日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

2018年9月17日(月) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG36] 科学的認知欲求尺度の作成

項目反応理論とベイズ推定を用いて

中村大輝1, 雲財寛#2 (1.町田市立七国山小学校, 2.日本体育大学大学院教育学研究科)

キーワード:理科, 項目反応理論, ベイズ推定

問題と目的
 平成29 年3月に公示された新学習指導要領では,学力の三本柱の一つとして「学びに向かう力・人間性」が明記されており(文部科学省,2018),学校教育においても非認知能力を育成する重要性が認識されている。付随して,非認知能力の測定方法も検討されている(e.g. Borghans, Duckworth, Heckman & Ter Weel, 2008)ものの,それらの評価方法は学校教育における学習内容を考慮したものではなく,教育効果を検討する際にそのまま使用できるとは限らない。本研究は,非認知能力の中でも認知欲求(Cacioppo & Petty, 1982)に着目し,理科学習における認知欲求(科学的認知欲求)を測定することを目的とする。非認知能力の中でも特に認知欲求に着目するのは,新学習指導要領に示された各教科における「学びに向かう力・人間性」の具体目標と,類似度が高い概念であると判断したためである。本研究では,科学的認知欲求の尺度構成や精度について検討した先行研究(雲財・中村,2017)を基盤とし,追加のサンプルを収集した上でパラメータを更新する。そして,精度や妥当性を再確認すると共に,新たに水平テストを開発することを目的とする。なお,本研究における科学的認知欲求は,「観察・実験を通した一連の問題解決に自ら取り組み,それを楽しむ内発的な傾向」と定義する。

研究方法
質問紙 (2)以下の尺度は,科学的認知欲求尺度の基準連関妥当性を検討するために使用した。
(1)科学的認知欲求尺度 前述の定義に沿って,問題解決の各過程に対応した15項目を作成した。
(2)知的好奇心尺度 西川・雨宮(2015)の2因子12項目を使用した。
(3)理科における批判的思考尺度 木下・山中(2014)の4因子23項目を使用した。(1)~(3)の計50項目を使用して,5件法の質問紙を作成した。
調査時期と協力者 2017年6月~9月に公立小学校の児童2校346名,公立中学校の生徒5校1162名の計1508名を対象に,作成した質問紙を用いた調査を行った。

結果と考察
 予備分析 点双列相関に基づきQ5を除外した後,項目反応理論(IRT)適用の前提条件となる一次元性,局所独立性,潜在単調性を確認した。確認に際しては順に,確認的因子分析,YenのQ3統計量の分析,モッケン尺度分析を用いた。
 段階反応モデル IRTの1種である段階反応モデル(GRM)に基づき,各項目に対する識別力パラメータ(a),困難度パラメータ(b1~b4)をベイズ推定した。ベイズ推定に際しては,長さ21000のチェインを5つ発生させ,バーンイン期間を1000とし,ハミルトニアンモンテカルロ法によって得られた100000個の乱数で事後分布を近似した.結果を表に示す。
 精度の検討 尺度全体のテスト情報量の合計は77.90であり,特性値θ = - 3.1 ~ 3.1の範囲に73.96(95%)が存在していた。これらの特性値の範囲では,測定の標準誤差も低く抑えられている。よって,本尺度は幅広い特性値の被験者を精度よく測定可能できると解釈できる。
 妥当性の検討 次に,各因子の項目平均と,科学的認知欲求の特性値の相関係数をベイズ推定した。その結果,理科における批判的思考尺度の1因子(健全な懐疑心)を除く,すべての因子との間に予想された正の相関が見られ(EAP推定値:0.66~0.76),基準連関妥当性が確認された。
 水平テストの開発
次に,困難度に基づき質問項目を分割した所,右図に示す精度の等しい2つのテストが得られた。