[PD35] 数学に関する知識の遷移に関する研究
キーワード:数学, 知識, 高校生
問題と目的
数学の学習において,正しい知識を多く獲得していることは,新たな概念を理解することや問題解決において重要である。そもそも,数学に関する知識の研究は,国内外を問わず広く多くの研究が行われてきた。Rittle-Johnson(2017)によると,数学に関する知識の研究では,数学に関する概念的知識と手続き的知識,手続き的柔軟さの関係性や知識獲得を促進するような教授・学習デザインについて検討されてきた。一方で,数学の知識がどのような類型を有するのか,また数学の知識がどのように遷移するのかを検討した研究は少ない。特に,異なる数学の内容における知識が,どのように関連および遷移するのかを検討した研究は見当たらない。そこで,本研究では高校生を対象として,異なる内容の数学の知識,特にベクトルと数列の知識を類型化した上で,どのように遷移するのかを検討した。
方 法
対象者:首都圏にある私立中高一貫校A校(偏差値60程度の上位校)に在籍する高校1年生172名を対象とした。対象者は,すべてA校中等部からの内部進学者であり,中学3年生の時に数学Ⅰ・Aを学習している。
調査内容:①ベクトルに関する概念的知識と手続き的知識,知識の柔軟さの測定問題(14問)と,②数列に関する概念的知識と手続き的知識,知識の柔軟さの測定問題(17問)を尋ねた。①と②の問題は,数学Bの検定教科書(俣野・河野, 2012)や参考書(チャート研究所, 2016),教科用指導書(坪井, 2013)を基に,筆者が作成した。概念的知識の測定問題は,すべて教科書において公式や数学の性質として扱われている内容から構成した。手続き的知識の測定問題は,教科書の基本例題レベルの問題であり,少ない手続き的知識で解決することができる問題から構成した。知識の柔軟さの測定問題は,教科書の章末で学習する応用例題レベルの問題や日常生活の事象をモデルとした問題から構成した。
手続き:①を2017年10月,②を2017年12月に実施した。筆者が,A校の数学の授業時間に調査を行った。調査は集団自記式で行われ,①と②の実施時間は,それぞれ回答と回収を合わせて35分程度であった。
結果と考察
まず,①,②それぞれについて,階層的クラスタ分析(ユークリッド距離・ウォード法)を行い,それぞれの知識を類型化した。得られたデンドログラムと解釈可能性から,①,②それぞれについて,知識高群と中群,低群が得られた。
次に,①の類型から②の類型への遷移を求めた(Figure)。遷移した人数について,カイ二乗検定行ったところ,遷移した人数について,有意な偏りが認められた(χ^2 (4)=19.8,p<.01,V=.244)。
数学に関する知識の遷移の特徴を明らかにするために,残差分析を行った。その結果,ベクトルに関する知識低群について,数列に関する知識低群に遷移する人数が有意に多く,数列に関する知識中群に遷移する人数が有意に少ないことが明らかとなった。また,ベクトルに関する知識高群について,数列に関する知識高群に遷移する人数が有意に多く,数列に関する知識低群に遷移する人数が有意に少ないことが明らかとなった。
以上から,ベクトルと数列という,異なる数学の学習内容に関する知識の遷移について,有意な特徴が明らかとなった。具体的には,ベクトルの知識を多く有する学生は,数列に関する知識も多く有し,逆にベクトルの知識が少ない学生は,数列に関する知識も少なくなることが示された。このことは,数学に関する知識に獲得について,類似した学習内容の知識だけではなく,異なる学習内容の知識も獲得しておく必要性と重要性を示している。今後は,数学に関する知識の遷移の個人差要因(e.g., 動機づけ)を含めて,より詳細に検討していく必要があるだろう。
数学の学習において,正しい知識を多く獲得していることは,新たな概念を理解することや問題解決において重要である。そもそも,数学に関する知識の研究は,国内外を問わず広く多くの研究が行われてきた。Rittle-Johnson(2017)によると,数学に関する知識の研究では,数学に関する概念的知識と手続き的知識,手続き的柔軟さの関係性や知識獲得を促進するような教授・学習デザインについて検討されてきた。一方で,数学の知識がどのような類型を有するのか,また数学の知識がどのように遷移するのかを検討した研究は少ない。特に,異なる数学の内容における知識が,どのように関連および遷移するのかを検討した研究は見当たらない。そこで,本研究では高校生を対象として,異なる内容の数学の知識,特にベクトルと数列の知識を類型化した上で,どのように遷移するのかを検討した。
方 法
対象者:首都圏にある私立中高一貫校A校(偏差値60程度の上位校)に在籍する高校1年生172名を対象とした。対象者は,すべてA校中等部からの内部進学者であり,中学3年生の時に数学Ⅰ・Aを学習している。
調査内容:①ベクトルに関する概念的知識と手続き的知識,知識の柔軟さの測定問題(14問)と,②数列に関する概念的知識と手続き的知識,知識の柔軟さの測定問題(17問)を尋ねた。①と②の問題は,数学Bの検定教科書(俣野・河野, 2012)や参考書(チャート研究所, 2016),教科用指導書(坪井, 2013)を基に,筆者が作成した。概念的知識の測定問題は,すべて教科書において公式や数学の性質として扱われている内容から構成した。手続き的知識の測定問題は,教科書の基本例題レベルの問題であり,少ない手続き的知識で解決することができる問題から構成した。知識の柔軟さの測定問題は,教科書の章末で学習する応用例題レベルの問題や日常生活の事象をモデルとした問題から構成した。
手続き:①を2017年10月,②を2017年12月に実施した。筆者が,A校の数学の授業時間に調査を行った。調査は集団自記式で行われ,①と②の実施時間は,それぞれ回答と回収を合わせて35分程度であった。
結果と考察
まず,①,②それぞれについて,階層的クラスタ分析(ユークリッド距離・ウォード法)を行い,それぞれの知識を類型化した。得られたデンドログラムと解釈可能性から,①,②それぞれについて,知識高群と中群,低群が得られた。
次に,①の類型から②の類型への遷移を求めた(Figure)。遷移した人数について,カイ二乗検定行ったところ,遷移した人数について,有意な偏りが認められた(χ^2 (4)=19.8,p<.01,V=.244)。
数学に関する知識の遷移の特徴を明らかにするために,残差分析を行った。その結果,ベクトルに関する知識低群について,数列に関する知識低群に遷移する人数が有意に多く,数列に関する知識中群に遷移する人数が有意に少ないことが明らかとなった。また,ベクトルに関する知識高群について,数列に関する知識高群に遷移する人数が有意に多く,数列に関する知識低群に遷移する人数が有意に少ないことが明らかとなった。
以上から,ベクトルと数列という,異なる数学の学習内容に関する知識の遷移について,有意な特徴が明らかとなった。具体的には,ベクトルの知識を多く有する学生は,数列に関する知識も多く有し,逆にベクトルの知識が少ない学生は,数列に関する知識も少なくなることが示された。このことは,数学に関する知識に獲得について,類似した学習内容の知識だけではなく,異なる学習内容の知識も獲得しておく必要性と重要性を示している。今後は,数学に関する知識の遷移の個人差要因(e.g., 動機づけ)を含めて,より詳細に検討していく必要があるだろう。