[PD17] 中学生の知能観が確率学習における内発的動機づけと達成目標に及ぼす影響
キーワード:知能観, 内発的動機づけ, 達成目標
問題と目的
学習者が持つ知能観は,Dweck&Master (2008)の知能理論では実体的知能観と増大的知能観に分けられる。実体的知能観は自分の能力がある程度固定されているという考え方で,失敗するとネガティヴな情動が喚起されるため,学習する上で適応的ではないとされる。一方,増大的知能観は自分の努力次第で能力を高めることができるという考え方である。確率学習における図表に対する苦手意識はネガティヴな情動であり,知能観が影響を及ぼしていると考えられる。本研究では,中学校の数学の授業で「場合の数」を習う際,知能観が動機づけと図表に対する苦手意識に及ぼす影響について,事前の「場合の数」の知識と事後テストの成績の関係から考察する。
手続き
研究参加者 東京都内の公立中学校に通う2年生83名(男子40名,女子43名)。なお,欠損値がある1名を分析から除外し,82名の分析を行なった。
材料 ①事前テスト(3題):順列課題,組合せ課題1・2(2題)。事前テストは小学校算数「場合の数」で習う内容で構成した。各々6点満点。②知能観(3項目):藤井・上淵(2010)の3項目「私は一定の知能を持って生まれてきており,それを変えることは実際にはできない」「私の中で,知能はほとんど変えることのできないものだと思う」「新しいことを学ぶことはできても,基本的な知能は変えられない」を用いた。③確率学習における内発的動機づけと図表に対する苦手意識尺度(8項目:Table1)④事後テスト:学校が実施した単元末テストで,知識・技能(基礎問題)と考え(応用問題)から成る。100点満点。
結果と考察
まず,③の確率学習における内発的動機づけと図表に対する苦手意識尺度の因子分析結果を示す(Table 1)。第一因子を内発的動機づけ,第二因子を図表に対する苦手意識と名付けた。
次に,AMOSを用いた共分散構造分析の結果をFigure 1に示す。順列課題から知識と考えに正のパス係数が認められた(各々 .22, p< .01; .28, p< .05)。すなわち単元学習前に小学6年生で習う順列課題の得点が高かった生徒は,単元末テストの基本問題の得点も高かった。
知能観から確率学習に対する内発的動機づけに有意な正のパス係数および知能観から図表に対する苦手意識に有意傾向の正のパス係数が認められた(各々 .22, p <.05; .24, p< .10)。つまり,賢さは変わりにくいと考え,実体的知能観を持つ生徒は,確率の学習にやる気をもって取り組む一方で,図表に対する苦手意識も高い傾向にあった。
また,中学校で「場合の数」を習う前から図表に対する苦手意識が高い生徒は,数学の授業で教授された後の試験の応用問題の「考え」の得点が低い傾向にあった(-.16, p< .10)。すなわち,応用問題に正答するには,樹形図や表,頂点を結ぶ図など,小学校の「場合の数」で学習した図表を用いて解く力が必要だと考えられる。なお,知識や技能の基礎問題は,苦手意識の影響を受けていなかった。応用問題を解けるようになるには,図表に対する苦手意識を克服するとよいだろう
さらに,小学校で習う順列課題と組合せ課題は,確率学習に対する内発的動機づけや苦手意識に有意なパスが出なかった。小学校で習ったならべ方と組合せ方の成績は,やる気や苦手意識には影響しないことが示された。
学習者が持つ知能観は,Dweck&Master (2008)の知能理論では実体的知能観と増大的知能観に分けられる。実体的知能観は自分の能力がある程度固定されているという考え方で,失敗するとネガティヴな情動が喚起されるため,学習する上で適応的ではないとされる。一方,増大的知能観は自分の努力次第で能力を高めることができるという考え方である。確率学習における図表に対する苦手意識はネガティヴな情動であり,知能観が影響を及ぼしていると考えられる。本研究では,中学校の数学の授業で「場合の数」を習う際,知能観が動機づけと図表に対する苦手意識に及ぼす影響について,事前の「場合の数」の知識と事後テストの成績の関係から考察する。
手続き
研究参加者 東京都内の公立中学校に通う2年生83名(男子40名,女子43名)。なお,欠損値がある1名を分析から除外し,82名の分析を行なった。
材料 ①事前テスト(3題):順列課題,組合せ課題1・2(2題)。事前テストは小学校算数「場合の数」で習う内容で構成した。各々6点満点。②知能観(3項目):藤井・上淵(2010)の3項目「私は一定の知能を持って生まれてきており,それを変えることは実際にはできない」「私の中で,知能はほとんど変えることのできないものだと思う」「新しいことを学ぶことはできても,基本的な知能は変えられない」を用いた。③確率学習における内発的動機づけと図表に対する苦手意識尺度(8項目:Table1)④事後テスト:学校が実施した単元末テストで,知識・技能(基礎問題)と考え(応用問題)から成る。100点満点。
結果と考察
まず,③の確率学習における内発的動機づけと図表に対する苦手意識尺度の因子分析結果を示す(Table 1)。第一因子を内発的動機づけ,第二因子を図表に対する苦手意識と名付けた。
次に,AMOSを用いた共分散構造分析の結果をFigure 1に示す。順列課題から知識と考えに正のパス係数が認められた(各々 .22, p< .01; .28, p< .05)。すなわち単元学習前に小学6年生で習う順列課題の得点が高かった生徒は,単元末テストの基本問題の得点も高かった。
知能観から確率学習に対する内発的動機づけに有意な正のパス係数および知能観から図表に対する苦手意識に有意傾向の正のパス係数が認められた(各々 .22, p <.05; .24, p< .10)。つまり,賢さは変わりにくいと考え,実体的知能観を持つ生徒は,確率の学習にやる気をもって取り組む一方で,図表に対する苦手意識も高い傾向にあった。
また,中学校で「場合の数」を習う前から図表に対する苦手意識が高い生徒は,数学の授業で教授された後の試験の応用問題の「考え」の得点が低い傾向にあった(-.16, p< .10)。すなわち,応用問題に正答するには,樹形図や表,頂点を結ぶ図など,小学校の「場合の数」で学習した図表を用いて解く力が必要だと考えられる。なお,知識や技能の基礎問題は,苦手意識の影響を受けていなかった。応用問題を解けるようになるには,図表に対する苦手意識を克服するとよいだろう
さらに,小学校で習う順列課題と組合せ課題は,確率学習に対する内発的動機づけや苦手意識に有意なパスが出なかった。小学校で習ったならべ方と組合せ方の成績は,やる気や苦手意識には影響しないことが示された。