。白石(2013)は,気になる子への支援について,特性を踏まえた個別支援と援助資源としてのクラス支援の実践プログラムが必要であると述べている。
このことから上記の矛盾を解消するために,現状学級担任が気になる子に対して行っているような個別支援も必要だが,学級内でアンサンブルを作り出すための土台として学習環境デザインの工夫を行い,学級内の環境を整えることによる支援も必要であると考えられる。気になる子への支援体系を検討する上で,教師が気になる子に対して一方的な支援を行うだけでなく,学習環境デザインの工夫により学習者が主体的に学びを生起させる場づくりの設定を行うことは,より広い支援体系を作り上げていく契機となると考えられる。