[PH16] 幼児の誤信念課題・推論に及ぼす“意味ある文脈”設定の影響
キーワード:幼児, 誤信念課題, 意味ある文脈
問題と目的
本研究は,「誤信念課題(予定調和されていない事象を見た人が,その“事象”を他人がどう推定するか-“予定調和”事象と推定するか,自らが見た“非予定調和”事象と推定するか-を問う課題)において設定される“状況”がその推論に影響を与えるのではないか」という問題の検討である。これまで,ピアジェの保存課題において変形の意図の明示が保存判断に影響を及ぼすという結果が得られている(上野 塚野 横山1986)。意図を明示せず変形するという実験者の行為自体が,被験者の判断のバイアスとなっていると考えられる。誤信念課題でも,「予期しない」のだからその事象(自分の予想と異なっている事象)に何か特別の意味があると考えるのは,自然なことであろう。本研究は,「誤信念課題」を用い,従来型の「予期せぬ中身課題」とその状況(予想と異なる)になっているのは理由があるという“意味のある文脈”で課題が提示される「予期はしなかったがそうなるのは意味がある課題」との正答率の比較し,幼児の誤信念課題・推論に及ぼす“意味ある文脈”設定の影響をさぐることを目的とする。
方 法
1.被験児:保育園年中・長児-「意味有群」(21名),「意味無群」(19名)。
2.課題内容:(1)確認課題(被験児が問題となる課題手続きについて理解できているかの確認課題-両群共通)「傷バン」の箱を見せ,1)この中に何が入っているか(⇒実物確認)。2)〔1)を受けて〕「この箱をその場にいない友達に見せたら何が入っていると言うと思う?」と問う(他者信念質問)。(2)誤信念課題2種 1)ポッキー問題;『ポッキー』が入っていることが自明と思っている箱が「空」となっている事態で他者信念質問をする〔意味あり群;実験者が先に食べてしまったので「空」だという「空」事態の説明が付与〕。2) ミルキー問題;『ミルキー(アメ)』が入っていることが自明と思っている缶に「ヘビ」(おもちゃ)が入っている事態で他者信念質問をする〔意味有群;実験者が被験児を驚かそうとわざと「ヘビ」を入れておいたという「ヘビ」事態の説明が付与〕。両者とも「他者信念」の前に「既知度」「自己信念」(何が入っていると思うか)が問われ,後に「事実確認」(今その缶の状態はどうか)」が問われる。
3.倫理的配慮:本研究は新潟県立大学設置の倫理委員会における審査を受け,承認を得て実施した。
結果と考察
1.確認課題:両群とも「傷バン」の箱を見ると「何が入っているか」認知でき(有群-20/21 無群-19/19),殆どの幼児が他者信念も群差なく正答している(有群-16/21 無群-17/19)。
2.誤信念課題:(1)ポッキー問題;1)ポッキーの箱を見ると,群差なく何が入っているかわかっている(既知度;有群-19/21 無群-19/19 自己信念;有群-16/21 無群-18/19)。2)「他者信念」質問の場合,意味有群は“ポッキー”と答える者が多く,意味無群は“空”と答える者が多い。両群に「現実判断」に差はなく(空反応;有群-21/21 無群-18/19),また前者に“空”の理由を問うと,約80%(17/21)が正しく答えている。(2)ミルキー問題;1)ミルキー缶の認知度はある(有群-15/21 無群-11/19)が,“ポッキー”の箱が「空」だったことから,両群とも「自己信念」質問では「空」反応が多い(空反応;有群-16/21 無群-15/19)。その点では両群とも“統制”されている。2)「他者信念」質問となると,意味あり群は“ミルキー(アメ)”と答える者が多く,意味なし群は“ヘビ”と答える者が多い。両群に「現実判断」に差はなく(ヘビ反応;有群-20/21 無群-19/19),また前者に“ヘビ”の理由を問うと約40%(8/21)が正しく答えているが,同数が“わからない”と答えている。この問題の方が説明が難しいのかもしれない。
確認課題やポッキー自己信念問題の高い正答率,ミルキー自己信念問題におけるポッキー問題の影響から,幼児は「何が問われているか」は理解できているし,「そうなるのは意味がある状況」があれば,その事態を考慮して推論している。何が問われているのかについての明確な意味が,他人の推理への忖度度合いを支えていくことになろう。
本研究は,「誤信念課題(予定調和されていない事象を見た人が,その“事象”を他人がどう推定するか-“予定調和”事象と推定するか,自らが見た“非予定調和”事象と推定するか-を問う課題)において設定される“状況”がその推論に影響を与えるのではないか」という問題の検討である。これまで,ピアジェの保存課題において変形の意図の明示が保存判断に影響を及ぼすという結果が得られている(上野 塚野 横山1986)。意図を明示せず変形するという実験者の行為自体が,被験者の判断のバイアスとなっていると考えられる。誤信念課題でも,「予期しない」のだからその事象(自分の予想と異なっている事象)に何か特別の意味があると考えるのは,自然なことであろう。本研究は,「誤信念課題」を用い,従来型の「予期せぬ中身課題」とその状況(予想と異なる)になっているのは理由があるという“意味のある文脈”で課題が提示される「予期はしなかったがそうなるのは意味がある課題」との正答率の比較し,幼児の誤信念課題・推論に及ぼす“意味ある文脈”設定の影響をさぐることを目的とする。
方 法
1.被験児:保育園年中・長児-「意味有群」(21名),「意味無群」(19名)。
2.課題内容:(1)確認課題(被験児が問題となる課題手続きについて理解できているかの確認課題-両群共通)「傷バン」の箱を見せ,1)この中に何が入っているか(⇒実物確認)。2)〔1)を受けて〕「この箱をその場にいない友達に見せたら何が入っていると言うと思う?」と問う(他者信念質問)。(2)誤信念課題2種 1)ポッキー問題;『ポッキー』が入っていることが自明と思っている箱が「空」となっている事態で他者信念質問をする〔意味あり群;実験者が先に食べてしまったので「空」だという「空」事態の説明が付与〕。2) ミルキー問題;『ミルキー(アメ)』が入っていることが自明と思っている缶に「ヘビ」(おもちゃ)が入っている事態で他者信念質問をする〔意味有群;実験者が被験児を驚かそうとわざと「ヘビ」を入れておいたという「ヘビ」事態の説明が付与〕。両者とも「他者信念」の前に「既知度」「自己信念」(何が入っていると思うか)が問われ,後に「事実確認」(今その缶の状態はどうか)」が問われる。
3.倫理的配慮:本研究は新潟県立大学設置の倫理委員会における審査を受け,承認を得て実施した。
結果と考察
1.確認課題:両群とも「傷バン」の箱を見ると「何が入っているか」認知でき(有群-20/21 無群-19/19),殆どの幼児が他者信念も群差なく正答している(有群-16/21 無群-17/19)。
2.誤信念課題:(1)ポッキー問題;1)ポッキーの箱を見ると,群差なく何が入っているかわかっている(既知度;有群-19/21 無群-19/19 自己信念;有群-16/21 無群-18/19)。2)「他者信念」質問の場合,意味有群は“ポッキー”と答える者が多く,意味無群は“空”と答える者が多い。両群に「現実判断」に差はなく(空反応;有群-21/21 無群-18/19),また前者に“空”の理由を問うと,約80%(17/21)が正しく答えている。(2)ミルキー問題;1)ミルキー缶の認知度はある(有群-15/21 無群-11/19)が,“ポッキー”の箱が「空」だったことから,両群とも「自己信念」質問では「空」反応が多い(空反応;有群-16/21 無群-15/19)。その点では両群とも“統制”されている。2)「他者信念」質問となると,意味あり群は“ミルキー(アメ)”と答える者が多く,意味なし群は“ヘビ”と答える者が多い。両群に「現実判断」に差はなく(ヘビ反応;有群-20/21 無群-19/19),また前者に“ヘビ”の理由を問うと約40%(8/21)が正しく答えているが,同数が“わからない”と答えている。この問題の方が説明が難しいのかもしれない。
確認課題やポッキー自己信念問題の高い正答率,ミルキー自己信念問題におけるポッキー問題の影響から,幼児は「何が問われているか」は理解できているし,「そうなるのは意味がある状況」があれば,その事態を考慮して推論している。何が問われているのかについての明確な意味が,他人の推理への忖度度合いを支えていくことになろう。