日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB31] 算数文章題の問題場面理解に関する研究

社会的価値判断を含む非定型的問題を用いて

末松加奈 (東京大学大学院)

キーワード:算数文章題, 問題場面, 社会的価値判断

問題と目的
 算数の文章題解決は,問題文を読み,問題場面,全体構造を理解し,立式し,計算を実行するという過程を経る(Mayer,1992)。全国学力・学習状況調査の結果から,日本の児童の特徴として,問題場面と式を関連づけることや,式の意味を解釈することなど,算数文章題解決過程における問題場面の理解が課題とされている(文部科学省・国立教育政策研究所,2016)。
 先行研究では,教科書で扱われないような,演算の実行理由が不明確な問題や過剰情報を含む問題などに対する困難さが指摘されている(Yoshida,Verschaffel,& De Corte,1997;金田,2002;末松,2017ほか)。また,深い概念的理解や実社会への活用を目指し,多様な考えが可能な「非定型的問題」(藤村,2018)や社会的価値が認識できる「社会的オープンエンドな問題」(馬場,2007)が開発されている。
 本研究では,非定型であり社会的価値判断を含むような算数文章題の問題場面に対する理解の深まりを,第5学年の内包量(単位あたり量)に関する学習を中心に検討した。具体的には,独自に作成した文章題課題を各学期に実施し,記述内容の質的変化について検討した。

方  法
 調査対象 都内の国立大学附属小学校第5学年の1学級28名(男児14名,女児14名)。
 調査期間 2017年5月~2018年3月
授業の観察 単位あたり量の単元を中心に算数の授業を観察した。観察の際には,手書きの記録の他に,ビデオ撮影,ICレコーダーによる録音を行った。さらに,児童の記述が多数書かれているノートをコピーした。
 課題の実施 各学期に1回(5月,10月,3月)実施した。課題の内容は,非定型で社会的価値判断を含む文章題課題1問,内包量(速さと濃度)の問題を考える際に使用する方略変化を検討するための課題6問である。課題は,算数の授業時間内に,担任教諭立ち合いのもと,調査者が実施した。

結果と考察
 実施課題のうち,非定型で社会的価値判断を含む文章題の問題場面の理解について分析を行った。一般的に教科書では,単位あたり量として2量の比較を行う問題が扱われる。一方,この課題では,買い物場面を想定し,肉の金額,重さ,枚数という3量を提示し,産地の異なる2種類の肉のどちらがお得かを問うた。解答欄には,2つの産地のどちらかがお得,どちらも同じ,どちらでもない,の4つの選択肢のいずれかを選び,その理由を記述させた。
 記述は3つに分類された。3量から1組の2量を選択し,倍数方略もしくは単位あたり方略を適用する場合(2量比較),3量を倍数方略のみで比較する場合(3量比較(倍数方略)),3量を単位あたり方略も用いて比較する場合(3量比較(単位あたり方略))である。さらに,使用方略とは別に,3量以外の購入者を意識した理由を用いている場合を社会的価値判断ありとした。
 Figure 1に,理由説明の記述の変化を示す。いずれの学期でも,倍数方略のみで3量比較を行った児童が最も多く,学期毎の変化も倍数方略のみを引き続き用いる児童が最も多かった。2学期から3学期では,2量比較から単位あたり方略を用いた3量比較に変化する児童が3名いた。この3名の児童は,いずれも社会的価値判断を含む記述を行っていた。このことは,問題解決に社会的価値判断を用いることによって,問題場面の理解や概念的理解が深まる可能性があることを示唆している。
今後の課題
 授業内の協同場面やノート記述を分析し,児童が社会的価値判断を含めた場面の捉え方を行うようになった過程を探りたい。