日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE66] 保護者との情動交流が小学生の無気力感に与える影響

回答パターンからの検討

牧郁子 (大阪教育大学)

キーワード:小学生, 無気力感, 情動交流

目  的
 近年実施された小学生・中学生を対象とした調査結果で,日本の子どもは欧米の子どもよりも抑うつ得点が高いことが報告されている(傳田,2004)。こうしたことからも,子どもの抑うつは,現代の心理学において看過できない重要課題となっているといえる。こうした抑うつの予防としては,その前段階としての「無気力感」に着目し,発達段階によるメカニズムを明確化した上で,そのメカニズムに沿って介入することが有用と考える。これまで中学生における無気力感は,牧ら(2007)や牧(2011)によって,随伴性認知,コーピング・エフィカシー,思考の偏りといった変数から構成されることが確認されている。中学生は具体的操作期から形式的操作期への移行時期にあたり,行動と結果の随伴性判断がより現実的になる思春期(鎌原・樋口,1987; Weisz & Stipek,1982)であり,認知システムが劇的に変化する時期(中村,2014)でもある。一方小学生は,発達的に認知システムが十分成長していないことが予想され,中学生とは違う無気力感のメカニズムが考えられる。以上から牧(2016a)は,児童期の認知情動発達を鑑み,中学生における無気力感の構成要因と示唆されている随伴経験,非随伴経験,コーピング・エフィカシー,思考の偏りに,保護者との情動交流を加え,保護者との情動交流を基準変数,他変数を説明変数として,無気力感モデルの構築を試み,その妥当性を検証した。そこで本研究では,保護者との情動交流と無気力感との関係性が,回答パターンの分析からも認められるかどうか検討するため分析を行った。

方  法
【調査協力者】
 大阪府・滋賀県の小学生4年生~6年生1556名を対象に,調査を行い,分析可能な1534名(男子=802名,女子=732名;4年生= 502名,5年生=533名,6年生=499名;平均年齢10.84歳,SD= 0.89)を対象に検討を行った。
【調査用紙】児童用・情動交流尺度(牧,2016b)・児童用・随伴経験尺度(牧,2015)・児童用・コーピング・エフィカシー尺度(牧,2015)・児童用・思考の偏り尺度(牧,2015),小学生用の無気力感尺度(笠井ら,1995)を無記名式で実施した。

結果と考察
 Ward法によるクラスター分析を行った結果,3クラスターに分類された(Figure 1)。さらに,保護者との情動交流の下位尺度(ポジティブ情動の送受信・ネガティブ情動の子ども送信・ネガティブ情動の保護者受信),コーピング・エフィカシー,思考の偏り,随伴経験,非随伴経験,無気力感におけるクラスター間の平均値の違いを一要因分散分析で検討したところ,全ての指標において,3クラスター間の有意差が認められた。
 Cluster 1(N= 756)は,いずれの指標も平均値付近といった結果となり,また人数も最多であることから,本研究の対象者における平均的な傾向を反映した群と考えられる。Cluster 2(N= 305)は,保護者との情動交流の各3因子,コーピング・エフィカシー,随伴経験が他のクラスターより有意に高く,思考の偏り,非随伴経験,無気力感が有意に低い結果となり,無気力感の低い子どもたちの特徴を反映した群と考えられる。一方Cluster 3(N= 473)はCluster 2とは逆に, 保護者との情動交流の各3因子,コーピング・エフィカシー,随伴経験が他のクラスターより有意に低く,思考の偏り,非随伴経験,無気力感が有意に高い結果となり,無気力感の高い子どもたちの特徴を反映した群と考えられる。
 以上から,無気力感と保護者との情動交流の関係性が,回答パターンの分析からも認められた。

付  記
本研究は日本学術振興会・科学研究費・基盤研究(C)「小学生における無気力感メカニズムと教師介入プログラムの検討」(課題番号25380927)の助成を受けて実施された