日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

2018年9月15日(土) 15:30 〜 17:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC66] メンタルヘルスリテラシーに関する心理教育プログラムの実践

援助者・被援助者への効果の違いに焦点を当てて

肥田乃梨子1, 石川信一2, 佐藤寛#3 (1.同志社大学, 2.同志社大学, 3.関西学院大学)

キーワード:メンタルヘルスリテラシー, 援助要請, 心理教育

問題と目的
 子どもの精神疾患において,有病率が最も高いのは不安症だとされている (Merikangas et al., 2010)。しかし,子ども自身が不安症を正しく認識できた割合は12.2%と示されていることから (Skre et al., 2013),子ども自身が病識を持って他者に援助要請し,適切な支援を受けることは困難であると考えられる。
 当事者が専門家に相談する行動や,周囲の者が専門家に相談させる対処行動はメンタルヘルスリテラシー(以下MHL)から影響を受けるとされている (Jorm, 2000)。MHLとは「精神疾患に対する気付き,対処,あるいは予防に関する知識や考え方 (Jorm et al., 1997)」と定義されている。
 本研究は,不安症のMHLに関する心理教育プログラムを実施し,全体の効果に加えて介入前の不安の高低に着目し,援助者・被援助者への効果の違いに焦点を当てて検証することを目的とした。

方  法
参加者 高校1年生の生徒40名(男子12名,女子28名)がプログラムの参加者となった(介入群)。別学級の生徒40名(男子19名,女子20名,不明1名)は,調査のみ協力した(統制群)。
介入内容 全2回のプログラムを実施した。第1回「心の不調と対処法」は水野 (2012, 2014) のプログラム内容を不安症に変更した対処法(肥田他 , 2015)の心理教育を実施した。第2回「上手に相談しよう」では,本田他 (2010, 2011) のプログラムを参考に一部変更して実施した。
測度 1. 特性不安 (STAI):水口他 (1991) 2.MHL:DSM-5の基準を満たすよう作成された社交不安症事例のビニエットを提示し,それに対して「疾患を認識する能力」「援助者としての意識」の項目に回答を求めた。3. 援助要請スキル:本田他 (2007)
倫理的配慮 研究実施協力校の学校長の承認を得て,研究内容について公益社団法人日本心理学会の倫理規定に沿うと大学教員2名から判断を受け,申請書を提出した上で実施した。

結  果
 記入漏れのあるもの,全項目同じ回答のものを除いた50名の生徒(介入群28名,統制群22名)を分析対象とした。
学級全体のMHLの変化 疾患を認識する能力は,社交不安症の事例を「専門家の助けが必要である」と回答した生徒の割合が介入群の介入前後において0%から17.9%となったが,マクネマー検定により回答人数の割合の変化を検討したところ有意な変化ではなかった。援助者としての意識は,介入群において「話を聴く」の回答が5名から15名に増加した。しかし記述数を得点に換算しt検定にて検討したところ,介入前後における有意な差は認められなかった (t (27) = -0.15, n.s.)。
STAI・援助要請スキル得点の変化 二要因分散分析の結果,STAIにおいて交互作用に有意傾向が見られ,介入群における時期の単純主効果に有意傾向がみられた (F (1, 48) = 2.75, p < .10)。援助要請スキルは時期の主効果が有意傾向であった (F (1, 48) = 3.58, p < .10)。
 効果の違いの確認のため,介入前のSTAIの平均得点+0.5SD以上の対象者を不安高群,-0.5SD以下の生徒を不安低群,それ以外の対象者を不安中群とし分析した。ウィルコクスンの符号順位和検定の結果,介入群における不安高群および中群のSTAI得点は,介入後に減少する傾向がみられ (Z = -1.89, p = .06; Z = -1.79, p = .07),統制群における不安高群および不安中群のSTAI得点に有意な得点の変化は見られなかった (Z = -0.68, n.s; Z = -0.34, n.s.)。不安低群においては,介入群・統制群ともに有意な変化はみられなかった。
 援助要請スキルにおいても3群に分けて分析を行った結果,介入群における不安高群の援助要請スキルが介入後に向上する傾向がみられ (Z = -1.87, p = .06),統制群における不安高群の有意な変化はみられなかった (Z = -0.76, n.s.)。その他の群において有意な変化はみられなかった。

考  察
 学級内で心理教育を行うことによって,不安症の支援につながるMHLを一部高めることは可能だと明らかになった。また,自身の不安症状について認識を深め,適切な援助要請の方法が明らかになることで,援助が必要な生徒の不安を低減させられると示唆された。

付  記
本研究の実施にあたり,関西大学教育研究高度化促進費による助成を得た。