[PG12] 幼児は過去のドラマ遊び体験をどのように描くのか(2)
ドラマ遊び体験と描出内容・描出技法の関連性
Keywords:描画発達, 経験, ナラティブ
目 的
子どもが自らの体験を表現するとき,その体験と表現にはどのような関係があるのか。本研究では幼児が絵を描くことによって体験をふりかえる過程に焦点をあてる。リュケは,子どもが時間経過のある物語を二次元的に描写することに着目し,その技術的側面について認知表象発達の視点から分類した。しかし,描画が体験を表現するものだとすると,描かれたものはその技法だけでなく,内容にも注目すべきだろう。内田・石黒(2017)では,描画を分析する分類カテゴリーとして描出内容と描出技法の両方を考慮した分類基準を提案した。本研究ではこの指標を用いて実際にドラマ遊び体験後の幼児の描画を分類し,一連のドラマ遊びの進行に伴う,幼児が描いた絵の描出内容と描出技法の推移を検討した。
方 法
1) データ:札幌市の私立幼稚園(学校法人東学園美晴幼稚園)の預かり保育時間に報告者らによって準備実行された,約3ヶ月で一つのドラマを半即興的に参加者が共同創作していく「プレイショップ」内のドラマ遊び活動場面とその直後の描画活動場面のビデオ,フィールドノーツ,描かれた絵(総数66枚)。2) 参加者:11名の幼児(年長男児1名・年長女児4名・年中男児2名・年中女児4名),ファシリテーターとしてドラマ中に役割を持つ大学院生と大学研究者が3名,子どもたちのケアに関わる幼稚園教諭1名とボランティア学生が各回数名,スーパーバイザーの大学研究者1名が参加。3) プレイショップ:アイスブレイク,その後のドラマ遊びを予示する紙芝居の読み聞かせ,ドラマ遊び,描画,(報告)からなる。プレイショップの思想的系譜と手法についてはIshiguro(2017)を参照のこと。今回「魔法のランプ」の劇遊びが取り上げられ,主要キャラクター(主人公,ランプの精,魔法使い)を大人が演じた。7週に渡って子どもたちはオリジナル劇を大人と共に作り上げ,その内の6週には「遊んだことを家の人に知らせよう」という教示に従って描画が描かれた。
結 果 と 考 察
1) ドラマ遊び体験と描出内容の関連性:幼児11名によって描かれた全66枚(1人1枚)の描画を描出内容の分類指標(内田・石黒,2017)に基づいて分類し,Table 1を得た。ドラマ遊びに関連した絵(A)と,無関連な絵(B)を描いた子の数を週毎に二項検定をしたところ,すべての回においてドラマ遊びに関連した絵(A)の方が有意に多かった (有意水準5%)。このことはドラマ体験に焦点化した絵を描いた子が多かったことを示す。さらに体験に関係した絵(A)の中で,体験した物語を描いた絵(A1)と事実のみを描いた絵(A2)の数を確認すると,1回目と2回目ではA2が有意に多かったが,その後は有意差がなくなった(有意水準5%)。このことは,初めはドラマに出現した要素を描くだけだったものが,ドラマの進行と共に体験した物語(意味)を描こうとするようになった可能性を示唆する。
2) ドラマ遊び体験と描出技法の関連性:描出技法(内田・石黒,2017)のドラマ遊び回毎の出現数を示したのがTable 2である。技法毎に有意水準5%で二項検定を行ったところ,「視点取り」では,すべての回で特定の対象に焦点化する絵(a1)が俯瞰的視点の絵(a2)よりも有意に多かった。また,言語的説明が併記されていたかどうか(b)では,2 回目のみ言語的説明がない絵が有意に多かった。描かれた顔の表情(c)では1回目と3回目に描き分けない絵が有意に多かったが,2回目と4回目以後では差がなくなった。画面構成(d)では,2回目までは画面を区切らない絵が有意に多かったが,3回目から有意差がない。以上,技法は3回目あたりから変化が見られ,体験した物語(A1)を描く子が増えたことと連動しており,顔の表情の描き分けなど,物語を表現するための技法が使われたことによると考えられる。
引用文献
Ishiguro, H. (2017) Collaborative play with dramatization: An afterschool programme of“Playshop” in a Japanese early childhood setting. In Bruce, T., Hakkarainen, P. & Bredikyte, M. (Eds.), Routledge International Handbook of Play in Early Childhood. Taylor & Francis/Routledge, 274-288.
G・H・リュケ(1927/1979)子どもの絵 須賀 哲夫 監訳出版社名:金子書房出版
付 記
データ収集に際して東学園美晴幼稚園及びプレイショップ関係者の皆様の御協力に心より感謝致します。本研究は科研費JP17K18056の助成を受けた
子どもが自らの体験を表現するとき,その体験と表現にはどのような関係があるのか。本研究では幼児が絵を描くことによって体験をふりかえる過程に焦点をあてる。リュケは,子どもが時間経過のある物語を二次元的に描写することに着目し,その技術的側面について認知表象発達の視点から分類した。しかし,描画が体験を表現するものだとすると,描かれたものはその技法だけでなく,内容にも注目すべきだろう。内田・石黒(2017)では,描画を分析する分類カテゴリーとして描出内容と描出技法の両方を考慮した分類基準を提案した。本研究ではこの指標を用いて実際にドラマ遊び体験後の幼児の描画を分類し,一連のドラマ遊びの進行に伴う,幼児が描いた絵の描出内容と描出技法の推移を検討した。
方 法
1) データ:札幌市の私立幼稚園(学校法人東学園美晴幼稚園)の預かり保育時間に報告者らによって準備実行された,約3ヶ月で一つのドラマを半即興的に参加者が共同創作していく「プレイショップ」内のドラマ遊び活動場面とその直後の描画活動場面のビデオ,フィールドノーツ,描かれた絵(総数66枚)。2) 参加者:11名の幼児(年長男児1名・年長女児4名・年中男児2名・年中女児4名),ファシリテーターとしてドラマ中に役割を持つ大学院生と大学研究者が3名,子どもたちのケアに関わる幼稚園教諭1名とボランティア学生が各回数名,スーパーバイザーの大学研究者1名が参加。3) プレイショップ:アイスブレイク,その後のドラマ遊びを予示する紙芝居の読み聞かせ,ドラマ遊び,描画,(報告)からなる。プレイショップの思想的系譜と手法についてはIshiguro(2017)を参照のこと。今回「魔法のランプ」の劇遊びが取り上げられ,主要キャラクター(主人公,ランプの精,魔法使い)を大人が演じた。7週に渡って子どもたちはオリジナル劇を大人と共に作り上げ,その内の6週には「遊んだことを家の人に知らせよう」という教示に従って描画が描かれた。
結 果 と 考 察
1) ドラマ遊び体験と描出内容の関連性:幼児11名によって描かれた全66枚(1人1枚)の描画を描出内容の分類指標(内田・石黒,2017)に基づいて分類し,Table 1を得た。ドラマ遊びに関連した絵(A)と,無関連な絵(B)を描いた子の数を週毎に二項検定をしたところ,すべての回においてドラマ遊びに関連した絵(A)の方が有意に多かった (有意水準5%)。このことはドラマ体験に焦点化した絵を描いた子が多かったことを示す。さらに体験に関係した絵(A)の中で,体験した物語を描いた絵(A1)と事実のみを描いた絵(A2)の数を確認すると,1回目と2回目ではA2が有意に多かったが,その後は有意差がなくなった(有意水準5%)。このことは,初めはドラマに出現した要素を描くだけだったものが,ドラマの進行と共に体験した物語(意味)を描こうとするようになった可能性を示唆する。
2) ドラマ遊び体験と描出技法の関連性:描出技法(内田・石黒,2017)のドラマ遊び回毎の出現数を示したのがTable 2である。技法毎に有意水準5%で二項検定を行ったところ,「視点取り」では,すべての回で特定の対象に焦点化する絵(a1)が俯瞰的視点の絵(a2)よりも有意に多かった。また,言語的説明が併記されていたかどうか(b)では,2 回目のみ言語的説明がない絵が有意に多かった。描かれた顔の表情(c)では1回目と3回目に描き分けない絵が有意に多かったが,2回目と4回目以後では差がなくなった。画面構成(d)では,2回目までは画面を区切らない絵が有意に多かったが,3回目から有意差がない。以上,技法は3回目あたりから変化が見られ,体験した物語(A1)を描く子が増えたことと連動しており,顔の表情の描き分けなど,物語を表現するための技法が使われたことによると考えられる。
引用文献
Ishiguro, H. (2017) Collaborative play with dramatization: An afterschool programme of“Playshop” in a Japanese early childhood setting. In Bruce, T., Hakkarainen, P. & Bredikyte, M. (Eds.), Routledge International Handbook of Play in Early Childhood. Taylor & Francis/Routledge, 274-288.
G・H・リュケ(1927/1979)子どもの絵 須賀 哲夫 監訳出版社名:金子書房出版
付 記
データ収集に際して東学園美晴幼稚園及びプレイショップ関係者の皆様の御協力に心より感謝致します。本研究は科研費JP17K18056の助成を受けた