[PC57] 特別支援学校における実物大恐竜図を体感する授業の開発(1)
キーワード:特別支援学校, 実物大恐竜図, 授業
目 的
教授学習過程に関する心理学研究において,宇野・福山(2006)は,特別な支援が必要な子どもに対して教師の効果的な働きかけとは何かを具体的に見いだすために,「日々の実践例の中から援助の成功例を抽出し,その事例に関与している要因を検討してみること」を提案した。このような提案に基づき,特別な配慮を必要とする児童生徒への教授学習心理学研究が続けられている(例:宇野・福山,2006;吉國・赤沢,2012;蛯名,2014;蛯名・宮田,2016)。本研究も,特別支援学校における日々の取組の中から,とりわけ大昔の動物である恐竜を取り上げた実践例に着目し検討を行う。
斎藤(2003)によれば,動物とは「動いて・食餌し・排泄する生き物」と概括的に表現し得る。このような動物概念の獲得を目指して援助方略の工夫を探究した教育心理学研究は,幼児を対象としたもの(佐藤・斎藤,1990)や小学生を対象としたもの(荒井・宇野・工藤・白井,2001;吉國・黒岩・小倉,2016)から,短大生を対象としたもの(斎藤2003)まで幅広く存在する。しかしながら,特別な支援が必要な児童生徒を対象とした研究の蓄積は,未だ十分とは言えない現状である。
かつて高橋(1972)は,理科教材として恐竜を取り上げる意味のひとつとして,怪獣ではない「ホンモノ」である恐竜へ抱く子どもの興味をその基本として挙げた。そしてこの恐竜教材には,「子どもの知っているすべての動物の知識を総動員して考えねばならない」場が生み出しうるといった重要な意義があることを指摘している。
本研究では,1)高等部の生徒が恐竜に対して大昔に実際に生きていた動物として興味を持つことができるようにすること,2)自分たち人間よりも大きな動物として恐竜の大きさを体感しつつわかることの実現を目指した授業の開発を目的とする。
高等部における授業実践
方 法
学習者:H県内の市立の特別支援学校の高等部1・2年生に在籍する5名。主な障害として脳性麻痺による四肢麻痺や知的障害の重複障害があり,自力歩行が可能な生徒は2名,残りの3名は電動車椅子によって活動している。個人差があるものの,言語によるコミュニケーションがある程度可能であり,サインや音声入力などの手段も含めて,お互いの意思疎通ができている。
手続き:実践は,主指導1名を含めた教員5名が共同で行い,1.恐竜のDVDや具体物を用いた授業,2.実物大恐竜図(布製,わかる授業研究会「日曜会」所有)を用いた授業の流れで行った。実践1は平成29年9月6日,実践2は7日に行った。実践1は,教室で行い,恐竜のDVDや具体物を用いた。実践2では,布の大きさや安全面への配慮から体育館で授業を行った。床面にティラノサウルスとトリケラトプスの絵(布)を敷き,その下にマットを配置した。アロサウルスの骨の絵(布)は体育館の側面に手すりから垂らして掲示した。
結果と考察
1.恐竜のDVDや具体物を用いた授業
導入として教室でシャチの頭の骨の絵(布)を提示し,どんな動物の骨かクイズ形式で質問すると,興味をもって絵を見ている様子であった。次に大型TVで恐竜図鑑(講談社の動く図鑑MOVE恐竜新訂版)に付属していたDVDを見せると,恐竜の動きや声に反応していた。また,実物投影機で拡大したアンモナイトの化石を見せると,「カタツムリ」という発言があり,現存する動物に近い形を認識できた様子だった。ティラノサウルスの歯を提示することで,自分たちの歯と大きさや形が違うことに気づかせることができた。
2.実物大恐竜図(布製)を用いた授業
生徒たちは,体育館に入ってくると大きな恐竜の絵を見て驚いた様子であった。彼らの視点(車椅子)からでは,大きすぎて全体図が見えないため,i-Padで体育館の上部から教員が撮影する様子を大型TVに映し出しながら授業を行った。
初めに2年生2名が恐竜の上に寝ころんだ。好きな場所を選ばせると,「しっぽの部分に乗りたい。」「口で食べられてみたいです。」と自分の意見を伝えることができた。マット上に布を敷いたため,安心して寝ころぶことができた様子であった。
2年生2名はいずれも笑顔で活動していたことから,恐竜への恐怖心は見られなかった。この間,1年生は大型TVの映像を見て待機していた。
1年生3名と交代すると,それぞれが好きな場所に移動し,ポーズをとったり寝ころんだりしていた。まとめで教師の「口が大きいね。」「キバがすごいね。」などの言葉にはあまり反応がなかったものの,「また恐竜(の授業)したい。」という発言は恐竜への興味の萌芽ではないかと推察された。
教授学習過程に関する心理学研究において,宇野・福山(2006)は,特別な支援が必要な子どもに対して教師の効果的な働きかけとは何かを具体的に見いだすために,「日々の実践例の中から援助の成功例を抽出し,その事例に関与している要因を検討してみること」を提案した。このような提案に基づき,特別な配慮を必要とする児童生徒への教授学習心理学研究が続けられている(例:宇野・福山,2006;吉國・赤沢,2012;蛯名,2014;蛯名・宮田,2016)。本研究も,特別支援学校における日々の取組の中から,とりわけ大昔の動物である恐竜を取り上げた実践例に着目し検討を行う。
斎藤(2003)によれば,動物とは「動いて・食餌し・排泄する生き物」と概括的に表現し得る。このような動物概念の獲得を目指して援助方略の工夫を探究した教育心理学研究は,幼児を対象としたもの(佐藤・斎藤,1990)や小学生を対象としたもの(荒井・宇野・工藤・白井,2001;吉國・黒岩・小倉,2016)から,短大生を対象としたもの(斎藤2003)まで幅広く存在する。しかしながら,特別な支援が必要な児童生徒を対象とした研究の蓄積は,未だ十分とは言えない現状である。
かつて高橋(1972)は,理科教材として恐竜を取り上げる意味のひとつとして,怪獣ではない「ホンモノ」である恐竜へ抱く子どもの興味をその基本として挙げた。そしてこの恐竜教材には,「子どもの知っているすべての動物の知識を総動員して考えねばならない」場が生み出しうるといった重要な意義があることを指摘している。
本研究では,1)高等部の生徒が恐竜に対して大昔に実際に生きていた動物として興味を持つことができるようにすること,2)自分たち人間よりも大きな動物として恐竜の大きさを体感しつつわかることの実現を目指した授業の開発を目的とする。
高等部における授業実践
方 法
学習者:H県内の市立の特別支援学校の高等部1・2年生に在籍する5名。主な障害として脳性麻痺による四肢麻痺や知的障害の重複障害があり,自力歩行が可能な生徒は2名,残りの3名は電動車椅子によって活動している。個人差があるものの,言語によるコミュニケーションがある程度可能であり,サインや音声入力などの手段も含めて,お互いの意思疎通ができている。
手続き:実践は,主指導1名を含めた教員5名が共同で行い,1.恐竜のDVDや具体物を用いた授業,2.実物大恐竜図(布製,わかる授業研究会「日曜会」所有)を用いた授業の流れで行った。実践1は平成29年9月6日,実践2は7日に行った。実践1は,教室で行い,恐竜のDVDや具体物を用いた。実践2では,布の大きさや安全面への配慮から体育館で授業を行った。床面にティラノサウルスとトリケラトプスの絵(布)を敷き,その下にマットを配置した。アロサウルスの骨の絵(布)は体育館の側面に手すりから垂らして掲示した。
結果と考察
1.恐竜のDVDや具体物を用いた授業
導入として教室でシャチの頭の骨の絵(布)を提示し,どんな動物の骨かクイズ形式で質問すると,興味をもって絵を見ている様子であった。次に大型TVで恐竜図鑑(講談社の動く図鑑MOVE恐竜新訂版)に付属していたDVDを見せると,恐竜の動きや声に反応していた。また,実物投影機で拡大したアンモナイトの化石を見せると,「カタツムリ」という発言があり,現存する動物に近い形を認識できた様子だった。ティラノサウルスの歯を提示することで,自分たちの歯と大きさや形が違うことに気づかせることができた。
2.実物大恐竜図(布製)を用いた授業
生徒たちは,体育館に入ってくると大きな恐竜の絵を見て驚いた様子であった。彼らの視点(車椅子)からでは,大きすぎて全体図が見えないため,i-Padで体育館の上部から教員が撮影する様子を大型TVに映し出しながら授業を行った。
初めに2年生2名が恐竜の上に寝ころんだ。好きな場所を選ばせると,「しっぽの部分に乗りたい。」「口で食べられてみたいです。」と自分の意見を伝えることができた。マット上に布を敷いたため,安心して寝ころぶことができた様子であった。
2年生2名はいずれも笑顔で活動していたことから,恐竜への恐怖心は見られなかった。この間,1年生は大型TVの映像を見て待機していた。
1年生3名と交代すると,それぞれが好きな場所に移動し,ポーズをとったり寝ころんだりしていた。まとめで教師の「口が大きいね。」「キバがすごいね。」などの言葉にはあまり反応がなかったものの,「また恐竜(の授業)したい。」という発言は恐竜への興味の萌芽ではないかと推察された。