日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

2018年9月15日(土) 15:30 〜 17:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC61] 中学・高校における職場体験がキャリア意識におよぼす影響

保育者養成課程の学生への調査から

網谷綾香 (大阪成蹊短期大学)

キーワード:キャリア意識, 職場体験, 保育者養成

目  的
 保育者養成課程に在籍する学生を対象として,中学・高校における職場体験が進路選択有効感や教育実習で体験するリアリティ・ショックにどのように影響をおよぼすのかについて検討する。

方  法
(1)調査対象者 保育者養成機関の短大生(1年生)106名。このうち,すでに幼稚園での教育実習を終えており,データに不備のない98名のデータを分析に使用した。
(2)調査手続き・時期 2017年11月に無記名による質問紙調査を実施した。
(3)調査内容 
①中学および高校における職場体験の有無や日数,体験した職種,体験の有意義度,進路決定への影響力
②短大での教育実習の経験の有無
③教育実習におけるリアリティ・ショック度 谷川(2010)の学生へのインタビュー結果をもとに,「保育の現場の実際を知り,ショックを受けた」「自分の予測と異なる子どもの反応にショックを受けた」「自分のやり方では子どもに対応できないことがあり,ショックを受けた」「自分の想像とは異なる保育者の保育方法を見て,ショックを受けた」「職員同士の関係や職場の雰囲気に,ショックを受けた」「保育者の業務の多さや大変さにショックを受けた」の6項目を作成し,5件法で回答を求めた。
④進路選択に対する自己効力尺度10項目版 浦上・脇田(2016)を使用した。以下,「進路選択効力尺度10項目版」とする。回答は,「まったく自信がない」から「非常に自信がある」の4件法とした。
⑤保育者志望度 5件法

結  果
 中学・高校において保育系の職場を経験したか否かに基づいて,中学・高校で経験あり(n=35),高校のみ経験あり(n=17),中学のみ経験あり(n=19),中学でも高校でも経験なし(n=27)の4グループに群分けした(以下,中高経験群・中学経験群・高校経験群・経験なし群とする)。
 4群間で進路選択効力感に差が見られるかについて分散分析を行った結果,群間に10%水準での傾向差がみられた(F=2.2,df=3, p<.10)多重比較の結果,中高経験群のほうが経験なし群に比べて得点が高い傾向があることが明らかになった。
 さらに,保育系職場体験の違いにより,保育者養成校での初めての教育実習で経験するリアリティ・ショックに差がみられるかについて分析を行った。リアリティ・ショックの項目ごとに分散分析を行ったところ,6項目中5項目では有意差は見られなかった。唯一,「保育者の業務の多さや大変さにショックを受けた」の項目のみ有意差が見られた(F=2.8,df=3, p<.05)。多重比較の結果,5%水準で中高経験群よりも経験なし群のほうがショックを強く感じていることが示された。
 進路選択効力感と教育実習におけるリアリティ・ショックの間には弱い負の相関が確認された。

考  察
 中学・高校と各発達段階で保育系の職場体験を経験してきた者は,全くの未経験者に比べ,現在の進路選択効力感が高い傾向にあった。前者の学生は,早い段階で将来従事したい職業を絞り込み,職場体験を通してある程度の業務内容を理解し,それが自分自身の希望や能力と合致しているかどうかについて検討する機会を得てきたことから,「保育者になる」という進路選択に対して比較的自信を持っているものと解釈できる。
 このように保育者を目指す学生にとって事前に保育系職場を体験しておくことは進路選択効力感に影響を与え一定の意義があるが,リアリティ・ショックとの関連から,大学の実習では中学・高校での体験とは異なる新たな経験をしていることが示唆された。中高での職場体験は「保育者の業務の多さや大変さ」という目につきやすい部分に対するリアリティ・ショックについては緩和することが可能だが,その他の部分におけるリアリティ・ショックについては必ずしも和らげるわけではない。リアリティ・ショックは,進路選択効力感と負の相関が確認されていることから,中高時代の職場体験を経て進路選択に自信をもっていた者も,教育実習でのリアリティ・ショックを経て一時的に進路選択効力感が下がる可能性もある。  しかし,これは必ずしも保育者を目指す学生のキャリア発達にネガティブな影響を及ぼすとは限らない。中高時代と異なり保育者としての責任と役割,専門性を自覚した上で臨む教育実習において,学生が体験するリアリティ・ショックは,キャリア発達上当然のプロセスであるともいえ,どのように教育的支援していくかが重要であろう。