日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE50] マインドフルネスが本来感に与える影響

目標志向性(競争)との関係に着目して

西野華乃弓1, 佐柳信男2 (1.山梨英和大学, 2.山梨英和大学)

キーワード:マインドフルネス, 本来感, 目標志向性

問題と目的
 マインドフルネスとはKabat-Zinn(1990)によると「今ここでの経験に評価や判断を加えることなく能動的に注意を向ける」という一種の心理状態である。マインドフルである場合,思考や感情を自分自身や現実を直接反映したものとして体験し解釈するのではなく,それらを心の中で生じた一時的な出来事として捉えるため(Teasdale et al., 2002),過去の経験から未来を予測する傾向が低いとされる(Csikszentmihalyi, 1990; Deci & Ryan, 1985; Kabat-Zinn, 2005)。更にマインドフルネス介入の結果,脳の灰白質が増加したなど, 脳の神経細胞に働きかけることが明らかになっており(Hölzel et al., 2011)マインドフルネスストレス低減法 (Segal, 2007)の介入により, 鬱などの症状が改善すると報告されている。
 マインドフルネスは本来感と関連していることも報告されている(相馬,2013)。本来感とは自分自身に感じる自分の中核的な本当らしさの感覚の程度のことであり,Well-beingとの高い相関がある(伊藤・児玉,2005)。しかし,マインドフルネスがどのようなメカニズムで本来感を高めるのかを検討している研究は見あたらない。
 本研究ではマインドフルネスが目標志向性を媒介して本来感に影響を与えているとの仮説を検討する。具体的にはマインドフルネスが低い時,高い評価を得ることを重視して他者と比較競争する遂行目標が高くなり本来感は低くなると予想される。逆にマインドフルネスが高い場合,目標志向性が競争や評価から生じる遂行目標ではなく,好奇心やチャレンジから生じる熟達目標が高くなり,そのことにより本来感が高くなると予想される。

方  法
 調査対象:A県B市の私立大学に通う学生を対象に質問紙調査を行い,欠損がなかった53名(男性10名, 女性43名, 平均年齢20.03歳, SD=0.96)の回答を分析に用いた。
 使用尺度:マインドフルネスを測定するMAAS-J(佐柳・市川,2011),本来感尺度(伊藤・児玉,2005), 目標志向性尺度(光浪,2010)の3尺度を用いた。目標志向性尺度は熟達目標, 遂行接近目標, 遂行回避目標の下位尺度からなる。

結果と考察
 各尺度のクロンバックα係数はMAAS-Jが.87,本来感尺度が.87,目標志向性尺度の下位尺度はそれぞれ遂行回避が.90,遂行接近が.76, 熟達目標が.88だった。
 尺度間の相関係数をTable 1に示した。マインドフルネスは本来感と正の相関だったが,全ての目標志向性と負の相関だった。マインドフルネスが熟達目標と負の関係だったことは予想と反する。
 つぎに,本来感を目的変数とした重回帰分析を行なった(Table 2)。マインドフルネスは単相関とほぼ等しい値で本来感に正の影響を与えていると示唆された。一方,熟達目標は本来感と有意な正の関係だったが,遂行接近と遂行回避は有意な関連ではなかった。
 マインドフルネスが熟達目標と負の相関を示したこと,重回帰分析で目標志向性を投入してもマインドフルネスの効果量がほとんど下がらなかったことと,遂行接近と遂行回避目標が本来感と有意な関連でなかったことから,マインドフルネスが目標志向性を媒介して本来感に影響を与えるとの本研究の仮説は支持されなかった。
 熟達目標がマインドフルネスと負の相関を示したのは,大学生の授業における目標志向性は過去の学びや未来の評価などを想起させマインドフルな状態と相反するためかも知れない。一方,遂行目標が本来感と関連が弱かったことは,大学においてはさほど授業に対して遂行目標が喚起されないためだという可能性がある。
 一方,熟達目標が本来感と有意な正の関係であったことは興味深い。ただし,本研究はサンプルサイズが小さいので,一般化可能性については慎重に考えるべきだろう。