[PG20] 児童の認知発達の理解と授業改善(1)
ワーキングメモリの発達的様相
キーワード:ワーキングメモリ, 児童理解, 授業改善
目 的
小学校の場合,児童の在校時間のおよそ6割が授業を受ける時間である。その時間内で児童に求められることは,既有の知識・技術を想起・活用しながら,新規の知識・技術を獲得するという認知的な活動である。これまで,児童理解は情意的側面への注目が重視される傾向にあり,認知的側面に関しては発達を前提としてカリキュラム構成がなされているという認識のもと,個別の課題の有無以外で,実践上着目されることはほとんど無いと言える。しかし,子どもたちの認知の働きの様相を理解することは児童理解として重要であり,それに基づいた授業構成を可能にする。ここでは,特に授業内での情報の授受において重要な役割を果たすと考えられるワーキングメモリ(以下,WM)に着目し,一般的な小学校の児童集団におけるWMの発達的様相を探り,教師の児童理解及び授業改善の手がかりを得たいと考えた。
方 法
対象者 首都圏のA地域の公立小学校及びB地域の公立小学校の1学年から6学年児童623名。
実施時期 2014年5月~9月。
WMの測定 樋口他(2001)による児童版集団式リーディングスパンテスト(RST)リスニングスパンテスト(LST)を使用した。
文章読取課題 ワーキングメモリの影響をみる課題として,岸・上田(2010)を参考に,「お話文」と「連絡文」の2種類の文章を作成し,それぞれ読み取らせた後,文中のいくつかの単語を再生させた。「お話文」は直後再生,「連絡文」は3時間後の遅延再生。
手続き クラスごとに担任に依頼して実施した。RST→LST→お話文→連絡文の順で行った。
結 果
WM及び文章読取課題の成績の学年比較 RSTとLST,2種類の文章読取課題の成績について,学年を要因にして分散分析を行った。その結果,全てにおいて学年差が有意であった(順に,F(5,617)=52.08,F(5,617)=52.35,F(5, 617)=74.23,F(5,613)=60.12,いずれもp<.01)。多重比較(Tukey法,p<.05)を行ったところ,RST:1年<2,3年<4,5,6年,LST:1年<2,3年<4,5年<6年,お話文:1年<2年<3,4,5,6年,連絡文:1年<2年<3年<4,5,6年であった(Figure 1)。
WMの成績と文章読取課題の成績の関連 学年を1~3年(低学年)と4~6年(高学年)にまとめ,RSTとLSTと2つの文章読取課題の相関を求めた。その結果,いずれも0.2~0.4の正の有意な相関であった。そこで,RSTとLSTを独立変数,文章読取課題を従属変数にして重回帰分析を行った。低学年,高学年ともにRSTとLSTの成績は各文章読取課題に有意に寄与した。低学年ではお話文ではRST,連絡文ではLSTの寄与が大きかったが,高学年では両課題ともにRSTの寄与が大きかった。
考 察
これまでも指摘されてきているが,本研究の結果でも,WMは学年進行とともに得点が上昇し,発達的な差があることが把握された。
「お話文」「連絡文」とLST,RSTの関連をみたところ,低学年・高学年ともに,RST,LST が寄与していることが示されたことから,児童の学習にWMが影響していると考えられる。また,低学年では,課題によってRST ,LST の寄与の仕方に違いが見られたことから,両者の機能が発達的に変化することも示唆された。
今後,WMの調査結果をもとに,児童の認知発達の理解に基づいた指導の観点を明らかにしたいと考える。
小学校の場合,児童の在校時間のおよそ6割が授業を受ける時間である。その時間内で児童に求められることは,既有の知識・技術を想起・活用しながら,新規の知識・技術を獲得するという認知的な活動である。これまで,児童理解は情意的側面への注目が重視される傾向にあり,認知的側面に関しては発達を前提としてカリキュラム構成がなされているという認識のもと,個別の課題の有無以外で,実践上着目されることはほとんど無いと言える。しかし,子どもたちの認知の働きの様相を理解することは児童理解として重要であり,それに基づいた授業構成を可能にする。ここでは,特に授業内での情報の授受において重要な役割を果たすと考えられるワーキングメモリ(以下,WM)に着目し,一般的な小学校の児童集団におけるWMの発達的様相を探り,教師の児童理解及び授業改善の手がかりを得たいと考えた。
方 法
対象者 首都圏のA地域の公立小学校及びB地域の公立小学校の1学年から6学年児童623名。
実施時期 2014年5月~9月。
WMの測定 樋口他(2001)による児童版集団式リーディングスパンテスト(RST)リスニングスパンテスト(LST)を使用した。
文章読取課題 ワーキングメモリの影響をみる課題として,岸・上田(2010)を参考に,「お話文」と「連絡文」の2種類の文章を作成し,それぞれ読み取らせた後,文中のいくつかの単語を再生させた。「お話文」は直後再生,「連絡文」は3時間後の遅延再生。
手続き クラスごとに担任に依頼して実施した。RST→LST→お話文→連絡文の順で行った。
結 果
WM及び文章読取課題の成績の学年比較 RSTとLST,2種類の文章読取課題の成績について,学年を要因にして分散分析を行った。その結果,全てにおいて学年差が有意であった(順に,F(5,617)=52.08,F(5,617)=52.35,F(5, 617)=74.23,F(5,613)=60.12,いずれもp<.01)。多重比較(Tukey法,p<.05)を行ったところ,RST:1年<2,3年<4,5,6年,LST:1年<2,3年<4,5年<6年,お話文:1年<2年<3,4,5,6年,連絡文:1年<2年<3年<4,5,6年であった(Figure 1)。
WMの成績と文章読取課題の成績の関連 学年を1~3年(低学年)と4~6年(高学年)にまとめ,RSTとLSTと2つの文章読取課題の相関を求めた。その結果,いずれも0.2~0.4の正の有意な相関であった。そこで,RSTとLSTを独立変数,文章読取課題を従属変数にして重回帰分析を行った。低学年,高学年ともにRSTとLSTの成績は各文章読取課題に有意に寄与した。低学年ではお話文ではRST,連絡文ではLSTの寄与が大きかったが,高学年では両課題ともにRSTの寄与が大きかった。
考 察
これまでも指摘されてきているが,本研究の結果でも,WMは学年進行とともに得点が上昇し,発達的な差があることが把握された。
「お話文」「連絡文」とLST,RSTの関連をみたところ,低学年・高学年ともに,RST,LST が寄与していることが示されたことから,児童の学習にWMが影響していると考えられる。また,低学年では,課題によってRST ,LST の寄与の仕方に違いが見られたことから,両者の機能が発達的に変化することも示唆された。
今後,WMの調査結果をもとに,児童の認知発達の理解に基づいた指導の観点を明らかにしたいと考える。