日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

2018年9月15日(土) 15:30 〜 17:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC28] ほめることが動機づけに与える影響

受け手とほめ手の要因の同時検討

柿沼亨祐1, 田中あゆみ2 (1.同志社大学・日本学術振興会, 2.同志社大学)

キーワード:動機づけ, ほめ, マインドセット

 ほめが受け手の動機づけに与える影響について数多く検討なされ,さらに筆者らはほめがほめ手にも同様の影響を与えることを明らかにしている。
 まず,ほめ受け手への影響について,努力をほめられた人は,能力は努力次第で変えられるという考え方(増大マインドセット)が強くなり,失敗経験後も課題の楽しさが高い一方,能力をほめられた人は,能力は固定的で変えられないという考え方(固定マインドセット)が強くなり,失敗経験後に課題の楽しさが低いことが示されている(e.g., Mueller & Dweck, 1998)。同様に,ほめ手についても,柿沼・田中(2017)は,努力・能力ほめを行う傾向と増大・固定マインドセットの正の関連を,Kakinuma & Tanaka(2017)は,能力ほめを行った群は,努力ほめを行った群やほめを行わなかった群に比べ,その後の課題に対する内発的動機づけが低かったという実験結果を示している。
 しかし,これらの研究はほめ手と受け手の要因を同時に検討しておらず,両要因の影響を比較できていない。したがって,本研究ではほめが動機づけに与える影響について,受け手とほめ手への影響を同時に検討する。説得の研究は,あるトピックに関して主張を行わされた人は,その主張を受けた人よりも,私的意見の変容が大きいことを示している(e.g., Janis & King,1954)ことから,努力・能力ほめに関しても,ほめ手への影響の方が受け手への影響よりも大きいと予測される。

方  法
実験参加者 大学生271名(女性135名;平均年齢19.49歳)が参加した。実験デザインは,2(行為:受け手,行い手)× 3(ほめタイプ:努力,能力,ほめなし(統制群))の参加者間であった。
手続き シナリオ実験を行った。学習文脈とは異なる文脈でのほめの影響について検討するため,料理場面のシナリオを用いた。(1a)受け手群:参加者が友人に料理をつくり,さらに努力・能力ほめ群では参加者が友人からほめられる場面のシナリオを読んでもらった。(1b)行い手群:友人が参加者に料理をつくり,さらに努力・能力ほめ群では参加者が友人をほめる場面のシナリオを読んでもらった。(2)料理の能力のマインドセットを測定した。(3)参加者が料理を失敗するシナリオを読んでもらった。(4)料理の楽しさを測定した。
測度 (1)マインドセット(Dweck,2000):増大・固定マインドセット,それぞれ3項目,合計6項目を6件法で回答を求めた。分析の際,固定の値を逆転し,増大の項目と合成した。したがって得点が高いほど,増大マインドセットが強いことを示す。(2)楽しさ(Ryan,1982):料理の楽しさに関する3項目を7件法で回答を求めた。

結果と考察
 2(行為:行い手,受け手)×3(ほめタイプ:努力,能力,統制)の対応のない2要因分散分析を行った(Table 1)。
(増大)マインドセット ほめタイプの主効果が有意であった(F(2, 265)= 3.11, p = .046, ηp2 = .023)。多重比較の結果,努力ほめ群の増大マインドセットは統制群よりも有意に高いことが明らかとなった(p = .037)。行為の主効果や交互作用は有意でなかった。努力ほめは受け手とほめ手の双方のマインドセットに影響を与え,その効果の大きさに有意な差はないことが明らかとなった。
料理の楽しさ 両要因の主効果は有意ではなく,交互作用が有意であった(F(2, 265)= 3.96, p = .020, ηp2 = .029)。単純主効果検定の結果,行為の単純主効果が,努力ほめ群において有意であり,ほめられた場合の方がほめた場合よりも,楽しさが低かった(F(1, 265)= 7.35, p = .007)。ほめタイプの単純主効果は,受け手群において有意であり,努力でほめられた場合,能力でほめられた場合やほめられない場合よりも,楽しさが低いことが明らかとなった(F(2, 265)= 6.03, p = .003)。努力ほめは受け手の楽しさに負の影響を与えることが示され,先行研究とは異なる結果となった。
 この結果は,本研究ではシナリオを用いて実験操作を行っており,ほめの非言語的な部分が伝わりにくかったためであるかもしれない。努力を評価されることはネガティブな効果があることも示唆されており(Henderlong & Lepper, 2002),今後努力ほめについては更なる検討が必要だろう。