日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD15] エンディングノートに自伝的記憶は必要か

思い出の必要性とTALE尺度

下島裕美 (杏林大学)

キーワード:自伝的記憶, エンディングノート, TALE尺度

 自分に「もしも」のことがあったときのために,家族や周囲の人に伝えておきたいことを記しておくノートをエンディングノートという。下島 (2015)は,エンディングノートには自分の過去の思い出(自伝的記憶)の記入欄があるものが多いことを示しているが,実際に中高年の人々に話を聞いてみると思い出の記入欄は必要ないと答える人が多い。そこで本研究では(1)エンディングノートに自伝的記憶の記入欄は必要であるか,(2)自伝的記憶を書くかどうかとTALE尺度との関係について検討した。

方  法
調査期間 2017年2月
調査参加者 インターネット調査会社に登録した全国のモニター450名(50代・60代・70代の男女各75名)。
調査項目 性別,年令,婚姻状況,子供の有無,ペットの有無,居住都道府県,エンディングノートを知っていたか,書いたことがあるか,関心があるか,あなたがエンディングノートを書く時に必要だと思う項目(健康情報,介護・看護の希望・終末期治療の希望,臓器提供の意思表示,財産一覧,遺言・相続,葬儀の希望,遺影の写真,墓・供養の希望,自分の好きなこと,特技等,これからの夢や目標,生まれかわったらどうしたいか,自分の経歴,残された人へのメッセージ・感謝,自分の過去の思い出,死後気がかりなこと・やってほしいこと,家系図,連絡先,ペットの管理,携帯電話やインターネット情報の管理,その他),家族や知人があなたに残すためにエンディングノートを書く時に必要だと思う項目(同上),家族や知人に読んでもらうためのエンディングノートに書くあなたの過去の思い出(500字以内)と記憶特性,思い出を書きたくない場合はその理由,誰にも見せない自分だけのエンディングノートに書くあなたの過去の思い出(500字以内)と記憶特性あるいは書きたくない理由,日本版TALE尺度(落合・小口, 2013)。

結果と考察
 エンディングノートに思い出が必要だと回答したのは20%~40%であり,70代で多かった。実際に思い出を記入したのは20%~40%であり,やはり70代が多かった。
 TALE尺度8項目について,因子数を3因子に指定して因子分析(再尤法,プロマックス回転)を行った結果,落合・小口(2013)と同様の因子構造が得られた(自己継続機能,行動方向づけ機能,社会的結合機能)。TALE尺度3因子を従属変数,自分が書くエンディングノートにおける思い出項目の必要性の有無と年代を独立変数とした分散分析を行った結果,TALE尺度の全てにおいて必要性の主効果が有意であり,思い出が必要だと答えた群は必要ない群よりも有意に得点が高かった。思い出が必要ない理由として「過去は人それぞれの心にとどめておけばよいと思うから」「過去は過去で残しておく必要はない」「たいした思い出がない」などであり,不必要群は自伝的記憶の機能を必要とせず過去肯定が低い傾向が示唆された。
※本研究はJSPS科研費16K04314の助成を受けた。