[PE35] 文章理解の構成・統合モデルにおける読者の価値判断の影響
キーワード:物語文, 構成・統合モデル, 3つの心的表象
問題と目的
構成・統合モデル(Van Dijk & Kintsch, 1983)では読解が成立するために,3つのレベルで心的表象が形成されると仮説する。①表象構造レベルでは,文章の字面や,単語間の関係を表象する。②テキストベースレベルでは,文章を命題単位で表象して,意味的な真偽判断が可能になる。③状況モデルレベルでは,文章が表す世界や出来事を表象する。処理は,①から③へと進み,③に到達すれば読解したといえる。
Fletcher & Chrysler(1990)は,表象レベルの区別を実験的に検証した。品物の金銭的な価値順位を表す文章を読ませた後に,再認テストを実施した。テストは,3つの表象レベルに対応して作成されており,[①>②>③]の順で誤答が多かったという。
本研究は,読者の品物に対する価値判断が,文章の表す価値順位と異なるときにも,Fletcher & Chrysler (1990)と同等の結果が得られるのかをどうか調べる。
方 法
実験参加者 大学生42名(18~20歳)。
実験計画 2要因の参加者間計画であった。要因は,①呈示文が表す5つの品物の価値と,それらの品物に対する読者の価値判断との一致度2水準(一致,不一致)と,②再認テストの種類3水準(表象構造,テキストベース,状況モデル)だった。6条件に7名ずつ割り当てた。
呈示文 Table1を使用した。この文は,川崎(2014)の図1.2(p.8)を参考に作成した。5つの品物の金銭的な価値順序を含意しており,価値の高い順に[花束≧ハンカチ>ぬいぐるみ≒キーホルダー>ソックス]であった。
手続き 事前テストで,5つの品物に価格の順位をつけてもらった。「ぬいぐるみ」が1位と答えた人を不一致条件に,「ぬいぐるみ」が3位または4位と答えた人を一致条件にした。本実験では,全参加者にTable 1の呈示文を,パワーポイントで一文につき7秒間ずつ呈示して黙読してもらった。次に,3つの再認テスト(Table 2)のうち,いずれか1つを受けてもらった。
結果と考察
6つの条件ごとに,不正解だった人数の割合(%)をFigure 1に示す。一致条件では,すべての再認テストで不正解者がなかった。不一致条件で,3つの再認テストに差があるかどうかを調べるために,[正解/不正解]の人数をクロス集計してカイ二乗検定を適用した。すると,有意差が認められた(χ2(2,N=21)=6.83, p<.05)。表層構造レベルに対応する再認テストで不正解者の人数が多くなるという結果は,Fletcher & Chrysler (1990)と一致する。次に,読者の価値判断の影響を検討するために,表層構造の再認テストに着目して,[一致/不一致]と[正解/不正解]とをクロスして人数を集計した。フィッシャーの直接確率を適用したところ,5%水準で有意差が認められた。他方,テキストベースと状況モデルの再認テストでは差が認められなかった。この結果から,品物の価値に対する読者の判断と,文が示唆する価値とが乖離するほど,誤りが多くなるといえる。そして,読者の価値判断は表層構造レベルに対してより大きな影響を与えると推察できる。
引用文献
Fletcher,C.R., & Chrysler, S.T. (1990). Surface forms, textbases, and situation models: Recognition memory for three types of textual information. Discourse Processes, 13, 175-190.
川崎惠里子 (2014). 文章理解のモデル 川崎惠里子(編) 文章理解の認知心理学-ことば・からだ・脳(pp.1-26)誠信書房
Van Dijk, T.A., & Kintsch, W. (1983). Strategies of discourse comprehension. New York: Academic Press.
構成・統合モデル(Van Dijk & Kintsch, 1983)では読解が成立するために,3つのレベルで心的表象が形成されると仮説する。①表象構造レベルでは,文章の字面や,単語間の関係を表象する。②テキストベースレベルでは,文章を命題単位で表象して,意味的な真偽判断が可能になる。③状況モデルレベルでは,文章が表す世界や出来事を表象する。処理は,①から③へと進み,③に到達すれば読解したといえる。
Fletcher & Chrysler(1990)は,表象レベルの区別を実験的に検証した。品物の金銭的な価値順位を表す文章を読ませた後に,再認テストを実施した。テストは,3つの表象レベルに対応して作成されており,[①>②>③]の順で誤答が多かったという。
本研究は,読者の品物に対する価値判断が,文章の表す価値順位と異なるときにも,Fletcher & Chrysler (1990)と同等の結果が得られるのかをどうか調べる。
方 法
実験参加者 大学生42名(18~20歳)。
実験計画 2要因の参加者間計画であった。要因は,①呈示文が表す5つの品物の価値と,それらの品物に対する読者の価値判断との一致度2水準(一致,不一致)と,②再認テストの種類3水準(表象構造,テキストベース,状況モデル)だった。6条件に7名ずつ割り当てた。
呈示文 Table1を使用した。この文は,川崎(2014)の図1.2(p.8)を参考に作成した。5つの品物の金銭的な価値順序を含意しており,価値の高い順に[花束≧ハンカチ>ぬいぐるみ≒キーホルダー>ソックス]であった。
手続き 事前テストで,5つの品物に価格の順位をつけてもらった。「ぬいぐるみ」が1位と答えた人を不一致条件に,「ぬいぐるみ」が3位または4位と答えた人を一致条件にした。本実験では,全参加者にTable 1の呈示文を,パワーポイントで一文につき7秒間ずつ呈示して黙読してもらった。次に,3つの再認テスト(Table 2)のうち,いずれか1つを受けてもらった。
結果と考察
6つの条件ごとに,不正解だった人数の割合(%)をFigure 1に示す。一致条件では,すべての再認テストで不正解者がなかった。不一致条件で,3つの再認テストに差があるかどうかを調べるために,[正解/不正解]の人数をクロス集計してカイ二乗検定を適用した。すると,有意差が認められた(χ2(2,N=21)=6.83, p<.05)。表層構造レベルに対応する再認テストで不正解者の人数が多くなるという結果は,Fletcher & Chrysler (1990)と一致する。次に,読者の価値判断の影響を検討するために,表層構造の再認テストに着目して,[一致/不一致]と[正解/不正解]とをクロスして人数を集計した。フィッシャーの直接確率を適用したところ,5%水準で有意差が認められた。他方,テキストベースと状況モデルの再認テストでは差が認められなかった。この結果から,品物の価値に対する読者の判断と,文が示唆する価値とが乖離するほど,誤りが多くなるといえる。そして,読者の価値判断は表層構造レベルに対してより大きな影響を与えると推察できる。
引用文献
Fletcher,C.R., & Chrysler, S.T. (1990). Surface forms, textbases, and situation models: Recognition memory for three types of textual information. Discourse Processes, 13, 175-190.
川崎惠里子 (2014). 文章理解のモデル 川崎惠里子(編) 文章理解の認知心理学-ことば・からだ・脳(pp.1-26)誠信書房
Van Dijk, T.A., & Kintsch, W. (1983). Strategies of discourse comprehension. New York: Academic Press.